第三百八十話 戦うゲスト様-愛妻戦士ナンダカナー-
僕らの戦士ナンダカナ~♪
―前回より・聖地平原―
「……何のつもりだ、木戸!部下の邪魔をするのがリーダーの勤めか!?」
背後からの不意打ちで零華を切り伏せた木戸に、如月は憤慨する。しかし木戸はヘラヘラした態度で如月を嘲笑うような態度を崩そうとはしない。
「別にいいじゃねえか、そう怒るなよ。手隠師団は暗殺部隊だ、騎士団じゃねえ。正々堂々なんてやってられるかっつー話だろ。そもそもお前、あのまま戦ってたら間違いなく死んでたしよォ、その意味じゃ寧ろ感謝するのがスジなんじゃねーか?」
「いや、正直な所余計な世話だ。俺は一度狙いを定めた獲物はきっちり自らの手で仕留めるよう心がけている。例え自分の命を犠牲にするような手段しか残されていないとしても、妥協が許されないならそれを実行しよう。それが暗殺者の果たすべき責任だからだ」
「へぇ、そうかよ。相変わらず仕事熱心だな……だがお前、まだ妹の仇討ちを諦めてねぇんだろ?」
「……昔の話だ。最も有力な犯人候補が死んだ今、俺の仇討ちは達成されぬまま潰えたに等しい」
「だが『まだ"最も犯人と思われる奴"が死んだだけ』でもあるよな?本音じゃスッキリしてねぇんだろ?」
「……」
「妹の仇、てめえで探し出して殺すなり死を確かめるなりしなきゃ死にきれねーって、顔に書いてあるぜ?」
「……何故解った?」
「お前は妹絡みの嘘や隠し事がマジで下手糞だからなぁ、俺ほどのカリスマにもなりゃスグに理解んのよ。オラ、そういうわけだからとっとと休め。お前体質で回復遅えんだから、モタモタしてっと殺られっぞ」
「……ふん」
如月が憎らしげな視線を投げかけその場から姿を消すのを確認した木戸は、改めて倒れ伏したまま動かない零華に軽度の魔術で傷を癒し意識を回復させ、同時に四肢を拘束した状態で乱雑にひっくり返す。
「……っ!?」
「おー、生きてやがったか。よし、それでいい……」
「身体が、動かない……あんた、一体何のつもり!?」
意識を取り戻した零華は、両眼を赤く光らせながら毅然とした態度で抵抗する。RK細胞の作用により傷は完治し疲労も吹き飛んではいたが、それでも手足が動かないのではどうしようもない。
「安心しろよ。素直にイイ子してりゃ手荒な真似はしねぇ。ただ取引をしようと思ってな?」
「取引……?」
「そうだ……お前、俺の女になれ」
「……はぁ?」
零華は一瞬自分の耳を疑った。RK細胞によって強化された聴力ならば、空耳狙いでもない限り聞き間違いなどは無いはずだ。だがだとすれば、この性別さえ分からない長毛猫の出来損ないのような木戸という奴の発言は度を超して常軌を逸しているのではないか。
「ん、聞こえなかったか?ならもう一度言うぞ。お前、俺の女になれ。丁度お前みたいなのが欲しいと思ってたしなぁ。喜べ、何不自由ない生活をさせてやるぞ。何だってお前の思うままだ。金も、食も、遊興も、命さえも……当然断るわけ――「冗談じゃない。お断りよ」―なッ!?」
木戸は自らの耳を疑った。
「おい……お前、今何つった?」
「あら、聞こえなかった?じゃあもう一度言うわ。あんたなんかの女になるなんて冗談じゃない。何を幾ら積まれたって願い下げよ」
「ふん、強気だな……見込んだ通りだ。それでこそ調教のし甲斐がある」
「ちょっとー、話聞いてたー?何で私があんたの女になる前提で話進んでんのー?」「フフ……嫌よ嫌よも好きの内、だろ?」
「いや無いから。有り得ないから。その俗語自体が『縦に裂けるキノコに毒はない』くらい有り得ないから」
「安心しろ、キノコの毒如きで怯む俺じゃねぇ」
「聞いてないし。ともかくあんたの女になるくらいなら死んだ方がマシよ」
「あくまで断り続ける気か……なら仕方ねぇな、強引に犯してやるぜ。性別問わずどんな奴も快楽漬けにしてやれば大概言いなりだからな」
「え、何その典型的な間違いまくりな性知識!?」
「心配するな。いきなり挿入なんて無粋な真似はしない。この俺だけが使えるテクニックで隅から隅まで溶かち尽くちてやる」
「どこの夜を往く双子のエージェントよあんたはっ!?無駄に滑舌まで再現してバカじゃないの!?」
「んっふっふ~、本当に活きがいいなお前は。益々犯してみたくなっ――」
満面の笑みでズボンに手をかける木戸の肩を、背後から何者かが軽く叩く。
「何だオイ?今いい所なんだから邪魔すん――ぐぶらっ!?」
振り向きざまに木戸の顔面へ叩き込まれる、横薙ぎの旋回式裏拳打ち。その威力は凄まじく、(現時点では性別不詳だが)少女のように可憐で華奢な体格の木戸は20m近く吹き飛ばされてしまう。同時に不完全であった木戸の拘束魔術が解除され、零華の四肢は自由を取り戻す。
「ん、軽くはたくつもりがあんな吹っ飛んじまったか」
殴り飛ばされた先で動かない不埒者の方へ目を遣りながらそう言うのは、殴り飛ばした張本人にして零華の夫である強化人間・亜塔(そろそろ本名公開したいけどまだ獣道本編プレイしてない読者への配慮の為やむなく姓表記せず)であった。
「亜塔……」
「すまん零華、遅くなった。例のキチったワン公がしぶとくてな……」
起き上がった零華を優しく抱きしめる亜塔の背後には、禁忌丸によって跡形もなく惨殺された小桜の亡骸が転がっていた。
「いいわよ、別に。助けられたのには変わりないし、絶対来てくれると思ってたもん」
「だがすぐに行ってやれなかったのは俺の落ち度だ。で、あのナベ猫に何かされたか?怪我とかねぇか?」
「怪我ならもう治ったし、あいつにだって特に何もされてないから大丈夫。もう一人で歩けるし、戦える」
「そうか……なら良かった。只でさえ公式が不穏な流れ作ってる上に、俺もいつ何に仕立て上げられるか分かったもんじゃねぇからな……お前の事が心配で心配で仕方ないんだよ。
さて、あとはアレだけか……悪ぃな零華、チト野暮用が出来ちまった。あとからそっち行くわ」
零華を優しく離した亜塔は、未だに気絶したまま動かない木戸に向かってゆっくりと歩き出す。
「え、あぁ、うん。じゃあまた後でね」
「おう、すぐ終わる」
夫の言う"野暮用"が何なのか大体予想のついていた零華は、"例えそうなったとしても当然だし特に気に留めることもないだろう"との考えでその場から立ち去ろうとした―のだが、直後に亜塔が木戸を蹴りで叩き起こして以降の光景を図らずもその場で見せつけられてしまうこととなる。
未遂に終わったとはいえ唯一無二の愛妻を犯されかけた亜塔の怒りは凄まじく、武器不使用とは言え彼が木戸に振るった暴力の数々は詳細な描写が躊躇われるほどに凄惨を極めた。具体的に挙げれば手足とその指を圧し折られてはねじ切られ、歯や肋骨をも容赦なく破砕。鼻を潰し目玉を抉り舌を引き抜かれ、『女だから野郎程も痛かねぇだろ!?』という言いがかり同然の理由で股間を何度も蹴り上げられ(実際には女性であろうが股間へ衝撃を受けると凄まじい苦痛となるらしい。『睾丸が無い為女に金的蹴りは無意味』というのは嘘八百の俗説なのである)たりと、亜塔による制裁は凄まじいの一言に尽きた(それ以上に何より質が悪いのは見て呉が如何にも女性的で一見少女にしか見えない木戸が実は男であったという事であろう。因みに木戸はこの女性的な容姿を根底から忌み嫌っており、軽くでも女のようだと言われただけで激怒する)。
図らずも激高した夫による常軌を逸した残虐行為を目の当たりにしてしまった零華は、その時初めて夫に対し恐怖心を抱いたという。
「(ありがとう、アイル。あんたの教えが言葉じゃなく心で理解できた……)」
STOP NTR!STOP 不倫・浮気ネタ!
次回、瀬戸の蛮行により何か大変な事に!