第三十八話 痴女巨人と策を練る六人
六人の逆襲が今始まる!
―前回より―
「さて」
ラクラの巨大化が止まった所を節目と見て外部へ繰り出した五人。
その中で最初に話を切り出したのは繁で、流れから自動的にリーダー扱いされている身としても何か言っておきたいのだろう。
「動物が巨大化する事で得られるメリットについてわかる者、挙手」
真っ先に手を挙げたのは香織だった。
「はい」
「よし、清水」
「補食動物等の外敵から襲われる危険が下がり、仮に襲われたとしても撃退が容易になります」
「そうだな。では他に何か、解る者は?」
続いて手を挙げたのは、ニコラ。
「はい」
「よしフォックス。言ってみろ」
「気候変動等、環境の変化への耐性や病原体・寄生虫等への抵抗力や免疫力が上がります」
「そうだな。よし次」
次に手を挙げたのは桃李である。
「はい」
「よっしゃ。小樽妹」
「前二人の述べた理由もあり、寿命が延びます」
「そうだな。よし、次」
『では』
妹に続いて羽辰も手を挙げる。
「よし、小樽兄」
『身体の体積に対して表面積が小さくなるため、体温が下がりにくくなり極地での活動も容易になるでしょう』
「全く持ってその通り。さて。そこで、だ」
繁は依然微動だにしないラクラを見つつ言う。
「ここまでで皆が言及してくれた事柄の逆を突けば奴を効率的に始末出来ると、俺はそう思う訳だよ」
「確かに、寧ろそうすべきですらあるよね」
「そうだろ? だから俺は考えた。大きさというアドバンテージをディスアドバンテージに変えちまえば良い。つまりは、奴の体温を徹底的に上げて熱中症にし、動きを鈍らせちまえばいい」
「成る程。確かに巨大で馬鹿な恒温動物相手でしたら、これ以上無く素晴らしい名案ですね」
「差し当たり、少々準備が要る。なるべく迅速に進めたい所だが――」
凄まじい音と共に、巨大な質量を持った物体が校舎を貫いた。
物体の正体とはつまるところ、巨大化したラクラの右足であった。
有り得る可能性は二つに一つ。
移動を始めたか、一行を踏み潰さんとしたか。
どちらにせよ、繁達にとって都合の悪い事態である事に変わりは無い。
「よし、作戦開始。桃李、コックローチの温度操作に制約や法則性はあるか?」
「射程距離は30mが限度ですが、ローチスリックを媒介にする場合距離は問題ありません」
「良し。んじゃ羽辰よ、お前さん妹から完全に分離出来るか?」
「破殻化前なら可能ですが」
「制限時間は?」
「状況にもよりますが、浮遊状態でなら少なくとも50分は確実でしょうね」
「浮遊状態での飛行速度と範囲は?」
「破殻化した桃李に匹敵します」
「良し。んじゃ次、ニコラ。お前には少し特殊な役割を任せる」
「特殊?」
「そうだ。医学博士として、開業医としての腕と知識が必要だ。奴の主要な動脈の位置を特定し、可能なら図示してくれ」
「あいさ。しかし図示か……そうなると紙と筆記用具と台座が要るのよねん」
「なら心配するな。筆記用具は俺のペンを使え。紙ならさっき理解準備室からくすねて来た霊長種の人体図鑑がある。台座は……こいつで足りるか?」
繁は破壊された引き戸の残骸を指差し言った。頷くニコラ。
「よっしゃ。んでラストは香織」
「待ってました」
「この状況下だが例のコンボは行けるか?」
「例の……あぁ、前に話してた奴?愚問だねぇ、この状況下であれ程度出来ずに今の繁の従姉妹なんて名乗れないよ」
「心強いな。良し、行動開始だ。各自配置に着こうぜ。ニコラ、動脈の配置図示を可能な限り手早く――」
「もう終わってるけど?」
「――流石開業医、仕事先が早いな。と、言う訳で桃李。その図を元に奴の主要な動脈のある部位に油を挿してやれ。挿し終えたら地上に戻り、安全地帯でそこの温度を風呂の湯かカイロ程度を目安に上げて維持してくれ。羽辰は桃李が温度操作をしている最中、奴の気を逸らしつつ可能なら攻撃を頼む。あとニコラもな。何、相手をイラつかせりゃ良いんだ」
「解りました」
『了解です』
「お任せあれ」
「んで香織、例の奴行けるんなら話は早え。桃李や羽辰やニコラに当たんねぇ様に例の奴を維持し続けてくれ」
「あいよ」
各自与えられた役目に移る中、指揮を取った繁自身もまた羽辰に加勢する形で作戦に参加する。
「待ってろ厨二病ビッチ馬鹿兎。兎が如何に崇高な生き物か、俺が教育してやる」
飛び立つ繁の脳裏に浮かんで居たのは、未だ生後間もなくつたない言葉しか話せない、幼い雄のスマトラウサギ。
何でそんなもんが思い浮かんだのか、厳密に説明できるものはおそらくこの場に居ない。
もしかしたら繁本人にも説明がつかないのかもしれない。
そしてまた、戦闘の勃発が昼飯前の時刻ということもあり、東ゾイロス高等学校に向けられる衆人の視線もすさまじいものであった。
繁側の会話文は音声回路に施された香織の魔術でどうにか誤魔化せていたが、流石に敵が巨大化するとは誰も想定していない。
桃李と羽辰に至っては、まさか見方だと思っていたラクラが裏切ったばかりか、その背景には自分はおろかクェインさえも知らない、馬鹿っぽい名前の女神が居るというのだから、益々予想外だった筈である。
更にその姿までも大幅に変わっているとあっては、もうやっていられない。
しかしそれでも『どんなに努力しても受け入れるしかない運命だってたまにはある』という、何所の誰が残したとも知らない言葉を胸に、五人は戦う。
眼前の、身長30mにまで巨大化した低脳ビッチを打ち倒すため、全力を賭すのである。
次回、破殻化繁が空に舞う!