第三百七十八話 戦うゲスト様-地上と地下の激戦-
地下施設で待ち受ける異形の生体兵器とは……
―第三百七十四話より・中央スカサリ学園地下―
「わばー!わばばー!」
「わらば!ばらわばう!」
「べあ!しべべ!しべあ!」
複数のマネキンをあれこれ(一応左右若しくは前後で対象になるようにとはいえ)出鱈目に組み合わせたような身体から節足・触手・翼・翅等が生えた異形の生体兵器"クワエミッサ・オブスクーリタース"は、鳴き声とも言語とも言い難い謎の音を出しながら、唯一絶対の主君に命じられるまま罪人―即ち王将達六人―に各々の方法で襲い掛かる。盲目ながらそれを補って余りある鋭敏な聴覚・嗅覚・触覚で獲物の位置を瞬時に特定する索敵能力と、体内に搭載された強靭かつ柔軟な筋肉によって自由自在に伸び縮みする強靭な肉体、更に体内へ共生させた菌類から得られる無尽蔵に等しい持久力。更には魔力への耐性もつけてあり攻撃系魔術も完全に無力化できる。
日光と乾燥を嫌うため湿った暗所での運用が前提となるのが難点だが、それらさえカバー出来てしまえばこの上なく頼り甲斐のある生体兵器。ただの魔術が使える民間人六人程度殺すのにそう時間は掛かるまい――エカセルスィはそう信じて疑わなかった。
だが実際のところ、この不気味で得体の知れない穴居生物の群れが王将達を仕留められていたかというとそんなことはなく、それどころか彼らは戦闘で優位に立つ事さえできていなかった。何故なら彼らは今や"ただの魔術が使える民間人"等ではなく、それぞれの体格や能力に見合った装備で身を固めており、クワエミッサに充分抵抗しうる戦闘能力を有していたからである。
「そいやー」
心愛が振るう杖から放たれる電撃(使用者の魔力をエネルギー源として発電したもの)がクワエミッサを焼き払い、
「せァッ!はッ!たッ!」
つばさは自らの手足(膝や膝から先)を覆うプロテクターにより打撃の度に爆薬を仕込んだ刺をクワエミッサの体内へ打ち込んでは爆破し、
「俺のつばさに手ェ出すな!」
奈々がそれを援護するかのように触手で抱えた多段式誘導弾発射筒から小指程の小型誘導弾を放ち応戦する。小指大と言ってもその破壊力は凄まじく、当たり所が良ければ一発で軽乗用車大の個体を仕留めもする。
「山下さん、しっかり掴まっていて下さいね!」
「大丈夫、私こういう時の安定感凄いから」
馬の下半身に蛇の下半身を巻き付け背中合わせに自動小銃を構え砲台と化した秋と星月は、互いの隙を補い会う抜群の連携で迫り来るクワエミッサの群れを迎撃する。共に背中合わせであり元々体力のある種族故か自動小銃以外にも刃物や榴弾砲等様々な武器を使い分けながら眼前の敵を蹴散らしていく。
「前へ!前へッ!前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へィッ!」
八本の腕にそれぞれ異なる刃物を持った王将の戦いは、派手な銃器を用いもせず、大規模な爆発や派手な電撃が伴うわけでもなかったが、その分他の誰よりも獰猛であり、ただひたすら"主の命令に従う"という事だけに特化している筈のクワエミッサに幽かながらも確実な"恐怖心"を植え付け圧倒していた。学生スポーツ誌がつけた『異形の優良学生』『四重双腕』等のキャッチコピーを体現する彼の姿が、そこにあった。
―前回より・聖地平原―
「ほう、彼が噂に名高き月光氏か……」
「はい。彼こそ元中央スカサリ学園理事長の鎗屋月光氏です。若き日は初・中等部生活指導員と高等部専門魔術科特殊魔術実習担当教諭の三役を兼任なさり、高等部時代に教え子であったダンパー現理事長が生涯に於ける至高の恩師と仰ぐ御方だとか」
「その後ダンパー氏が魔術教師として学園に舞い戻ってきた時には理事長をしていたんだっけっか」
敵陣へ突っ込み背中合わせのまま敵兵を打ち倒しながら、ランゴとオップスは昔話に花を咲かせる。
「で、その息子が鬼王氏だっけ。確か伝説と化している学生なんだよね」
「はい。生来の肉体派である彼は本学園への入学・進級・卒業の全てを己の武力のみで押し切った天才と言われていますね。反面学力は今も絶望的だとか」
「両極端だね。あるいは死んだ母親からの遺伝なのかもしれないけど……鬼王氏の卒業後は何をやっていたんだっけ?」
「はい。不確かな情報ですが……辞任後暫くは株と年金で食いつないでいた月光氏は息子・鬼王氏の卒業後、親子揃って死を装い出奔。世の裏側にて同志を募り、規模に反して民間人はおろか本職にさえ恐れられる強力な犯罪組織を造り上げたと言われています」
「それがあの八人組―鎗屋悪鬼衆というわけか」
「でしょうね。しかも驚くべきは、他の六人もフリサリダ出身者で本学園の卒業生或いは教員だったんですよ」
「ふぅむ、狙って集めたとしか思えないな……ところでオップス君」
「何です、ドライシスさん」
「ちょっとやけに身に覚えのある正体不明の嫌な気配が近付いてるんだけど、わかるかい?」
「えぇ、しっかりわかりますよ。そりゃあもう、息が詰まりそうなくらい」
「そうかい。じゃあ聞きたいんだけど……君としてはこの気配、何が放ってると思う?」
「何がって言われても……私が知ってる中だと、こういう気配放てる奴なんてただの一頭しかいませんよ」
次回、平原の戦いに"奴ら"が登場!?