第三百七十三話 戦うゲスト様-もう一つの戦い-
電話一本から始まる戦い。
―前回より―
「つ、捕まったって、まさか理事長の手先にですか!?」
「十中八九そうだろうな。電話口の相手は聞いたこともねぇような薄気味悪ィ女でよ、やけに丁寧な喋りで『反逆者プロドスィアは預かった。取り戻したきゃ学園地下へ来い』とかほざきゃあがんの。そんで途中から捕まってるらしいセルジスが必死で『罠だ。来るな』っつって割り込んでんだけど、女はそれが気に食わなかったんだろう。多分携帯ぶっ壊されたな、クソッタレ……」
「そ、それって、早く助けに行った方がいいんじゃあ……」
「そうは言うけどよぉつばさ、学園地下ったって極秘施設だぜ?どうやって探すんだよ」
「どうやってってお前、忘れたのか?屋伝先輩が抜けてきたルートを辿ればいいんだよ。ですよね、先輩?」
「いや、確かにそうなんだがそいつぁ無理な話だ」
「なんで?」
「逃げてくる最中化け物に追い回されてたっつったろ?奴ら、俺を捕まえも殺せもしねぇと理解った途端に仕掛けを作動させて俺を生き埋めにしようとしゃあがったのよ。まぁどうにか逃げ延びはしたから今ここでこうしてられるんだが、通路の方は崩れて原形留めちゃいねぇ」
「そうだったのか……」
「崩れちゃってたら通れないよね……何か他の方法を考えないと……」
一同は揃って頭を抱えた――が、その時。
「その点についてはご心配なく」
「プロドスィア先輩の居場所が特定できるかもしれないよ」
そう言ってきたのは、奇妙な機器を繋いだ携帯型液晶タブレット端末機を操作する秋と星月であった。
「セルジスの居場所が判る?そりゃ本当か?」
「えぇ。この『携帯電話特定装置』があれば可能かと」
「詳しい説明は長いし省きますけど、要するに着信履歴の番号から携帯電話の位置を割り出す装置ですね。屋伝先輩、携帯電話貸して頂けます?」
「よしきた」
「では失礼して……」
秋と山下は慣れた手つきで王将の携帯電話に装置のアダプタを繋ぎ、タブレット端末機を操作していく。
「しかし随分と手慣れてんな……」
「私ら結構逸れやすいんで、いつの間にかこういうもの作ったりとかしちゃうんですよー」
「しかも自作かよ。いや、そんな珍しくもねぇんだろうが…―「出ました、ここです」―おゥ、出たか。よし、急ぐぞ」
かくして六人はつばさの顔馴染みである店主の計らいで店の裏口からカラオケボックスを後にした。
―外―
「これから学園地下へ向かう。準備は――っ……」
ふと、王将は何か良からぬ気配を察したように押し黙る。彼を案じる後輩の言葉にも耳を貸さぬまま、彼は静かに言う。
「……もう嗅ぎ付けてんのかよ。流石だなぁ、祖母ちゃん」
その声に応じるように、物陰から王将はおろか心愛よりも小柄なウデムシ系外殻種が姿を現した。
「あんたこそ流石だねぇ、王将。その年齢であたしの擬態を見破るかい」
「特定に時間がかかっただけでもまだまだだろ……んで、何の用だよ?学校からの外出禁止令を破ってカラオケボックスに遊びに来てた俺らを家に連れ戻そうってのか?」
王将の言葉で自分達が重大な校則違反を犯している事を改めて自覚した五人の背筋がサッと凍りつく。だが王将の祖母だという人物の返答は、五人の予想斜め上を行っていた。
「はン、連れ戻しなんかするもんかい。法規を順守し、礼儀を忘れず、さりとて流されず常に己の意思を貫き通す"屋伝家の子"の手本のようなお前が自ら禁を犯すなんて、何か余程の譲れぬ事情があるんだろう?それはあたしだけじゃあない、親戚一同誰もが確信していることなのさ」
「なら尚更何の用だよ?まさか協力しようってのか?」
「あぁ、そうさ。頑張る孫の応援は年寄りの数少ない生き甲斐なんだ、萎びたババアにせめてエエカッコさしとくれ」
そう言って王将の祖母は孫にナンバープレートのついた鍵を手渡した。
「こいつは……ロッカーか何かの鍵かい?」
「そうさ。隣町の外れにある寂れたトランクルームのものだよ。しかもその鍵はちと特別でね、今のお前達が最も必要としているものへ通じる鍵穴だけに対応するようになっているんだ」
「へェ……そいつは面白え。ありがとうよ、祖母ちゃん」
「いいんだよ。皆が精一杯頑張ってくれさえすりゃそれであたしは満足さ。但し、何しようが無事に生きて帰って来るんだよ。もしこの中の誰かが死にでもしたら、あたしゃそん時はどこぞから屍術師を雇い入れてそいつの死体をゾンビにして完全にぶっ壊れるまでこき使ってやるからね」
「オウ、判ってらァ。俺は祖母ちゃんより先にゃ絶対ェ死なねーし、こいつらも死なせるようなヘマもしねぇ。お前らも、うちの祖母ちゃんの手前死んだら承知しねーぞ。分かったな?」
「「「「「はいッ!」」」」」
「んじゃ行くぞお前ら!先ずは祖母ちゃんに言われたトランクルームへ急ぐぞ!」
かくして隣町へ向かった六人は、件のトランクルームで鍵を使い中からそれぞれの体格や能力に見合った武器と四人乗り仕様で燃料の満たされたサイドカー付き大型二輪車を入手(運転は免許を持っていた王将が担当。種族柄飛行能力を持つ心愛とつばさは元々鈍足気味の奈々と星月を抱える必要が無くなり負担が軽減された)。
準備を整えた六人は、逆探知によって示された中央スカサリ学園の地下施設へ向かう。
「(頼むぜ……無事で居てくれよ、セルジス)」
次回、激戦のロコ・サンクトゥス平原に新手登場!?




