第三百七十話 戦うゲスト様-それぞれの動向:後編-
セルジスに助けられた王将は……
―第二百九十八話より・空知邸の寝室―
「ほン……んゴゴ……んッ、ンがくっ……」
ベッドに寝かせられた状態で手の平にさえ収まりきらないほどの大振りな肉団子を無我夢中に頬張るのは、中央スカサリ学園高等部西欧武術科三年S組所属の剣術部副将・屋伝王将。幼馴染みの手で地下施設から脱した彼は、道中でダンパーによって送り込まれた生体兵器の襲撃を受け負傷。
どうにか命辛々逃げ延びるも路地裏にて倒れ込み死にかけていたところを、偶然にも(学園から外出禁止令が出ていた事を失念しており外出していた)心愛と星月に発見され、二人の手で(単に近場だったというだけの理由で)つばさの家へと担ぎ込まれ寝室にて手当てを受け今に至る。
「どうですか?口に合います?」
「おう、美味えや。絶品だ。材料がいいってのもあるんだろうが、この味と食感は蜂系ならではって所か。お前さん、いい嫁やら母親んなるぜ」
「ありがとうございます。しかし吃驚しました。外出禁止令が出てるのに心愛と山下が家へやって来たかと思ったら、いきなり『裏道で倒れてた大きなカニを助けろ』なんて言われちゃって。何事かとドアを開けたら二人が必死に怪我した屋伝先輩を担いでるんですから」
「あぁ、俺もまさか後輩に助けられた挙げ句カニと間違われるとは思っても見なかったぜ」
「許したげて下さい、あいつ等もわざと間違えたんじゃないんです」
「わかってらぁ。大丈夫だ、安心しな。こんなナリじゃ種族間違われるのなんてザラだからよ」
「そうですか。でもこんな酷い怪我、一体何があったんです?交通事故とか?」
「いや、これが実は交通事故なんて生易しいもんじゃなくてな……よし、じゃあ話してやろう。俺が見聞きした全て――俺らの通う学園の正体を」
―別時刻・中央スカサリ学園理事長質―
「屋伝王将には逃げられたようで……」
「構いませぬ。あれだけの重傷を負ったのです、そうそう生き延びられはしますまい。それはそうとしてコーノン、デイパラはどうだ?」
「はッ。養分を吸収した花は既に蕾を経て実となりました。完熟に要する時間は長く見積もっても三時間程度かと」
「ふむ……ならばそろそろ始めねばならんな、進攻の準備を……」
―同時刻・CS社敷地内社長室―
「グジグジ、グジジジ、ググジィ」
「……そう、あのナマズがそんな事を……」
「
巨大蝿"セキュリティ・フライ"が独特な形をした口吻を震わせて発する軋んだ歯車のような声は、特殊な補聴器を着けたハルツにのみ敵地へ赴いた偵察兵の報告として耳に入っていた。
「グジグ、ジブジググ、ブグジググ」
「えぇ、分かったわ。此方も手筈通り事を進めるから、貴方もひとまず本隊に戻りなさい」
「グジッ」
滞空したままハルツに一礼したセキュリティ・フライは器用な手つき(?)で窓の施錠を自ら解除し両の前脚で丁寧に開け、そのまま静かに飛び去っていった――と、思わせて慌てて戻って来ては開けっ放しの窓をこれまた丁寧に閉め、申し訳なさそうに一礼。今度こそ静かに飛び去っていった。
「相変わらず礼儀正しい子達だわ、誰に似たのかしら」
ハルツがセキュリティ・フライの閉めた窓を一瞥した辺りで、ハルツは机に備わった固定電話の受話器を取り社内全体に向けて言い放つ。
「クロコス・サイエンスの全戦闘人員に告ぐ。直ちに進攻の準備をなさい」
『畏まりました』
『然し、何が始まるんです?』
「……終焉を彩る大仕事……最後の聖戦よ」
―約三十分後・異空間の拠点―
「――と言った具合に敵陣営がほぼ同時に戦争の準備を始めたので軽く暗示をかけました」
アダーラ大隊製作の映像に続く形で香織が言い放った一言は、班の合流に伴い一箇所に召集された異界の猛者達に衝撃を与えた。
「彼らは無自覚の内にある一点へ向かっていき、そこで思わせ振りに対峙するでしょう。そう仕組みましたから。そこで我々はその場所へ先回りし、戦に乱入するついでに放送を開始します。何か質問などはありますか?」
香織の問い掛けに、多くの者達が手を挙げた。
以下はそんな異界の猛者達の質問である。
「多可だ。放送開始と言うが我々は具体的に何をすればいい?」
「普通に戦ってくれて構いません」
「風間だが、今からラジオ宛ての投書とか書いていいか?」
「採用は保証されませんが、まぁどうぞ。書けたらメンバーの誰かに手渡して下さいね」
「アルティノです。戦場で生体兵器以外の敵を倒してもポイントは入りますか?」
「勿論入ります。相場は随時更新しますのでそちらを参照して下さい」
「アンズです。向こうの席に座っている小娘が目障りなので殺していいですよね?」
「エリニムでーす。向こうの席に座ってる忍者が鬱陶しいんだけど殺していいよね?」
「殺し合うのは勝手だけどせめて自分らの次元に帰ってからにしてね」
「エルクロイド兄です。タバスコはおやつに入りますか?」
「妹です。一味唐辛子もいいですか?」
「入ります。食べ物系は基本何を携行してても大丈夫です。ただし敵の攻撃には注意して下さいね」
「ミストロッドです。いい加減厨房に入れてくれません?」
「先週ラザニアが突然暴れ出して半壊したの忘れたんですか」
ゲストと香織の質疑応答はその後15分程続き、その中で様々な質問が飛び出した。そして三つの勢力は、フリサリダとヴラスタリの国境に位置する"ロコ・サンクトゥス平野"を目指して進み続ける。
嘗て二国が最後の決戦を繰り広げた場所として知られるこの広大な大地は、アンプタヴィ川なる大河とその支流によって充分な水源が確保されているにもかかわらず陸に生命の気配は殆ど見られないと言う奇妙な土地であった。
次回、遂に戦争開始!