第三百六十九話 戦うゲスト様-それぞれの動向:前編-
そして流れは最終決戦へ向かって動き出す
―前回より・CS社深奥部―
「申し訳御座いません、グゴン様……貴重な戦力を落命させ多大な損害を被ったこの責任、どのような処罰をも甘んじて受け入れる覚悟に御座います……」
相も変わらず画面向こうで顔しか映っていないグゴンに、ハルツは土下座の姿勢で謝罪する。監視カメラの管理権が自身にあるため今までの諸々が彼にばれていないにせよ、恐らくは容赦ない怒声や罵声を浴びせられた挙げ句、悲惨な方法で殺害されてしまうのだろうと、そう思っていた。
だが、そんなハルツの予想とは裏腹に、帰ってきたのは思いがけない返答であった。
『そうか……そいつは大変だったな……特に四凶の奴らやナメクジ小僧、単眼小娘なんぞはおめーにとっちゃマジモンの身内同然だったろうによォ』
これである。普段のグゴンからは想像も付かないほど温厚にして冷静、更には相手を口汚く罵りしつこく見下すような事もなく、どこか紳士的でもあった。ハルツはこれに酷く驚いたが、どんな態度だろうと相手はあのゴノ・グゴン。感情を表に出すと何を言われるかわかったものではないため驚愕は押し殺し無難な返答でやり過ごす。だが――
「ありがとうございます。確かに悲しくはありましたが、もう大丈夫ですのでご安心を。草葉の陰で見守る彼らの為にも、残存社員一同より一層聖戦の準備を―『まぁそう気負うな、慌てる事ぁ無ぇ』―(!?)」
最早超常現象に等しいグゴンの言動は尚も続く。経験則でこの巨獣は兎に角傲慢で利己的な性格であり、他人を労り労う等という考えなど持ち合わせていないのだと決めつけていたハルツが度肝を抜かれたのは言うまでもない。
『大丈夫だ、代替戦力なら手配できてるぜぇ。それもとびっきり強えのがな』
「そう、でしたか……お心遣い痛み入ります……」
『いいって事よォ。何だかんだ言っても俺とおめーの仲だからなぁ』
―同時刻・森林―
「~♪」
木々生い茂る森の中、色鮮やかな木の実や木切れを拾い集めるのは、亜麻色の長髪に整った顔立ちでスタイル抜群の美しい有角種――もとい"中央スカサリ学園高等部西欧武術科三年S組所属"の"剣術部部長兼主将"かつ"第1061代中央名誉学生"にして"秘宝回収隊のメンバー"である女学生ルラキ・カリストであった。
このように数々のやたら長ったらしい肩書きを持つ彼女は、他の秘宝回収隊メンバー共々生体兵器の襲撃を受け命からがら逃げ延びるも深い森の中で孤立。その後紆余曲折を経て森の中にある洞窟で暮らしながら救助を待ち続けている。
「~♪――はぁ……皆どうしてるかしら。きっと心配してくれているんでしょうね、何時まで経っても帰らないから……まぁ私だって今すぐにでも帰りたいんだけど――「すみません」―っ!?」
突如声をかけられたルラキは、思わず腰に挿していた剣を抜き身構える。慌てて辺りを見回したが、声の主らしき影はどこにも見られない。
「だ、誰っ!?どこにいるの!?」
「まぁ落ち着いて下さい。この通り私は貴女の目の前に居ますから」
必然的に気が立って攻撃的になってしまうルラキに対し、声の主は宥めの言葉をかけつつその姿を現した。
「申し訳ございません、怖がらせてしまったようですね。擬態術の解除を忘れてしまっていました」
やけに温厚な喋りをするその人物は、簡素な衣類を着て鳥類と思しき謎めいた頭骨を被った全身が黒い男であった。長身に対し不自然なまでに痩せこけたその体つきは、山火事で炭になった枝のようでもあった。
「貴方は一体……」
「申し遅れました、私の名はフルシャー。此度は我らが主より貴女様へ重要な文書をお渡しするよう言われて馳せ参じた次第にございます」
フルシャーと名乗った男は、懐から大きめの茶封筒を取り出しルラキに差し出した。
「はぁ……それはそれは、ご丁寧にどうもありがとうございます。しかし私宛に文書を寄越す貴方の主とは一体誰なのです?それに私は公には行方不明の筈、一体どうやって私の居場所を――って、居ない……」
ルラキはフルシャーに有りっ丈の疑問を投げかけようとしたが、言い終えるより前に彼は姿を消していた。
「……一体何だったと言うの?とりあえず戻ってこの文書とやらを読んでみようかしら」
採取作業もひと段落したところだし丁度いい暇つぶしにでもなるだろう。
そう思いながら洞窟への帰路を急ぐ彼女が封筒の中身―中央スカサリ学園の陰謀に関する諸々の事柄について克明に書き記した調査記録文書―を読んで絶句したのは言うまでもない。
―同時刻・警察署内にて―
「出てこないわねぇ……」
「出てこないですね……」
捜査で未確認超存在―学園とCS社の生態兵器―を追い続ける内にツジラジ製作陣クロコス・サイエンス襲撃班と遭遇し重要な情報を得るに至るも璃桜から『警察関係者らしい捜査過程で得た情報として公表し、その上でCS社を検挙すべき』と言われ、その後は専ら"警察関係者らしい捜査"を続けていた。
だがクロコス・サイエンスがツジラジ製作陣からの襲撃に対抗するために戦力を人里離れた地域と敷地内に集中させた為に生態兵器の目撃情報と被害は激減。更に学園とCS社が外部からの干渉を退けるべくあらゆる方法で封鎖を行った為に直接出向いて捜査に向かうということもできなくなり、挙句の果てに両組織のトップから警察上層部の一部へへ圧力がかけられてしまっていた。こうなると一介の刑事に過ぎない二人にとっては八方塞であり、打開策も思いつきようがない。
そこで二人は璃桜から言われた『過程の確立を受動的に待ち続ける』という案を実行に移していた。とは言っても二人のやっている事と言えば、パトロールや書類整理、取り調べ等で不正に走っている同僚や上司に手を出して適当に自滅させたりと、何時もと変わらない"仕事という名の暇つぶし"なのではあるが。
次回、逃げ出したあの男の行方は……




