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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
368/450

第三百六十八話 戦うゲスト様-決別-




懐を分かつ時……

―前回より・CS社敷地内―


「本当にすみません、助けて頂いたばかりかこんな事にまで付き合って頂いたりして……」

「いいって事よ。家族なんだからな、このぐれぇはやって当然さ」

「そうだとも。人並みに恵まれた生活を送ってたとは言え何やかんや苦労してきてんだ、我が儘の十や二十言った所でそうそう罰は当たるめぇ」


 あれこれと話し込んだ末、ひとまずツジラジの傘下で保護を受ける事となったケラスは、同時に裏で悪に走り民間人を犠牲に戦争の準備を進めるクロコス・サイエンスと懐を分かち敵対する決意をし、リューラとバシロの二人を連れて社長室へと向かっていた。


「本当お世話になります。本来ならこういった事は私一人で行くべきなのに……」

「いやだからいいっつってんだろ?そもそも―ついさっきまで部下やってたお前さんの前でこんな事言うのは気ィ引けっけど―あのハルツってのは上辺こそ気の優しいおっとりオバハン社長だが、上の奴の差し金であるにせよあそこまでの組織を自力で率いる奴だ。抜け目なく狡猾でなきゃ勤まるめぇ」

「あぁ。言っちゃ悪いがありゃ種族はマイアサウラでも腹の内四割ぐれーはトロオドンっつっても違和感ねぇくらいだ。身内は思い遣るんだろうが、離反者と知ったら何をされるかわかりゃしねぇ」

「……確かに、お二人の言う通りかもしれません。いえ、きっとお二人の仰有る事は妥当なのでしょう。それが何者かに強いられての不本意な行動であるにせよ、社長は悪の道に走り多くの人々の命を奪い、結果として"災厄"と化してしまった……それは紛れもない事実です。離反した以上何をされようと文句は言いません……抵抗はしますがね」

「へ、言うじゃねぇか。捌いた魚の腹から出た寄生虫が恐くて不眠症になってた奴とは思えねぇな」

「えぇ、それはもう。居候とは言え曲がりなりにも刻印術者の親類縁者と言えばそうなりますからね。魚のお腹の中にいる虫は今でも少し恐いですけど、再び手にした確かな生をこんな所で逃したくはないんで―――「言うじゃない、成長したわねぇ」――!?」

 突如として背後から投げかけられたのは、ケラスが今まさに会いに行こうとしている者の声であった。

「……本当立派に育ったわね。最初はあんなに頼りなかったのに……」

「しゃ、社長……!」

 振り向いた三人の視線の先に佇んでいたのは、クロコス・サイエンス代表取締役兼クロコス反乱軍総司令の鳥脚類系地竜種ミルヒャ・ハルツであった。

「リネラ……いえ、今はケラスと呼ぶべきかしらね。記憶を取り戻した貴女に、この名前はもう必要のないものだから……」

「社長……私は――「いいの、みなまで言うことはないわ。さっきの流れ、監視カメラで環視させて貰ったから。カッターとメイトランド――というかフォスコドルとジゴールの言う通り。私は表向きこそお金持ちで気のいい、なのに庶民派のおばさんマイアサウラ。でもその実態は、狡猾で抜け目のないトロオドンみたいな悪女でもある」

「でもそれは強制されて仕方なくやっていただけなんですよね?だったら――「"でも非道を働いたことは紛れもない事実"とは、貴女がさっき言ったばかりでしょう?」

「それは、そうですが……」

「だったら何を躊躇うの?貴女は元より"そのつもり"なんでしょ?」

「……そう、でしたね。では……社長、これを」

 そう言ってケラスが突き付けたのは、ボールペンで"辞職届"と書かれている。

「これは……」

「御覧の通り、辞職届です……社長、長い間お世話になりました……」

「……相変わらず律儀なのね。貴女と私はもう敵同士なんだから、『辞職届代わりの鉛玉』なんて言われて撃ち殺すぐらいしそうなものだけど」

「そんなこと、できませんよ。例えどんなに非道な邪悪であっても、例え敵同士であっても、貴女は嘗ての私にとって尊敬すべき雇い主なんですから」

「そう……」

「それを言ったら貴女だって、貴重な戦力が敵の手に渡ったのにそんな調子でいいんですか?」

「別に構わないわよ。記憶が戻って支配プログラムが消え失せた以上こっちから貴女にどうこう干渉するようなことなんてできやしないんだから、足掻いたって無駄だもの」

「そうですか。では失礼します、クロコス・サイエンス代表取締役ミルヒャ・ハルツ……」

「えぇ。さようなら、ケラス・モノトニン……」


 かくしてケラスはリューラ及びバシロと共にその場から姿を消し、ただ一人その場に残されたハルツは暫く呆然と立ち尽くしていたが、やがて近くの適当な部屋へ入り戸に鍵を掛け、机に突っ伏して泣き出してしまった。

 四凶の四人やファープは死に、唯一生き残ったケラスも離反し今や決して手の届かない位置に行ってしまった。これが泣かずに居られようか。当然泣かずには居られない。これまで上司として可能な限り私情を抑え込んできたが、日に何百何十人という部下の市を目の当たりにし、更に独り身の自身にとって掛け替えのない六人をも失ったのだ。

 思考を完全にデジタル化できる有能な経営者ならば、或いは落ち着いたまま直ぐさま次の作戦を練り上げに掛かるのだろうが、生憎と自分はそこまで有能ではないから、思い切り泣いた方がいいのだろう。

 一通り静かに啜り泣いたハルツは、その後決意を新たに部屋を出てある準備に取りかかる。


「そうよ……死んでいった皆の為にもこの戦争だけは絶対に勝たないと……」

次回、各所での動向を前後二編(もしかしたら前中後三編)に渡って描き、遂にツジラジ収録&最終決戦へ!

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