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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百六十六話 戦うゲスト様-記憶を取り戻せ-




記憶を取り戻せ~♪

―前回より・CS社敷地内―


「しャお!へィ!ハっ―――っとゥ!ふん、マイノスのおっさんがくれた蘇生ボーナスのお陰で俺もリューラも完全回復だぁ、この程度の銃弾じゃあもう傷さえ付きゃしねえ!」


 嘗ての自分自身を思い出しながら、バシロは舞うような動作でリネラケラスと戦い続ける。とは言っても当然その攻撃動作は彼女を殺す為のものではなく、記憶を呼び戻す準備をする為のものである。


「(さて、大体の動きは掴めて来たな……このままペースが乱れもしなけりゃ案外楽に済むかもな……)」


 刻印術に心身を慣らしつつ、バシロは三人から聞いた説明を思い出す。


―回想―


「古今東西、記憶が戻るとか、またはその逆に失うとか、そういう話は史実・架空を問わず至る所に存在するもんだ」

「んで、そういう話だと、その場の状況とか戻ったり失われたりした記憶の程度とかは結構バラバラだったりする」

「でも共通しているのは、大体の話だとどっちも大きなショックが関係してるってこと。例えば、頭を打ったりとかね」

 何処から取り出したのか、何時の間にやら部屋にあったホワイトボードを背に三人は語る。

「おう。まぁ確かに考えてみりゃそういうのはよくあるわな。事故ったり、殴られたり、変な光を浴びたり、薬や魔術で消されたとか、何かを見たとか聞いたとか五感に訴えかけるようなモンとか」

「その通りだ。やっぱり記憶を戻すにはそういうものが一番なんだよ」

「となると、兄ちゃんがケラスさんの記憶を戻すのに使う方法もやっぱりそういう刺激系になってくるんだよ」

「そうは言ってもただ単に殴ったり光を浴びせるんじゃ、絶対に成功するってわけじゃないしもしもの事があったらケラスさんが死んじゃうかもしれないから駄目。かといってバシロお兄ちゃんが黒い生き物になる前の姿を何とか再現して必死に訴えかけるっていうのも、やっぱり絶対成功ってわけじゃないしバシロお兄ちゃんが殺される危険も大きくなるから駄目」

「かと言って小中高大と魔術を全く習った事のないお前に記憶復元なんて高度な代物を扱わせようってんでもない。まして薬や機械なんて使うのもあれこれ面倒だ」

「じゃあ、何をすりゃいいんだ。それ以外で記憶を戻すってなると――「ツボを突くのさ」―ツボ?」

「そうだ。ケラスの記憶を戻す手段について調べてたら、ヤムタの古典に特殊な経穴ツボを見つけたんだ。配置も効能も現代のそれとはまるで異なる奴さ」

「んで、その中に記憶喪失を治療するツボがあったんだよ」

「何だと?そりゃスゲェ、つまりそのツボを突いてやりゃあケラスの記憶は元に戻るってか」

「うん。体つきがヒトの形をしてさえいれば、どんな種族でもいいようになってるらしいの」

「その配置と突く順番を書いた紙がこれだ。まずこれは安静にしている相手に処方するものだから、彼女の場合何らかの形で動きを止めなきゃならないんだが……」

「心配ねぇ。打撃で怯ませるなりして隙を突く」


―回想終了―


「(先ずは背凹はいおう……腰より少し上くらいのくぼんだ所を母指、示指、中指で連続して少し強め――にッ!)」


 一瞬の隙を見て素早くリネラケラスの背後へ回り込んだバシロは、彼女の背にあるくぼみへと母指おやゆび示指ひとさしゆび中指なかゆびの順に素早い打突を叩き込む。するとリネラケラスの身体が一瞬浅い眠りから飛び起きるかのように仰け反る。


「(よっしゃ!これで記憶を戻す下準備が整った!あとは頭のを中心に突いて行きゃあどうとでもなるッ!)」


 勢いに乗ったバシロはそれまでと同じような(或いはより進歩した)動きでリネラケラスを攪乱しつつ、強靭でありながら本来は不定形であるその身体を自在に変化させ、巧みにツボを突いていく。ツボを突かれる度に彼女の脳内を支配するプログラムの拘束力は弱まっていき、そこへ嘗ての失われた記憶―若き調理師ケラス・モノトニンとしての自分自身と、その生涯に関する全てのもの―が凄まじい勢いで流れ込んでくる。

 そして最後の仕上げになる眉間への打突によりそれは確定的なものとなり、防衛サイボーグとして組み込まれたプログラムは彼女の脳内から完全に消失。その心優しさ故か非道な現実に翻弄され続けた若き異形の調理師は、偽りの記憶を保持したまま"ケラス・モノトニン"としてのあるべき自分自身を完全に取り戻すに至るのである。


「……――……――」

 とは言えツボを突かれた反動は大きく、床面に力無くへたり込んだ彼女は上の空のままわけもわからずぼーっとしてしまっている。見ようによっては、当たり所が悪く精神崩壊を引き起こさせてしまったようにも見えてしまうだろう。現にバシロの心中も作戦の成否に対する不安で満たされており、もし間違えて彼女を殺してしまうなど、取り返しの突かないレベルの失敗をしてしまっていたらという心配も当然ながらあった。だが彼はそれでも諦めず、ただひたすらに作戦の成功を祈り続ける。

「(……やれる、だきゃあ、やった……そうだとも……やれるだきゃあ、やったんだ……)」

 嘗ての戦闘形態を限りなく忠実に再現した姿を維持しながら、バシロはタイミングを見計らい続ける。

「(声、かけてぇなぁ……何言っていいもんやらまるでわかんねぇけど……せめて何か、声を……)」

 軽く声でもかけてやればいいものを、不安と恐怖に囚われた彼はその少しばかりの勇気がどうしても出せないようで、悩み躊躇ってばかりで時間だけが過ぎていく。

 そして決着から十分が経過しようかという時、とうとう意を決したバシロが話し掛けようとした、刹那。


「……あ……バシロ、さん――お久しぶり、です……」


 ケラスの口から発せられた、か細くも確かな声は、バシロの心中を支配していた不安と恐怖を一気に吹き飛ばす。歓喜のあまり結合を解除し体内のリューラを乱雑に体外へ排出した彼は基本形態のまま嘗ての家族の元へ這っていき、お互いがこれまでに経験してきたあらゆる事を語り合い、再会の喜びを分かち合った。


「どうやら成功したみてぇだな……いきなり放り出されたのは納得行かねぇが、まぁチャラにしといてやるか」


 カップ麺に注ぐための湯をわざわざ沸かしている最中のリューラは、遠目から異形のもの同志の戯れを静かに見守り続けた。そして三人はこの後、ある目的のために社長室へ向かう。

次回、無事に記憶を取り戻したケラスはある目的の為リューラとバシロに守られながら社長室へ向かう!

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