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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百六十三話 戦うゲスト様-爆裂的に決着せよ-




遂に決着!

―前回より・CS社敷地内・屋内巨大人工池―


 そして、決戦の時は来た。通信機能による打ち合わせでドラゴマンドラを完璧に葬り去る作戦を確立させた十四名(実質八名)は、早速打ち合わせ通りの配置に付き行動を開始する。


「っしゃああああああああああ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「どっるぉらぁぁぁあああああ!」

「ぞいやっ!どりやっ!っはぃ!」


 俊敏な零華とアンズ、腕力の高い亜塔と璃桜は、ドラゴマンドラを攪乱するようにその周囲を駆け抜けながら、ポリタンクに入った若干黄色がかった透明の、どう見ても水ではないであろう液体を水面へ垂れ流している。ポリタンクが空になったところで四人はそれを投げ捨て、急いでその場から飛び退く。


【よし!奴らが退いた!今だアルティノ!】

【引火しないように気をつけて、しっかり狙うんだよ!】

「分かってますって―そいやッ!」


 人工池の天井から片腕でぶら下がったアルティノは、手元に小さな火球を―まるで川の中から口を開けて顔を出す人懐っこいカバにキャベツを与えるように―水面にて楕円を描きドラゴマンドラを取り囲む油膜目掛けて投げ入れる。火球は油膜に触れるや否や大炎上し、円形の油膜は瞬く間に火炎の壁へと姿を変える。基本的に水辺で生きてきた為に今まで火災とは無縁だったドラゴマンドラは高温に弱いこともあり火炎の壁を恐れているらしく、思うように立ち回れないでいる。


「っしゃあ!流石ガソリン、余裕の火力だ!」

【へッ、見たか!これが本家火炎竜サラマンダーの力だ!】

「セイヨウ=ヒネズミの火力、コワイ!」

「何言ってんのアンズさん……」


 炎が収まり出したのを見計らい、ドラゴマンドラは何とか壁を抜け出そうとする。しかしやはり高温の火は怖いらしく中々一歩を踏み出せない。これで後ろに毒蛇でもいて外野が『勇気を出して抜け出せ!』などと応援すれば(勿論毒蛇視点で)『シロサイのメロデス』とかいう映画か何かの一場面にもなるのだろうが、生憎この場にはそんな不運な毒蛇もいなければ炎の中に居る者を応援しようなどという外野も当然ながらいるわけがない。

 炎の収まりを察知した亜塔・零華・アンズの三名は頭から池の水をかぶり、収まりつつあるとはいえ充分激しく燃え盛る火炎の壁へ飛び込んでいく。同時に天井からぶら下がっていたアルティノと蛾の翅に似た非行ユニットで空中に浮遊していたシャアリンがドラゴマンドラの背に飛び乗り、ラピカは再び数個の光球を火炎の壁に囲われた巨獣に仕向ける。


 直後、六人は一斉に猛攻を開始した。まず唱道者三名が背の上や火炎の壁の外から軽い攻撃を繰り出しドラゴマンドラを攪乱、その隙に両脇を取った亜塔と零華は四肢を、背後を取ったアンズは尾を集中攻撃し一気に切り落とす(切り落とされた部位はやはり何処かからやってくる微小な腐肉食動物スカベンジャーによって食い荒らされ跡形もなく消失)。ドラゴマンドラが四肢と尾を失い炎が壁としての機能を失った時点でアンズと唱道者三人は彼から瞬時に離れ、眼鼻の先に移動した亜塔と零華は『噛み付き攻撃がギリギリ届かず、さりとて水ブレスを放つ程遠くもない』距離を保ち、舌による薙ぎ払い攻撃を誘う。

 痺れを切らしたドラゴマンドラは、眼鼻の先で動き続ける二人を長い舌で薙ぎ払おうとしたが、ふとした隙を突かれ亜塔に舌を掴まれてしまう。しかも舌が唾液でぬめっている事を見越してか、亜塔は舌を手で絡め取るように掴んでおり引き抜くこともままならない。ならばいっそ飲み込んでやれとも思ったが、切断された四肢と尾や切り付けられた背中の再生に体力を消耗中であることに亜塔の怪力が加わり、逆に引っ張られてしまう。


「ッしゃア!零華、やっちまえ!」

「任せな――さいッ!」


 零華の血風丸ケップウマルが、笛の音に似た甲高い音を立ててドラゴマンドラの舌を切り落とす。ドラゴマンドラは思わず怯み、その間に二人は即座にその場から飛び退くように逃げ出した。四肢や尾に加え舌までも切断されたドラゴマンドラはまさしく怒り心頭といった具合に咆哮を響かせ、ふと20m先の直線上にエルマと璃桜を発見する。腹いせに水ブレスで吹き飛ばしてやろうと大口を開けたドラゴマンドラだったが、その瞬間に璃桜が手に持っていた楕円形の何かを彼目掛けて思いきり投げた。

 投げられた物体はラグビーに用いられるボール程の大きさで、ドラゴマンドラの大口から喉、食道を通って凄まじい勢いで胃まで到達。その時彼は喉や胃の中を冷たく感じたが、どうせ大したことはないと高を括って人工池の水を勢いよく吸い込んでしまう。それさえ罠とも知らずに。


「どうです、璃桜さん?飲み込みましたか?」

「えぇ、完璧です。何から何まで我々の狙い通り進んでいますよ」


 異変はブレスを吐いてやろうかという、その瞬間に起こった。ブレスが出ないのである。

 否、ブレスが出ないそれだけではない。何やら急に息苦しくなり、変な圧迫感さえ感じられる。それは獲物ものを食い過ぎた時の苦しみによく似ているが、自分は奴らと出会ってから何も食べていない筈だ。ではこの腹の中で膨れ上がっているものは一体何なのだろう?


 ドラゴマンドラがその答えを知ることは恐らく一生無いだろうが、勿論読者諸君にはその正体を明かすとしよう。彼の腹の中で膨れ上がっていたのは"吸水性高分子"―吸水性ポリマー、高吸水性樹脂、高分子吸収体、SAP(Superabsorbent polymerの略)とも呼ばれる、数ある高分子製品の中でも特に高い水分保持性能を有するように設計された代物である。名前の通り自重の数百倍から約千倍までの水を吸収、保持する能力を持つ(但し水の中に陽イオンが存在すると吸収力が著しく低下するため尿や血液等体液の吸収に使用する場合の吸収力は水より低くなってしまう)。

 その高い吸水性を生かして乳幼児・高齢者・宇宙飛行士等が着用する紙おむつや生理用ナプキン等といったような生理用品に用いられ、肥料成分の添加や着色のされたものが園芸用品として販売されている事もある。その他には保冷剤、ドリップ吸収材、結露防止剤、芳香剤、携帯簡易トイレ、洗剤原料、顔料分散剤、繊維処理剤、水処理剤、製油助剤、パッキン、食品添加物、屋内スキー場用の人工雪等、幅広い用途で使用されている。


 現在ドラゴマンドラの腹の中で膨れ上がり彼を苦しめている代物の正体もまた、そんな"吸水性高分子"であった。急遽ポイントで購入した上記製品から抜き取ったそれらをエルマの魔術で氷の弾頭に詰め込み、璃桜が口の中へ投げ込んだのである。自身より温度の高いドラゴマンドラの唾液や胃液、そして人工池の水に触れた氷は瞬く間にけ、吸い込まれた水を吸収し胃の中で膨張。その苦しみは想像を絶するものであり、吐き出してしまおうにもそんな気力さえ薄れつつある。

 だが四肢と尾と舌はそれでも再生を続けており、このまま機動力を取り戻されれば一気に逆転される可能性さえあった。否、逆転はなくとも捨て身の攻撃に巻き込まれる犠牲者さえ出かねない。最悪の事態を懸念したエルマと璃桜はそれぞれ氷の魔術と夜魔幻の力によって召喚される腕の使い魔でドラゴマンドラを徹底的に拘束。残る十二名(実質六名)へ早急に止めを刺すよう告げる。


【ぅおっしゃあ!なら盛大にキメてやろうじゃねぇか!】

【そうだねぇ、ここはやっぱり流れとしても派手にシメたいところだよ】

「いや、お気持ちはわかりますけどメタ発言が……」

【でも派手にキメるったってどうすんのさ?】

「みんなで一斉に攻撃するにしても範囲が被っちゃうし何かパッとしないよね」

【いや全く以てその通り。何より単なる集中攻撃では風情もありませんし……】

【そもそも危ないよねぇ、範囲被ると】

【うーん……安全に、かつ派手に……あ、そうだ!】

「ん、どうしたのロロニア?」


 ロロニアの案を聞いた他八名は、その意外ながらも画期的なアイディアに満場一致で賛成。三人の剣士達を呼び集め、協力を要請する。


「成程……」

「それは確かに」

「悪くねぇな」


 意見を聞き入れた十二名(実質六名)は四名(実質二名)ずつ(アルティノと亜塔、シャアリンと零華、ラピカとアンズという組み合わせに)に分かれ、ドラゴマンドラを三点から正三角形状に取り囲む。


「それじゃあ、行きますよ……」

「おう、来いや」

「もしかしたら変な感じするかもだけど……」

「大丈夫大丈夫、変な経験なら慣れてるから」

「流れ込んでくるものを受け入れるイメージでお願いします」

「受け入れる(意味深)……」


 三人の唱道者が剣士達の背に手のひらを宛がい、契約対象である使徒精霊達のエネルギーを一時的に流し込む。


 怪力の亜塔には、アルティノを通じてダカートの持つ燃え盛る火炎の力。

 俊敏の零華には、シャアリンを通じてロロニアの持つ吹き荒ぶ疾風の力。

 忍者のアンズには、ラピカを通じてセレイヌの持つ流れ渦巻く流水の力。


 それぞれに託された属性の力はオーラとなって身体から染み出し、やがて手にした刃へと伝っていく。


「巨獣よ、お前の夢も此処迄ここまでだ……」

「「曲刀風月流、一の太刀……」」


 唱道者達が手を離し、剣士達が構えを取るのと同時に、染み出たオーラがほんの一瞬破裂するかのように勢いを増す。そして――


「「残光ッ!」」

「断ち切られいッ!」


――剣は、振り抜かれる。



 亜塔の禁忌丸と零華の血風丸より放たれた輝く気の斬劇波動は炎と風の属性を内包したままドラゴマンドラに飛来。気のエネルギーにより吹き飛ばされたドラゴマンドラの傷口を、高濃度の支燃性ガスにより力を増した炎が更に焼き払う。同時に水の属性を得たまま巨大化したアンズの忍者刀がその巨体を切り裂く。


 太古の昔より強大な捕食動物として在り続けた巨大な両生類は断末魔の悲鳴すら上げる事すら許されず、その三億年以上の長きにわたる生涯に幕を閉じた。

次回、『バシロ死す』

バシロ「後書き書くの面倒だからって大嘘こいてんじゃねぇ!」

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