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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
361/450

第三百六十一話 戦うゲスト様-井守のカイ(想)-




蘇る太古の記憶……

―前回より・CS社敷地内・屋内人工巨大池―


「ギヒェィァァァアアアアアア!」

「断たれろッ!」

【肉までブッ裂けィ!】

【骨ごと砕けなッ!】

「光球連弾!」

【汚らわしい化け物め、抉れよ!】

【ただ光るだけと思うんじゃないよッ!】

「シェあッ!」

【じょいやー!】

【はッ!】

「エイイッ!貧弱貧弱ゥ――ですわーッ!」

「「曲刀風月流、一の太刀――――残光ッッ!」」

「これしきの舌ァァァァァ!」

「イモリのような悲鳴を上げよッ!」


 勃発した戦いは尚も激しさを増しつつあり、居合わせた14名(実質8名)は眼前の巨大な両生類に敢然と立ち向かい、各々の持てる最大火力を必至で叩き込む。元より電車一両半相当(=作者の地元を通る国鉄113系電車の全長20mから単純計算で30m)という常識外れの巨体故、あちらの放つ攻撃の範囲が広ければこちらの攻撃も当たり易いという事は最早自明の理と言える。ドラゴマンドラはその巨体に秘められたパワーを様々に駆使し豪快な動作で迫り来る外敵を退けていたが、同時に彼の外敵―もとい異界の猛者ゲスト達もただただ圧倒されるばかりではなく、確固たる抵抗を続けていたのである。

 ドラゴマンドラは強化改造によって得たあらゆる能力をフルに活用し、尾で薙ぎ払い、脚で踏み付け、顎で噛み付き、舌で絡め取り、咆哮で空気を振動させ、背から毒液を出し、池の水を吸い込んで円柱状の激流を思わせるブレスとして吐き出し、恐るべき筋力で力任せに腹で滑って突進し、光学迷彩同然の擬態で身を隠し奇襲を仕掛けたり、体表面の簡略化された人面のような模様を伸縮・点滅させつつ苦しみ悶える亡霊の呻き声にも似た鳴き声で集団の恐怖心を煽って威嚇したりもする。

 これに対しアルティノは燃え盛るバトルアックスで、ラピカは光球を操る片手杖で、シャアリンは鋭い刃の備わった伸縮自在の鞭で、エルマは氷の魔術で、亜塔・零華・アンズの三人はそれぞれの剣で、璃桜は日々成長と進歩を続ける夜魔幻の力で、各々の全力を振り絞って立ち向かう。


 かくして時間の経過に伴い加速度的に激しさを増す戦いは、やがて生体兵器として飼育される日々を過ごす内に消え去りつつあったドラゴマンドラの記憶―太古の昔より彼という存在そのものに刻み込まれた数多の戦乱と暴食の歴史―を一瞬にして呼び起こす。


◆◇◆◇


 最初、彼はそれらをただのちっぽけな脊椎動物の群れ程度にしか思っていなかったが、戦う内にその認識が誤りなのだと思い知る。この群れを成す敵のそれぞれは、彼がこれまでに交戦或いは捕食してきたあらゆる相手の中でも選りすぐりの強敵達を思い起こさせた。


 中性的な外見の温厚なイメージを感じさせないほど獰猛にバトルアックスを振り回すアルティノに脚を砕かれた時、彼は一億年前のある夕暮れを思い出す。その時彼は沼地で死後数日が経過し腐敗の進んだ巨大な竜脚類の死体を見つけたが、食らい付こうかという所で邪魔が入ってしまった。羽毛の生えた派手なそいつは大型の獣脚類であり、彼はその巨体に見合わぬ素早いフットワークに翻弄されてしまう。結局沼へ逃げ込んだと思わせて水中へ引きずり込み何とか勝利を収めたが、肝心の死体は何者かに持ち去られでもしたのか姿を消しており、その日は結局骨折り損の草臥れ儲けに終わってしまった。


 アルティノ以上に華奢でありながら複数の光球を自由自在に操るラピカにあちこちの肉を抉られた時、彼は二百万年前の白昼を思い出す。その時彼は図らずも水気のない荒野で目覚めてしまい、水辺を探し歩く道中偶然にも巨大な土塊を発見する。よく見れば幼少期の主食でもあった昆虫らしきものが這い出ているのを見てそれの正体が蟻塚であることを悟った彼は、慣れない手つきで塚を崩しにかかる。だが塚に前脚をかけた瞬間、一際大きな穴から数羽の鳥が飛び出し、弾丸のような速度と複雑な機動で突進を繰り出し始めた。実はこのシロアリと鳥は共生関係にあり、鳥は蟻塚の一部を巣として利用する代わりに有事は前線に出て巣の脅威となる捕食者と戦う役目を担っていたのである。鳥達によって彼は皮膚を深く抉られ、結果として撤退に追い込まれてしまった。彼の生涯にあって数少ない"敗北"である。


 空中を素早く浮遊しつつ刃の備わった伸縮自在の鞭を振るうシャアリンに皮膚を切り裂かれた時、彼は数十万年前のある雨上がりの日を思い出す。その時広葉樹林の中で休んでいた彼はふと突発的な空腹で眼が覚め、偶然にも手頃な獣を発見する。それは所謂オオナマケモノという温厚で動作の緩慢な植物食動物であり、暢気に木の実を啄んでいる姿を見た彼は背後から食らい付いてやろうと考え忍び寄った。だがある程度距離を積めた所で相手に気付かれてしまった彼は、その前脚に備わった長く鋭い爪で顔面を切り裂かれてしまう。激痛に苦しみ悶えながらも渾身のカウンターで両前脚と頭を一口で食いちぎり大事には至らなかったが、それでも切り裂かれた左目は全治に一ヶ月を要し当然その間は生活に支障が出た為、殺しても死なないような厄介ぶりを見せつけた恐るべき強敵であったと言える。


 素早く無駄のない動作で意のままに大きさの変動する忍者刀を巧みに操るアンズの攻撃が内臓まで到達しかけた時、彼は五千万年前の朝方を思い出す。拠点としていた池の周辺から食い応えのある動物が消え失せたことを察知した彼は、夜通し草原を歩きながら手頃な獲物を探していた。そんな中出会ったのは、属に"恐鳥"の総称で知られる、飛行能力を欠いた獰猛な肉食鳥類の一種であった。その飛べない鳥は恐れを知らない性格らしく、圧倒的に巨大な相手が迫って来ても怯むことなく戦いを挑んできた。発達した脚力によるフットワークや色鮮やかな羽毛は先に述べた派手な肉食恐竜を思い起こさせ、強烈な蹴りや嘴による刺突は彼の顎に亀裂を入れ、肋骨を叩き折るほどの威力を誇った。結果的に喰い殺しこそしたものの、記憶に残る程の強敵であった事に変わりはない。


 そして彼は残る四名―エルマ、亜塔、零華、璃桜―との戦いを通し、自身の生涯に於いて最も印象的な強敵を思い出していく事になる。

次回、この戦いに決着は訪れるのか!?

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