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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
357/450

第三百五十七話 戦うゲスト様-信念のままに-




決着!

―前回より・水の抜けたエントランス―


「さぁ刺され!当たれ!貫かれろ!それが無理なら掠ってもいい!どのみち君に傷さえ付けば!その時点で勝負は決まる!」

「(ったく、本当わけわかんない奴だわ……自分で浮き沈み激しいとか言ってたけど、もうそういう次元ですらない……)」


 流れと話の尺からして最終局面に向かいつつある殺し合いは、爆生によりイモガイへと変じたファープの猛攻により再び熾烈さを取り戻しつつあった。

 そもそもイモガイとは広く知られる"貝"のイメージを覆す獰猛な捕食性の巻き貝である。種にもよりけりだが原則としてほぼ全ての種が獲物の捕獲と自衛の為に神経毒の含まれた毒針を武器として用い、中には至近距離で突き刺すばかりか射出する種さえ居るという。今回ファープが化けたのはそんな"毒針を射出するイモガイ"の一種であり、地球に棲息する中では"貝食貝"としても知られるタガヤサンミナシがこのタイプの代名詞的存在と言える。

 但し今現在ファープが連射する毒針の勢いは現実のタガヤサンミナシなどとは到底比べ物にならないほどの激しさと数量を誇り、更にその発射口に加えて身体の各所から機関銃や榴弾砲が複数展開されていた。ファープは今やある種の生きた砲台と化していたのである。対する玲はそれをただただ避け続けるばかりであり、とても攻撃など繰り出せそうにはなかった。桃太郎伝説の猿に例えられるほどのずば抜けた機動力はほぼ万能に等しい回避能力をもたらし、弾丸を手で掴み気を込めて投げ返す等という芸当も容易かろう。しかし掠りでもすれば死に至る強力な神経毒の含まれた全長10cmの毒針が弾雨に混ざっているともなると話は別であり、接触を用心した玲は極力毒針に触れないよう回避に専念せざるを得なかったのである。

「(くっ、弾丸や毒針の速度がバラバラだから捕り辛いったらありゃしない。その結果がこの逃げ回り戦術だけどそれも何時まで続くか……)」

 玲はこの状況が自分にとってただただ不利でしかないことを悟っていた。早い段階で打開しなければ遅かれ早かれ自分は死ぬだろう。ならば何時行動を起こすか?今しかない。心中で密かに決意した玲は練り上げた気を己の身体と匕首に纏わせ、ファープに向き直り必殺技の構えを取る。


 鉄筋コンクリート製の分厚い床材をもぶち抜かん勢いで踏み込み限界まで加速し、機関銃と毒針を放つ砲台巻貝へ向かっていく。飛来する弾丸や毒針は脅威だが、身に纏う気のエネルギーがそれらの推進力を吸収し無力化していく。

「(良しッ!短時間しか持たないけど効果は十分、これなら行ける!)」

 一方のファープも玲が飛び道具を無力化する術を身につけたことに気付いたようで、機関銃と毒針の発射器官を体内に納めシャチの頭型に変化したイモガイの軟体部内へ牙代わりに無数の五寸釘やクナイを生やし、おまけに舌をうねるチェーンソーに変形させ玲を喰い殺そうとする。


 だが、開かれた大口は結果として逆に彼を敗北へ追い遣ることとなる。


「穿芯掌ッ!」


 その叫びと共に玲の匕首がファープの上顎へ突き刺さり、立て続けに気のエネルギーが匕首を通じて体内へと流し込まれる。丹念に練り上げられた気は爆発的なエネルギーを含んでおり、それらはファープの体内で瞬く間に膨張。風船のように膨れ上がった巨大イモガイは、青い体液を撒き散らしながら殻諸共破裂した。同時にファープの爆生も強制解除され、彼の肉体は生首を残して細切れの肉片へと成り果てる。

 かくして五話半にも及んだ因縁の対決は、義子を失った義母の圧勝という形で閉幕したのである。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「あんた、言ってたわよね。『自分がクロコス・サイエンスここで働くのは、世話になった女性ひとの後継者に寄付をするためだ』って」

「あぁ、言ったよ」

 語りかけられて言葉に応じるファープは瀕死と思えないほどに饒舌だったが、構わず玲は話を続ける。

「つまりあんたは、自分以外の誰かの為に金を稼いでいた……そういうことよね?」

「まぁそうなるかな。月並みな言葉を借りるなら『私利私欲の為の行動には限界がある。その限界は他人の為の行動によってこそ越えられる』って所だろう」

「ふん……じゃあそんな"他人の為に頑張る"あんたに、一ついいことを教えてあげるわ」

「何だ?」

「よく聞きなさい、ナメクジ。あんたは自分の金儲けを他人の為と言った。だけどその実あんたのやってきたことは単なる自己満足でしかないのよ」

「ほう……」

「幾ら沢山稼いで寄附したところで、あんたのやって来たことは所詮人殺し。生命と人権の冒涜。つまりまごうことなき悪行に他ならないわ。確かに資金援助をして貰ったグループは助かったんでしょう。けどそれで―あんたが人殺しの悪党になって金儲けをしている現実を見て、死んだあんたの親や居候の女性ひとが喜ぶわけないでしょ。どんなに惨めでもいいから、真面目に生きて真っ当な道を歩むこと――それがせめてもの孝行、残されたあんたに課せられた義務ってもんでしょうが。なのにあんたはその義務を放棄して、歪んだ使命感から悪に走り、腐りきった自己満足の為に多くの人を殺し、悲しませた……そんなあんたの生き様は、誰にも喜ばれもしなけりゃ褒められもしない……罵られ蔑まれるのが精一杯の醜態でしかないわ」

 玲は自分の思うまま、ファープの話を聞いて思った事を未だ息のある彼の生首にぶちまけた。彼女としてはこれが精一杯の"反論の余地なき正論"だった。だが―――

「……ふん、何を言い出すかと思えばそんなことか」

「なッ!?」

 返ってきたのは慚愧や自壊の言葉ではなく、明らかな嘲りであった。

「馬鹿を言ってんじゃないよ。君、よもや僕がそのことに気付かぬままここまでやってきてとでも思ってるのかい?だとしたら滑稽だな。何せ僕、さっき君が偉そうに言ってた事については初仕事の二時間前に割り切ってたからさ。例え家族でも死人は死人、生者とは別と考えて自分がしっかり生きるべきだと覚悟と目標を決めなきゃならない。その為なら自己満足の偽善でも良かったのさ。どんなに汚く歪んでいるとしても、信念であることに変わりはないんだよ。小物でも悪党でもかまわない、生き続ける為には致し方ない犠牲なんだ。理解ワカるかい?まぁ理解ワカらないだろうなぁ、君みたいなのには」

「……」

「だがこれだけは覚えておくといい。この世にある以上、存在意義を持たないものなんて存在しない。害悪は害悪であることが存在意義なんだ」

 饒舌に持論を述べ続けたファープの生首はその一言を最後に事切れ、何処からか這い出てきた虫に覆い尽くされては貪られていった。


「害悪は害悪であることが存在意義……なら、私は私の存在意義に則ってあんた達みたいなのを殺し続けてやるわ。いつまでも、どこまでも」


 白骨化した生首へ向けて吐き捨てた玲はそそくさとその場を後にした。

 その後彼女が全長8mを超える超巨大なコーストスペクターを決死の思いで撃破し地下水路から脱した仲間や上司達と合流したのは、立ち去って二十分程進んだ頃だったという。

超巨大コーストスペクター戦で最も仕事したのは五十嵐部長だったそうな。

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