第三百五十話 戦うゲスト様-前回本文中にミスがあったから修正しといたよ-
戦いは尚も続き……
―前回より・中央スカサリ学園校舎内―
校舎内にて勃発したヴァーミン保有者同士の戦いはやはり熾烈を極め、ある種の激闘へと昇華しつつあった。
「ンなろ、クソっ、てェあ、チぇあリっ―っつぇい!」
繁の周囲を跳び回っていた武器は、彼の撃ち出す溶解液の弾丸によって次々と撃墜されては形を留めぬまま校舎の床へと落下していく。その動きから察するに繁はT.O.R.O.隊士の協力を受けて実現するランゴの浮遊武器攻撃にある程度慣れることができていたらしいが、いつもの余裕と調子を取り戻すには至っていないらしい。しかしそれでも前回は断念していた『ズムワルトの固有効果での武器破壊』を成功させ、ランゴによる武器生産の根源を絶つべく近寄ってきたT.O.R.O.隊士は手早く即座に殺すなど、中々目覚ましい進歩も見受けられた。
「(ふむ、いい動きだ。自我持ち武器を作るにあたっての弱点―『死体では作れず、健康な味方を使うと寧ろ損をする』という、半ば僕の私情混じりのものだが―を、能動的かどうかは別にしても的確に察知し、隊士達を手早く葬るよう攻撃パターンを変えている……これは何時までも高みの見物というわけにもいかんようだ。たまには大将らしく隊士達にカッコイイ所を見せねばならんな、うん)」
思案の末ランゴは隊士達に(『繁の対処を自分に一任し、その他の襲撃者を討伐に向かえ』という旨で)その場から撤退するよう命令を下し、隊士達はそれを承諾。生体兵器達も隊士達に続いた為、実質的にはランゴが素材として使える物体の一切がその場から消え失せ、繁とランゴだけがその場に取り残されていた。
「あーっれまぁ……マジで皆出てっちめぇやんの。まさかそれを口実に逃げ出したって訳はあるめぇし、大将ってつくからにゃやっぱ偉えのな」
「まぁねぇ、これでも元は60過ぎても軍隊で将官なんてやっていたからなぁ。あと自慢じゃないが、それなりに人望もあるからね。幻想かもしれないが、彼等は僕を心から信頼してくれているんだと思う」
「そういうのは案外幻想じゃねぇもんだぜ。つーかお前そのナリで60過ぎかよ。竜属種が老化遅くて長寿とはよく聞くが、年寄り臭さってもんがまるでねぇな」
「若ぶるつもりはなかったんだけどね、老いの遅さか年を取っている実感もないんだよ」
「大丈夫なのかよ」
「ああ、こういうのは気の持ちようだからね。寧ろ―「そうじゃねぇよ。俺が言ってんのは武器の話だ。味方いねーと作れねぇんだろ?」
「わざわざ心配してくれてありがとう。だが心配には及ばない。例え能力が使えまいと、これが残ってる」
背筋と手足を伸ばしたランゴが背の翼を勢い良く広げるのと同時に、彼女の身体が淡い色合いをした不透明な硝子にも似た物質に包まれ、一瞬蛹を模した工芸品のような姿となる。しかしその姿が維持されたのはほんの一瞬で、硝子のような物質は直ぐさま幽かな音を立てて弾け飛び消失した。
そしてランゴは、第二百八十二話で見せたような蜂竜へと姿を変えた。即ち破殻化である。
「……そういえば破殻化があったか」
「君もするといい。月並みな話だが、それが一番手っ取り早い」
「それは俺も思ったが、わざわざ敵に言う奴があるかっつーのよ……」
ぶつくさ言いながらも、繁は言われた通り破殻化する――が、前々回の桃李に続き彼にまでも"異変"が生じた。
「なんなんだこりゃあ……」
「ほう、そうなったか……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「行け!」
オップスの突き出した精霊盾リュウマイが再び開き、内部に存在する専用の異空間から新たな使い魔が飛び出した。リュウマイの固有効果により何処からか引き寄せられてきたらしいそれは頭に鬣を持つ巨大なワニであり、不完全な走りを凄まじい持久力と筋力で補いながら香織目掛けて大口を開け突進する。香織は素早く後退しつつ距離を取っては魔術やネーロ・マジーアの機能で召喚した海洋生物でワニの動きを止めようとする。だがワニの怪力の前には古式特級魔術"ソワール・マルファス"によって形成された重厚にして強固な防壁も木綿豆腐か砂糖菓子が如し脆弱な塊に過ぎず、獰猛な海洋生物型の使い魔もただの餌と化していた。
「(やばい!やばい!やばい!やばい!大容量だしすぐに溜まるからって調子乗ったツケがここで回ってきた!今更だけど何か妙に狭い廊下に追い込まれてるしともかくあれをどうにか止める手立ては――あった!)」
焦った香織は全力でバックステップを連発しながらネーロ・マジーアを解除し、ロッソ・スパーダへと切り替え叫ぶ。
「クラダイウス!"あれ"使うから支度して!」
《む、"あれ"とは"あれ"のことか賢者よ?そなたが余のあんな所やこんな所をまさぐった挙げ句産まれたという……》
「平伏せ。其は黄金の舞台。中央に飾られしは帝王の剣」
《無視か賢者よ。余は地味に傷付いたぞ》
「其は栄華の証。揺るぎなき帝政の象徴。故に全てを断つ。常世に帝阻むものはなし……いざ断ち切らん、赤帝無双刃!」
クラダイウスの下品な茶々を無視しつつ短めの詠唱を終えた香織は、手にした剣を全力で振り抜き迫り来るワニを一撃で両断した。しかしオップスはまるでその死が想定の範囲内であったかのような態度で逆手持ちにした機構戟の柄に備わるキーを操作しダイヤルを回す。
この様子から固有効果の発動を察知した香織は、すかさずロッソ・スパーダを解除し列王の輪を初期に用いていた魔力砲へ変形させオップスを狙撃せんと光の弾丸を放つ――が、弾丸が射出された瞬間オップスの手元には既に三枚のメモリーカードらしきもの―機構戟等一部カドム武器の固有効果によって持ち主の手元へ現れては様々な効果をもたらすデータの集合体で、正式名称を『プロテクト・ツールズ』という。機構戟の巨大化もこれの効果―が加わっていた時点でその後の展開は見えていたと言ってよい。現にオップスは手元に加えたプロテクト・ツールズの一つで身体を一時的にエアゾル化させ香織の弾丸を回避し、これ見よがしに構えを取りながら言う。
「柄ではないが仕方がない……折角だ、お前に見せてやろう。五龍刃に名を連ねる『双頭龍戟盾』の真なる姿……これらが二つ一組で単一の武器として扱われる所以をな」
オップスが精霊盾の後部に備わるスイッチを押すと、それは横方向へ割れるように展開し何かを差し込む為に設けられたであろう隙間を成す。その隙間へオップスが機構戟を差し込むと、それを合図に二つの武器は物理的法則を無視したかのように展開・変形。合体した戟と盾は、翼を広げた飛竜の意匠を持つ鈍い黄金色のバトルアックスへと姿を変えた。
「これぞ『双頭龍戟盾』の真なる姿……矛盾を強引に押しのけた先に成り立つ『掌握斧シンザン』だ……」
次回、繁に起きた異変とは!?