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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百四十八話 戦うゲスト様-特撮とかでありがちなアレ-





敵の切り札に苦戦して偶然新技開発みたいなアレ

―前回より・CS社敷地内のテニスコート―


「とりあえず、ここから少し本気出すわ」


 垂れ下がった紀和の右腕から垂れ下がる、白く細長い芋虫のようなもの。有機的な質感のそれらは、桃李と羽辰にとって―というよりも、クロコス・サイエンス襲撃作戦に参加した者にとって―大変馴染みの深い、見慣れた生物であった。


「兄さん、あれはやはり……」

『えぇ、間違いないでしょう……』


 その生物とは即ち、クロコス・サイエンスが不正に走った社員や社員の安全を脅かす不届き者を効率的に処刑し戦力として再利用すべく開発した生体兵器"クライムパラサイト"であった。ある種の条虫や回虫といった体内寄生虫の数種を配合・改造し造り上げたこの生体兵器は、本来ならば卵の状態で宿主の口から入り体内で孵化。内側から宿主の身体を食い荒らしながら脳へ進行し、脳死に追い込む序でにその行動を支配しゾンビにして操り支配するのが役目の筈である。だが目の前にいるクライムパラサイトは宿主らしき流体種の大概に胴体を露出させており、その姿は寧ろ支配されているかのようであった。


「驚いたかしら?実は私、少し前まで流体種の体組織を寒天培地に使えないかって研究してたのよ。社長が苦い顔したから研究は中止したんだけど、もしもの時のために取っておいたデータが役に立ってね。私自身にその技術を適用し、予め体内に仕組んでおいたクライムパラサイトの卵を、全身に化学養液を流し込んで孵化・急成長させたのよ」

『身体の青色が濃くなったのは養液の色ですか』

「しかし、それらを外部に出したところで何のメリッ―――」

 言うより早く桃李の真横へクライムパラサイトの束が叩き付けられ、テニスコートの地面が大きく凹む。

「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。もう一度言ってくれる?」

「いえ、お気遣い無く。コトはもう済みました」


 かくして闘争は再開される。紀和は体内に宿すクライムパラサイトをひとまず両腕から左右十匹ずつ生やし、更なる養分供給によって太く長く急成長させながら触手のように動かしては鞭のように振り回していく。桃李と羽辰は迫り来るクライムパラサイトを持ち前の敏捷な動作で悉く避け続け、時には切り裂き打ち払った。切断面の自然回復能力を消し去るソレイユに斬られたクライムパラサイトは為す術もなく衰弱し萎んでいったが、絶え間ない後続の出現は実質的な再生と変わりなく、更に紀和は戦いを畳み掛けるべく両足からもクライムパラサイトを生やし、単なる打撃と高速に留まらない多彩な格闘術で二人を圧倒する。脚から生えた十数匹をバネにすれば跳躍力が飛躍的に向上し、腕から生えた数十匹を編み込んで翼にすれば滑空さえ可能になり、一匹一匹の投擲する瓦礫は銃弾が如し勢いでコンクリートにさえ大穴を穿つ。


「(これはどうにも手に負えん。破殻化……いや、爆生で行くか)」


 爆生を行使した桃李はカマキリへと姿を変え鎌状の腕で迫り来るクライムパラサイトを引き裂き、状況が不利と見ればケラに姿を変えコンクリートも突き破る掘削力で地中に逃れ、バッタの水平跳躍で弾丸と化し突撃する。武器と同化した状態の羽辰が口から放つオレンジ色がかった金色と紫色がかった黒のエネルギー球体(それぞれが自由自在に動き回り、どちらか片方が打ち消されてももう片方が再構築されるという厄介な性質を持つ)による変則的な攻撃も相俟って戦況は兄妹にとって有利に進むかと思われていた。

 だが相手はただでさえ高い生命力と耐久性を強化改造と執念、そして盲信的なまでの愛と忠誠心によって大幅に増強した紀和である。ともすれば(他三名を凌いで反乱の四凶随一ともされる)そのしぶとさは例え兄妹が如何なる手段に打って出ようと変わりなく発揮され、結果として戦況は依然として平行線のままであった。結果として両者は疲労し、図らずも暫くの停戦となる。


「どうしましょう、兄さん。何か決着つかないまま、戦況がずっと平行線のままなんですけど」『その問いかけに対する的確な答えは残念ながら持ち合わせてませんが、ただ一つ確かなのは……このままダラダラと戦い続けていたら尺が伸びるだけでなく、我々も確実に負けるということです』

「でしょうね。それは私も薄々感づいてました。まぁどこぞの変態水羊羹と違って若返らせて飼い殺しとかいうオチはまずないでしょうが」

蠱毒成長中このアホはそういうネタやりませんしね。あとあれは水羊羹というよりうどんゼリーでしょう』

「あるんですかそんなの」

『アマチュア有志の考えたレシピです。それはそうとこの状況、どうしましょうか』

「とりあえず適当に爆生使いまわしでやり過ごしてチャンスを狙うしかないでしょう」

 桃李は諦め半分に爆生を発動するが、そこで異変が起きた。姿が変わらないのである。


「あら、コない」

『どうしました』

「あぁ、すみません。爆生が上手く行きませんでね。前まではこんなこと無かったんですが」

『貴女ともあろうものが何をやってんです』

「すみません兄さん、多分指定なしで化けようとしたのでエラーが生じたのでしょう。次はちゃんとやります」

『お願いしますよ。そろそろ奴が起き出す頃だ、出遅れればあのパロロの寒天とじに殺されますよ』

 パロロとは南海(地球でいう南太平洋)棲息する細長いゴカイである。繁殖に際して下半身を切り離し表層域で一斉に放卵・放精させるという風変わりな生態を持ち、現地では珍味として重宝される。

「パロロって緑色でしたよね」

『細かいことはいいんです』

 会話もそこそこに、桃李は再度爆生を試みる。だが何を指定しようと結果は同じ。仕方なく破殻化に切り替え変化は成功したが、異変は終わっていなかった。というのは……


『桃李、何ですその姿は』

「クロゴキブリ……だと、思います」


 羽辰が疑問を口にし、桃李の答えが曖昧になってしまったのも無理はない。というのは破殻化により変化した桃李の姿が通常とかなり異なるからであり、それは何とも謎めいたものであった。

 そもそも全体的な風貌からして通常の"ゴキブリ型ヒューマノイド"からは程遠く、言わば"スレンダーな体つきの女性を象ったブロンズ像"とでも言おうか、ともかく節足動物を乖離した姿である。但し全身を覆う黒褐色のそれは外骨格であり、頭からは細長い触角まで生えている。背にある小さな突起物はさしずめ退化した翅の名残を思わせ、それらの点を踏まえるなら―下向きに湾曲した嘴を持つ鷺か翼竜のような頭部を除けば―"進化の果てにヒト型になったゴキブリ"であると言えた。


『何なんでしょうねぇ、これ。いや本当に』

「詳しいことはまるでわかりませんが、何となくこれでイケそうな気がしますよ」

『え、それで行くんですか?』

「勿論。今更これ解除して破殻化し直すのも面倒ですし」


 さらりと言ってのけた桃李は兄の返答も待たずに丁度休憩を終えて臨戦体制に入ったばかりの紀和目掛けて走り出す。その速度はただでさえ素早い通常の破殻化状態を遥かに上回り、まるで瞬間移動するかのようであった。

『(考え難い速度だ……)』

 その速度を目の当たりにした羽辰は、最早自分の出る幕ではないと判断し静観に徹した。一方の紀和は謎の姿となった桃李の速度に押されてばかりで、体内より繰り出すクライムパラサイトが次々避けられる姿に焦りながら叫ぶ。

「あんた……あんた一体何なのよっ!?」

「何なのかと言われましてもね、これが自分でもよくわからないのですよ」

 ほぼ怒号に近く捻りもない紀和の問いに対する桃李の答えは、あまりにも素っ気ないものであり、ただでさえワンサイドゲームに苛立っていた紀和の怒りを爆発させるには充分過ぎた。だがその怒りを桃李に向けた所で逆手に取られるのは当然の理。一瞬の隙を突かれた紀和は腹と胸に受けた怒涛の連続蹴りで柔軟な体組織を掻き分けられていき、止めの一発で遂に球状の頭蓋骨が半壊。シーズン2やシーズン5で言及した事だが、こうなった流体種に残された選択肢は死を除き他になく、その道理はクロコス・サイエンスの技術によっても捩曲げることはできない。

 現に彼女の体色は元の透き通った青色に戻りつつあり、同時に表皮膜は溶け内部の繊維組織もほぐれ始めた為に彼女の体は物理的に崩れ始めていた。しかしそれでも尚、紀和は最後の力を振り絞り泣き叫ぶ。


「ごめん、なさい……ごめんなさ、いぃ……お母さぁん……ごめんなさい!お゛か゛ぁ゛さ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――」


 最後の一字を口にする寸前で遂に紀和は絶命。非の打ち所のない程にスタイルの良かった身体は形を失い、その場には青いゲルとクライムパラサイトの卵だけが残された。


『終わりましたか。見事でしたよ』

「ありがとうございます。しかし奴の断末魔が母親への謝罪とは……母子家庭育ちだったんですかねぇ」

『その可能性は否定できませんね。或いは孤児だった所を独身女に拾われ育てられたのかもしれません』

「どちらにせよ救いの必要な、言わば我々とは真逆の手合いだったのでしょうよ。神学の定説から外れた話になりますが、仮に霊界というものがあるなら奴には幸せになって欲しい所です」

『貴女らしからぬ意見ですね。でも嫌いじゃないですよ、そういうの』


 かくして激戦を切り抜けた二人は、荒れ果てたテニスコートから足早に去っていった。

次回、漸く主人公が登場!

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