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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
345/450

第三百四十五話 戦うゲスト様-という割にゲストは出ない-




反乱の四凶最後の一人・紀和室見の力とは……

―第三百十九話後半より・CS社敷地内エントランスに繋がる通路にて―


「……ふッ!」

 青く透き通った流体種の女―もとい、クロコス・サイエンス生命科学研究室室長兼"反乱の四凶"が一人・紀和室見キワムロミの手元に湧き出て投擲された赤い透明なゲル塊は、壁に衝突するのと同時に壁へ大穴を開ける程の爆発を起こす。

「……んん、また外したわ。細いからってなんて素早さなの……反面装甲は和紙にも劣りそうだから、当たりさえすればどうにかなりそうなんだけど……」

 第三百十九話後半にて小樽兄妹より『我々の手に掛かって死んでくれ』という何とも物騒な頼み―というよりは、実質的な挑発まがいの宣戦布告亜―を受けた彼女は、スーツ姿の双子をまとめて迅速に始末すべく尽力していた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「恐るべき破壊力……幽かな臭気から察するに、石油や黒色火薬絡みの爆発じゃありませんね……」

『えぇ。恐らくは奴の投げつけたゲルの中に含まれていた気泡か粒子のようなものにアルコールかエーテルでも仕組まれていたのでしょうよ。もしかしたら爆薬か、或いは魔力の塊かもしれませんが』

 相手の視界が及ばない物陰に隠れた桃李と羽辰は、先程自分達目掛けて投げつけられた赤いゲルについての軽い考察を述べつつ、かの常識外れに柔軟な肉体を持つ流体種の女にどう立ち向かうかを話し合っていた。

「まぁ中身が何であろうと回避してしまえば問題はありませんがね。問題は我々が奴をどう仕留めるかという事でしょう。あれは見て呉れこそただの流体種ですが――」

『――今まで我々が見てきたものから想定するに、"ただの"という修飾語は消え去るのでしょうね。奴はどうにも普通じゃない、恐らく他の連中同様に何らかの強化改造を施されていますよ』

「只でさえまともな攻撃がまるで通用しない再生能力ですからねぇ……それが更に強化されたとなると、実質不死身の耐久力ぐらいは余裕で身に付けてそうで恐いですよ。高熱で茹でようにも、追い付かず溺死させられるのがオチでしょうし」

『理想は対戦車砲弾か突撃槍のようなものを用い一撃で頭蓋骨を粉砕するこ―とォっ!?』

 突如二人を遮っていた遮蔽物が吹き飛び、面食らった羽辰が素っ頓狂な声を上げる。

『……あぁ、これは不味い……どうやら私の声が大きすぎて奴に居場所を知られたようだ』

「別に兄さんだけの所為じゃないでしょう。声量は私も同じくらいだったんですから連帯責任で――「爆破を受けて尚話し込むとは大した余裕ね小樽兄妹。スーツ姿に敬語まで使って、貴方達もトリッキーぶるつもりかしら?いいわ、だったらあんた達から殺してあげる。喋る暇も与えないから覚悟なさい……」

「"から"って何でしょうね。他にまだ殺すべき相手がいるとか?」

『知りませんよそんな―のッッ!?』

 羽辰は咄嗟に自身の顔面を狙って投擲された黄色いゲル塊を(そうする必要性などないというのに何故か)大きく仰け反って回避する。そのまま通路の壁にぶち当たった黄色いゲル塊は、潰れるや否や内部から激しく放電しそのまま消滅してしまった。

「"喋る暇も与えない"と言ったはずよ、聞こえなかった?」

『まさか、耳が留守なわけじゃあるまいし』

「それにしても赤で爆発なら黄色は電撃ですか。何とも解りやすい攻撃のようで」

「まるで嬉しくないけれど、一応褒め言葉として受け取っておいてあげるわ……さっき投げたのは私が次なるプロジェクトに向けて開発した"炸裂細胞"――私の体内で培養される、言わば"生きた弾薬"かしらね……」

『ほぅ……流石は流体種、我々のような脊椎動物には到底できない事を軽々とやってのける……』

「興味深い……不可侵なる謎の大陸とされたエレモスの技術力、当然独自の発展遂げていようとは思っていましたが、よもやここまで来ていたとは……」

 小樽兄妹は恍惚の表情でそれぞれの武器―小型サイスのソレイユと分銅のリュヌ―を手にし(更に桃李はその刃へローチスリックを纏わせ、発火させようと温度を上げていきつつ)紀和を相手取るように身構える。

「草刈りに使うようなサイズの鎌に分銅……姑息なあんた達にはお似合いの武器ね」

 軽々しく嘲りながら手元に赤・黄・緑という三色の炸裂細胞を生成し相手を威嚇する紀和だったが、その眼差しは真剣そのものであった。元来ストイックな性格であることと、ある理由によりクロコス・サイエンスに絶対的な忠誠を誓い、社長兼代表取締役であるハルツを妄信的かつ病的なまでに愛する彼女の心中は、冷ややかな態度と低い平均体温に反して気体を通り越し臨界へ至らんばかりに煮え立っているのであろう(ここまで読み進めている読者諸君ならば当然覚えていようが、同じく"反乱の四凶"に属するガランも彼女を『一見冷ややかな研究者だが内に秘めるものの熱さは四凶一』と評している)。

「(あぁ……社長……ハルツ社長……幼くしてあらゆるものを奪われた私を絶望から救って下さった貴女こそは、まさに私にとっての女神様……そのご恩に報い貴女をお救いできるのならば、私は手段を選びません……)」

「(赤と黄色に加え、緑か……またわかりにくいというか、微妙な位置付けの色が来たもので……)」

『(凡そは大気か植物か、或いは毒素の類でしょうかね。まあ何にせよ、我々は避けるだけですが……)』

次回、『第三百四十六話 戦うゲスト様-炸裂!信号紀和!-』

さほど期待せずお待ち下さい……

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