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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百四十四話 戦うゲスト様-無口剣士とゴーレムカデ-



あ、そういえばハ・セゥの解説してない……ま、いっか

―前回より・中央スカサリ学園第二体育館内―


「……よもや我が鎧を砕かれようとは……不覚……」


 恐らく多くの読者が『無数の岩によって構成された土人形ゴーレムめいた存在』であると予想していたであろうハ・セゥ。しかしその正体は、魔術によって束ねられた深成岩の人形を鎧のように身に纏い、その内部にて脊椎のように振る舞う色素欠乏アルビノ個体が如しカラーリングの細長いムカデであった。ただ、細長いとは言えどもそこはムカデ。細長く鞭のようにしなる触角の先端部に至るまで外骨格で覆われ、動くものならば何にでも噛み付きそうな大顎は寡黙な彼の秘めたる獰猛さを物語るかのようであった。

「ゴーレムの中に……ムカデ、って……」

「……そんなに驚くことか?……気色の悪い変な虫は、石の下や穴蔵の中を好むものだ……小生の場合、魔術にて自作した穴蔵それごと移動する術を身に付けただけのこと……別段変でもあるまい?」

 字面だけ見ると『いやそれはねえよ』と突っ込みたくなるかもしれないが、現実にもヤドカリやオオタルマワシ等"自作した穴蔵ごと移動する術を身に付けた生物"は存在する。

「……然し……まさか小生の鎧を魔力なき単純な爆破と打撃によって物理的に破壊しようとは……薄々気付いてはいたが……貴公等はまさに、歳不相応の手練れらしい……貴公等の内一人でも我が校の学生であったのなら、学園はより栄華に近付いたであろうに……まっこと、惜しいものよ……」

 ハ・セゥの触角が力無く垂れ下がる。どうやら皮肉や冗談などではなく、心から残念がっているらしい。しかし四人―特に中央スカサリ学園の擁する狂気の片鱗をまじまじと見せつけられたシルナスの態度と言動には、学園への明確な敵意が籠められていた。

「普通なら素直に喜ぶべき所なのでしょうし、ここでこう返すのは失礼なのでしょうが―正直貴方のような方に褒められても嬉しくありませんね」

「……聖職者故、ただの下賤な虫螻如きの言葉は賞賛さえ不服かね……確かに正論だな……」

「おっと、これは失礼。言葉が足りませんでしたね。"貴方のような"というのは"中央スカサリ学園ここの関係者"という意味ですよ。何分普段の住まいが住まいですし、僕も父親の代からそういうクチ(・・・・・・)なものですから、種族や血筋で差別するつもりもなければ、そうする権利もありません」

「……そうか……訂正を受けて益々正論だな……」

「あんた個人をよく知ってたならここまで言う必要も無かったんだろうけど、あたしも一度捕まっちゃったからさー。ほら、何だっけあの……パピコ・イレなんとかって奴」

「"イレピドゥス"だよイリアさん。あと"パピコ"じゃなくて"パピオ"」

「そう、それそれ。"パッピッポー・イレイザー"、あの猿に捕まって危うく掘られそうになったのよね。だから中央スカサリ学園あんたらは生かしておけないって訳」

「(どっちにしろ"パピ"と"イレ"しか合ってない……)」

「……そうか……それはすまなかったな……やれやれ……これでまた遠ざかってしまったようだな……吹っ切るには丁度いいが、然しどうにも残念でならん……」

「吹っ切る?一体何のこと?」

 アリシスにそう聞かれたハ・セゥは、少しばかり口籠もりながらも口を開いた。

「……っ…………実に馬鹿馬鹿しく……何ともくだらない……哀れな虫螻の妄言だ……聞き入れられもせず、喋るより前に斬り殺される覚悟をせねばならぬほどには……それでも良ければ話さんこともないが……」

「いいよ、話しな。どんな馬鹿話だろうと、聞き手くらいにはなったげる」

 それは四人の総意であった。とは言っても事前に示し合わせたわけではなく、彼らの意志が図らずも一致していたのである。

「……うむ…………実はな、小生………これから死ぬかもしれんという時になってな……してしまったのだ……」

「してしまったって、何を?」

「……その、なんだ…………俗に言う……初恋……という、奴をな……」

 四人は耳を疑った。だが向こうが真剣である以上、こちら側もそれなりの態度で聞き手に徹せねば非礼にあたる。四人は示し合わせぬままに判断する。

「……可笑しかろう?……笑えよう?……だが小生はこれでも真剣なのだ……」

「可笑しくなんかありませんよ。それで、相手は誰なんです?」

「……相手、なあ…………其方の、何とも上質な黒髪をお持ちの剣士殿よ……」

「(え、私!?)」

 突然の告白にエルシトラはどうしていいか解らず困惑するしかなかった。何せ彼女は元が美しいにもかかわらず(作者・蠱毒成長中が確認できた限りでは)男性に言い寄られた経験というものが殆どないに等しいのである(あくまで作者・蠱毒成長中が確認できた限りの話だが)。あって体組織の殆どを機械化したという好色な老技師に気に入られ、小遣いだと大金を掴まされたぐらいのものである。

「……無人偵察機の航空写真に映り込んでいた其方の方を目にしてからというものの……そのお姿が忘れられんでな……だが小生と貴公等は敵同士……正面から告白などしようものならばいの一番に切り伏せられよう……例え敵同士でなくとも、斯様に醜悪な異形の容貌で麗しき淑女剣士と並び立とう等、身の程知らずにも程がある……ならば我が初恋、失恋に終わるが道理であろう……」

 四人は言葉が出なかった。今まで出会ってきたT.O.R.O.隊のメンバーと言えば、どいつもこいつもやれ精を寄越せだ子を産めだ、そんな事ばかりを言ってくるような奴らばかりだった。だというのに彼は、それらより格上であるにもかかわらず汚らわしい性欲を一切見せていない。それどころか、初恋の相手に自分は相応しくないと謙遜までするような、言葉にし難き純粋な心の持ち主なのである。

「(まさかこんな所でこんな事になるなんて……)」

 エルシトラは尚も困惑していた。だが彼女の中では、ある一つの考えが纏まりつつもあった。

「(確かに住んでる次元が違うし敵同士だし、付き合うのはまず無理だけど……でも、せめて……)」

 決意を固めたエルシトラは、尚も頭を抱える仲間達を尻目に失声症患者用携帯型発声装置を床にそっと置き、自らの声(・・・・)でハ・セゥに語りかける。

「確かに私は、貴方とは付き合えない」

「っ!?え、エル!?あんた、喋って大丈夫なの!?」

「そんなまさか……エルさんが……まさか……」

「……何時もジェスチャーと筆談ばっかりで台詞ない割にCV設定されてるエルさんが、まさか自分から喋るなんて……」

「……あのさぁ、今シリアスなシーンなんだからそういうのはモノローグに留めといてよ……っていうかあんた等私を何だと思ってるの?そりゃ私だって失語症でもなきゃ声帯だって無事なんだから喋ろうと思えば喋れるわよ。公式の四コマでも台詞あるし」

 冗談にしてもあんまりな仲間達に呆れ返りながら向き直ったエルは、改めてハ・セゥに自身の胸中を告げる。

「気を取り直して……確かに私と貴方は付き合えない」

「……そうだろうな……解っているさ……そこは潔く退――「でも私が貴方にとっての初恋の相手である事には変わりないし、付き合う事は出来なくても、純粋な厚意を持たれた以上それに精一杯応えるのが筋だとは、思う」

「……気持ちは嬉しいが……一体何をするというのだ……?」

「やっぱり敵同士である以上、戦う以上のことはできないと思う。でも、戦うことはできる。だから、私は……」

 コンパウンドボウを床に於いたエルシトラは、鞘より愛用の片手剣を抜き身構える。

「せめてこの剣で、敬意を以て貴方に一騎打ちを挑ませて貰おうと思ってるんだけど、どう?」

「……素晴らしい……一騎打ち、喜んでお請けしよう……初恋の相手ならば、葬るも葬られるも本望だ……」

 優しげなエルシトラの問いかけに、ハ・セゥは喜ばしげに応え身体をしならせる。

「エル……あんた……」

「「エルさん……」」

「三人とも、手は出さないでね……これは私と、彼との勝負……決着がつくまで、貴方達はギャラリーで居て……」

「「「……」」」

 エルシトラの真剣な面持ちからその覚悟を気取った三人は、黙って床面に座り込み、勝負の行方を見届ける事にした。


 かくして執り行われたエルシトラとハ・セゥの一騎打ちは、一瞬のもとにエルシトラの圧勝で終わった。大顎を広げた状態で胴体をバネにして投げ槍(ジャベリン)のように飛び掛かったハ・セゥを、エルシトラが片手剣で盾に分断したのである。極めて精密な斬撃により形成された切り口は断面図のように美しかった。

 そんなハ・セゥの亡骸はエルシトラの意向によりエルクロイド兄妹によって丁寧に火葬され、祈りを捧げた後四人はそそくさとその場を後にした。

 ハ・セゥについての補足

・元々はダンパーが敷地の一部を使って耕していた畑に住み着いた巨大なムカデであり、食害から作物を守り糞によって土を肥やすなどして収穫を豊かにしていた為ダンパーから若干の餌付けを受けていた。

・やがて敷地内へ野放しにしているのを怖がった一部の生徒や教員から苦情が殺到し、ダンパーの手で飼育という形で保護されるも数年で老衰死。

・死を悼んだ飼い主によってハ・セゥの名と知性と言語能力を与えられT.O.R.O.四神に加わる。

・身に纏う深成岩はそれそのものが彼専用の魔力タンクになっており、これを崩されると魔術を使えなくなってしまう。

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