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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
332/450

第三百三十二話 戦うゲスト様-速さは足りている-



零華VSアイル(&永谷)!

―前回より・地下駐車場にて―


「てァあッッ!」

「ッシェイッ!」


 薄暗い地下駐車場へと笛の音に似た音が木霊し、二枚刃の直刀・血風丸ケップウマルが振るわれる。敏捷性特化型強化人間クレイド・零華の手によるその斬撃は、確かにクロコス・サイエンス医務室長兼クロコス反乱軍幹部格"反乱の四凶"に名を連ねる魔術師アイル・ア・ガイアーの喉元を的確に狙ったものであった。

 しかしアイルはそれをすんでの所で難なく回避し、そればかりかアオザイの袖から生えてきた機械的な節足を操り、血風丸を受け止め押し返してしまった。その後暫く刀と節足とで斬り合い打ち合った両者は、体勢を立て直すべく一旦停められていた社員のものと思しき乗用車の影に退避する。


「ン~ふゥン、何てスピード……一瞬本気で頸動脈を二本くらいブッた斬られるかと思ったわッ」

「言ってる場合ですか。これが改造前だったら確実に死んでましたよ?」

「生きてんだからいいじゃないの。いざとなったらに永谷ちゃんの『双子使徒』もあるんだし」

「そういう問題ではありません。危機感が無いと言ってるんです。それに私の双子使徒とて万能でないことはアイル様もよくご存知でしょうが。先程こそ偶々防御に成功しましたが、何度も成功する保障はどこにもないのですよ?」

「それはそうだけどもさー」


「(……まさかこっちにも血風丸を避けては止める奴が居るとはねぇ……予想の範囲内っちゃあそうだけど、魔術師とか言っときながらあの爪みたいなのだけであそこまでの実力とか、正直嫌な予感しかしないわぁ……)」

 白いワゴン車の背後に隠れた零華は、自身専用と言って良いほどに愛用している直刀・血風丸を見つめつつ、サディスティックな現実に翻弄されるまま賢明に生き抜いた生前(・・)の記憶を反芻していた。中でも特に強く思い返されるのは、因縁深き宿敵に夫共々"生きながらの完敗"を喫した、あの時の記憶。

「(あの時もそうだった……いや、あの時は私達の未熟さが大きかったわけだけど、だからこそ嫌な予感しまくりなわけで……)」

 吐き出された溜め息は、向こう半年分の幸福が丸ごと逃げ出しそうなほどに大きなものであった。

「(ま、仕方ない……っか。私がこの状況となると他の皆も何かしら追い詰められたりしてるんだろうし、何とかしないと……)」


 かくしてほぼ同時に姿を現した両者は、闘争を再開する。アイルが背から生えた百合の花弁が如し翅で舞い上がれば、それを追う形で零華が跳躍し斬り掛かる。甲高い音を伴って振るわれた血風丸は、再びアオザイの袖から延びてきた機械的な節足―アイルの両腕に装着された二つの腕輪こと、"カドム・イム"の一人によって作られた『双子使徒』の展開部によって弾かれる。どうやら永谷の心配は杞憂に終わったらしい。

 だが剣士としての経験に富む零華にとって、(幾ら嫌な予感しかしないとは言えども)刀を弾かれる程度の事などは想定の範囲内である。咄嗟に空中で耐性を立て直しては、駐車場の天井に張り巡らされた電気コードやパイプを素早く伝ってホバリングするアイルの背後へ回り込み、左脇に生じた一瞬の隙をも瞬時に見極め血風丸の刃を滑り込ませる。


「(トったッ!)」


 零華は確信していた。このまま振り抜けば胃なり腸なりの内臓を切り付け、アイルをある程度出血させることができるだろう。上手く行けば肋骨を回避させつつ刃を腹大動脈まで到達させることさえ可能だろう。そうなれば相手アイルはほぼ確実に治癒魔術を発動せざるを得ず、その分動きが鈍る筈だ。幸にもあの変な連中が用意してくれた書籍やシミュレータで学んだ知識に今までの経験が合わさったお陰で"骨を避けつつ肉を斬る"スベは今や自分の十八番オハコになりつつある。


「(これならイケるッ!)」


 零華はまるで無駄のない動きによりアイルの横腹を切り付けようとする。それはアイルにとってもまるで予想外の出来事であり、全ては零華の思惑通り進むものと思われた―――が、そうは問屋が下ろさないとばかりに零華へ牙を剥く者が在った。

「お忘れですか、この私を」

 アイルの腰あるいは尻の位置から尾のように生えている・・・・・ボールニシキヘビの永谷である。それまで"尾"として無力に垂れ下がっていた彼女は、零華の接近を察知するや否や―それこそ獲物を発見した蛇のように零華の腕へ絡み付く。

「なッッ!?」

「幾ら蛇という字に虫偏ムシヘンがつくからと、私を無視ムシして貰っては困ります――ねッ!」

 零華の右腕を空中で器用に絡め取った永谷は、藻掻く相手の力を逆手に取り器用に投げ飛ばす。その力は想像以上に凄まじく、投げられた零華は咄嗟に血風丸を鞘に収め、近くにあった乗用車のボンネットへどうにか着地する。

「抜かったわねぇ、零華ちゃん」

 滞空状態のまま向き直り、アイルは言う。

「どうせ永谷ちゃんを単なる尻尾ぐらいに思ってバックを取ったんだろうけど、この子の強さはそんじゃそこいらのニシキヘビとは別次元。ライフルの弾は弾くし、飲み込んだ爆弾が胃の中で爆発しても平気だし、巻き付く力や顎の筋力だって凄いんだから」

「何そのインチキスペック」

「生体強化改造の賜物であり私の実力とは言い切れませんが、もし先程もう少しお時間を頂けたなら――」

「頂けたなら?」

「――貴女様の右肘から手首までを、その他の部位へ一切の外傷をつけぬまま締め潰し、そのまま右肘から引き千切るぐらいの事は――「お断りだわー」――そうですか」

 何とも恐ろしい事をさらりと口走る永谷に背筋が凍るほどの悪寒さえ感じた零華であった。

蠱毒「次回、アイルもしくは永谷の秘密が明らかになったりならなかったり!」

読者「どっちだよ!?」

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