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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
330/450

第三百三十話 戦うゲスト様-爆裂パイソンストマック-





三入浬の身体に隠された謎とは……

 三入浬ミイリカイリ。ヤムタの中堅国家・蛇道シュアルに起源を持つ蛇系有鱗種の名家・三入家に生まれた彼は、先祖や身内と同様に高い技術を誇る優れた魔術師であり、生前は中央スカサリ学園高等部の専門魔術科で流水や水圏に関する魔術を教えていた。その才能と実力はダンパーに一目置かれるほどであり、個人的に親しかったこともあり交通事故で死亡した彼は死後T.O.R.O.隊の幹部"T.O.R.O.四神"として蘇生され今に至る。

 生前は胴体の中程から一対の腕が生えた灰色の大蛇といった風体の彼であるが、T.O.R.O.四神として得た新たなる肉体は、前回或いは三百十話にて描写したような―肥大化した下半身が蛇とも深海魚ともつかない異形の化け物と化し、自身はその内臓及び舌として備わるという奇異な構造の―ものである。この化け物のような下半身に脳はなく、全ての感覚器は浬の上半身が体内に収められている場合のみ彼のそれと連動するようになっている。また、下半身の内部は殆どが円筒形の胃として機能し、捕食・・した獲物を保存したり、軽く消化して食べやすくするのに用いられる。


―前回より・浬の下半身内部―


「……――大丈夫か、あかり?」「あ……お兄ちゃん……私は、大丈夫……さっきは寒さで気を失っちゃったけど、こんなに蒸し暑くて生臭い場所に来たら気絶なんてしてられないよ」

「そうかよ……まぁあのヒッキー野郎の腹ン中だからな。だが気絶してただけってなァ何とも僥倖だぜ、一瞬取り返しのつかねー事になってんのかと思っちまったんでな」

「見くびってもらっちゃ困るね。私は魔法少女ルナトーズ……こんな所で死にかけるほどヤワじゃ、ダムラスとなんて戦えやしない……」

「ふん。誰に似たんだか知らねーが、我が妹ながら相変わらずいい性格してんなお前は」

「多分お兄ちゃんに似たんだよ」

「そう言われっと何かこっずかしいが、悪い気はしねえな。で、これからどうするよ?」

「どうするって、奴をやっつけてここから出るに決まってるじゃん。あいつ、外側はハーレーレイピアどころかクレセントチェーンソーやルナフラッシュでも歯が立たなかったけど、内側はこの通りぶにょぶにょだし」

「となりゃ、俺らで好き勝手暴れ回ってりゃあ――「そうはさせませんよォ~」――!?」

 健の言葉を遮るように、ねっとりと絡みつくような声が響き渡った。見れば何処に隠れていたのか、粘り気の強い胃液を滴らせた浬が、舌を思わせる質感の皮膚を脈打たせつつ腹の奥から這い出てきている。

「っっ!てめ、ヒッキー野郎!どこに隠れてやがった!?」

「どこに隠れてたって、変なことを聞きますねぇ。ここは我が下半身の内部――言わば私にとって第二の体内と言ってもいい空間ですよ?それに隠れる様子なら今までも見てたじゃありませんか」

「……そういや、そうか。そりゃそうだよなぁ……」

「でっ、でも、あんたのいかにも敏感そうな体を守るものだってもうないわ!つまり――ッ゛ぅ゛あ゛ッ!?」

 突如、じゅわりという音が立ったかと思えば、あかりの左腕へまるで火傷の様な凄まじい激痛が走る。見ればあかりの左腕の一ヶ所が浅く刔られるかのように焼け爛れていた。

「あ、あかりッ!?――ンのヒッキー野郎、あかりに何しやがった!?」

「何をと言われましても、何もしてはいないとしか答えようがありませんねェ」

「ンだとテメェ!?ふざけんじゃねぇぞ!」

「ふざけてなどいませんよ。だって仕方ないじゃないですか、生理現象なんですし」

「生理現象……?」

「そう、生理現象ですよ。それも精神的な抑制に限界のある類のね」

「てめェ、そりゃどういう事だ―うをっ!?」

 突如、健の背中から先程と似たような音が上がる。健が慌てて触ってみると、特殊素材由来の強度により今の今まで如何なる攻撃からも自身を守ってくれていたスーツの一点が何かによって深く刔られていた。

「(ッ……いとも容易くベルセルスーツを刔りやがった……)」

「すみませんね、高そうな御召し物に傷をつけてしまって。でも本当に仕方ないんですよ。だってそうでしょう?胃液の分泌を気合で止めろだなんて、無茶にも程がありますよ」

「胃液……だと?」

Exactlyそのとおりでございます。そもそもこの空間こそは我が第二の胃。飲み込んだ獲物を強力な胃酸により溶かし、食べやすく加工する―――所謂"体外消化"という奴ですかね。丸飲みというスタンスから消化が遅く、故に一度の食事で長期の絶食に耐えうる我々蛇には本来無用の長物ですが、この体となってからは私の口にすら入らないような獲物をも捕らえられるようになりましてね。特別仕様故に有機物に限らずあらゆるものを消化する胃酸はそれそのものが攻撃にもなりますし、獲物が来たら強制的に分泌されてしまうデメリットは抱えていますが、何かと重宝してるんですよ」

「分泌が強制だからあんたは悪くない……悪いのは飲み込まれたあたし達って事ね……」

Exactlyそのとおりでございます。厳密に言うなら悪いのは貴方がたではなく飲み込まれてしまった貴方がたの運ですがね」

 蛇故の長い舌で饒舌に言葉を紡ぐ浬に、健は義妹あかりを守るように抱き抱えながら滴り落ちる胃液に耐えながら、尚も強気を維持し続ける。

「ヘ、どっちだろうが大して変わんねぇよ。要はこの、大雨ン中傘無しで駆け込んで来た奴らがギチギチに詰まってる講義室みてーにジメジメしてて、ヨーグルト増やすのに使い終わって常温で放置された牛乳パックみてーに生臭ぇ上に、俺のスーツまで溶かす消化液の滴り落ちてくるテメェの胃袋から、俺ら兄妹が華麗に脱出しちまえばいいだけの話なんだろ?」

「まぁそうなりますが、しかし――「だったら話は早え!あかり、アレやっぞ!」

「アレって、まさかアレのこと?」

「そうだ!前にラナグルなんとかって馬鹿でけえカエルに飲み込まれた時に思い付いて、そのまま吹っ飛ばしたろ!」

 健の言う"ラナグルなんとかという巨蛙"とは、中央スカサリ学園の生み出した生体兵器"ラナ・グルーティアム"のことである。

「相手はカエルからヘビになったが、飲み込まれたならどっちも同じだ!消化液と奴の攻撃は俺がガードしといてやっから心配すんな!」

「え、あ、うん、分かった!ちょっと待って、多分すぐ打てるようになるから!」

 健に守られたあかりの手元へ地球の守護者である月面民族の姫君セレナより授かりし月光のエネルギーが収束されていき、それはやがて兄妹を包み込む球状の光膜こうまくとなる。徐々に輝きと厚みを増していくそれの輝きに、浬が思わず目を覆った――その、瞬間。


「――ファイアッッッ!」

「な、は――まさ、か―――ぐォえァァァァ!?」


 膨張するかのように炸裂した球状の光膜は、その神秘的かつ膨大なエネルギーにより浬の下半身を内部より完全に―胃壁から硬骨、そして外皮に至るまでを―木っ端微塵に破壊し尽くし、残された浬をも吹き飛ばした。

 結果として二人はおぞましき巨獣の胃袋より脱するに至り、術者が負傷した事により"三入海域"も強制解除された。

脱出!

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