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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百二十九話 戦うゲスト様-丸呑み-




戸田・月詠兄妹VS浬、その行方は……

―第三百十話より・中央スカサリ学園敷地内の高等部第三理科実験室―


「ねぇ、お兄ちゃん」

「何だ?」

「例えばヒーローものの番組とかで、たまに何か妙に強い奴っているじゃん」

「あー、そこそこ居るな。俺も何度かそういうのとは戦ったことがある」

「実体験があるなら丁度いいや。お兄ちゃんにとって、そういう敵の中で一番厄介なのってどういうタイプ?」


 激戦の余波を受けたことにより荒れ果てた挙げ句、不自然に静まり返った広大な実験室の中、一見余りにも場違いな兄妹の問答が開始される。


「……強い奴は大体厄介だが、特にヤベーと思ったのは"攻撃の通らねー奴"だった気がする。例えば無茶苦茶硬えとか、逆にゴムみてーな身体でキックの衝撃吸収されたりとかな」

「そういう時って、基本的にどうやって勝ってたの?」

「何かそれ用の新しい武器とか技がポンと出てきたりって事はよくあったな。俺じゃねえが、ヒーローもんのテレビ番組とかでもそうだろ。新しい武器の試し斬りや試し撃ちに使われるみてーな」

「んー、成る程。案外魔法少女わたしと大差ないんだねー」

「そうだな……で、何でまたこの状況でそんな質問を?」

「何でって、そりゃあ―――」


 あかりはノーモーションのバックステップでその場から4m程飛びのく形で間を置き、続く形で健が左へ6m程跳んだ―――直後のこと。二人が先程まで居た辺りの床が水面のように波打ち、海蛇とも深海魚ともつかない化け物―もとい、T.O.R.O.四神の一人・三入浬ミイリカイリ―が大口を開けて垂直に飛び出したかと思えば、そのまま水面のように波打つ天井へと潜っていってしまった。


「――あいつが無傷なこの状況を打開するヒントがあるかと思って」

「そいつは俺もさっきから必死で考えてた所だ。いかに奴の硬ェ皮をブチくか、いかに奴の口ン中へ攻撃を叩き込むかって、そればっか考えてる」

「何かいいアイディア出た?」

「全然。お前は?」

「私もだよ。あのウナギみたいな奴は潜ったままだし、たまに出てきてもああやって食らい付いてくるだけですぐ潜っちゃうし、そもそも普段からして本体があんま口から出ないし……」

「まるで引き篭りヒッキーだな。何かベラベラくっちゃべってたが、ああ見えて実はデリケートな鬱病患者だったり――フんッ!」

 突如、健は背後に向けて上段回し蹴りを放つ。あかりは兄の不可解な行動を疑問に思ったが、ふと床に落ちた物体を見て蹴りの意味を悟った。

「(……矢!?)」

 そう。床に落ちていた物体とは、強い衝撃により横方向から曲げられた金属製の矢だったのである。「……義兄妹水入らずで会話してる最中に狙撃たぁ、ヒッキーの癖にアジな真似をしやがる」

「それを蹴りで弾き落とす貴方に言われたくありませんねェ」

 変身状態のまま威圧的に言い放つ健の言葉に応じるかのように床から這い出て来た浬の右手には、ヒトが片手で持つには大きすぎるクロスボウ―俗に"イシユミ"などと呼ばれる代物が握られていた。

「ヘ、ああ言やぁこう言いやがる……んで、お前の言ってた大魔術ってのには何時お目にかかれんだぁ?まさかこの理科室をお前専用の金魚鉢にしたってだけで終わりじゃねぇよな?」

「勿論にございます。調度今からそれをご覧に入れようかと思っておりましてねぇ――ィよっ!」

 浬は再び自身と一体である化け物の口内へ身を収め口を閉じると、跳び上がって頭から床へ飛び込んでいった。兄妹は咄嗟に何が出るかと身構えんとしたが、異変はそれを先回りする形で兄妹を襲う。

「ッ、な――がぼッ!?」

「うブ――ぐッ!?」

 突如、どういうわけか二人の身体が水中へと落下する。水温は冷水プール程度で水底に足がつかず果ては知れない(ただ、味からして海水であろうことは間違いない)。水域は理科室の床全域に及んでおり、その様子は水没とか浸水というよりも、床そのものが海と化したかのようであった。

「がば、はッ、クソ!いきなり何だってんだ!?」

「わかんないけど、多分これがあいつの言ってた大魔術って奴なんじゃない!?」

 あかりの声は若干震えており喋りはぎこちなかったが、それは偏に身に纏う衣装の露出度が兄より高く加えて小柄で細身故、体温の低下も早かったために他ならない。健は寒さに震える義妹を抱き抱えては水流から逃れる術を探したが、壁や天井も床同様水面と化しており(魔術の作用からか重力により水が落ちてくることはない)、自分たち以外に水へ浮く物体も見受けられない。

 衣類で浮き袋を作るべく変身を解除する手も考えたが、相手の狙いがそれ(・・)であったならばその時点で兄妹揃って殺されてしまうだろう。何より変身解除の為に手を放すことは、義妹を抱きかかえる手の片方を放すことでもあり、ふとした気の緩みで妹を放してしまいそうでとてもできたことではなかった。かといって変身状態を維持したまま本部に連絡を取ろうにも結局片手を放すことに変わりはなく、浬がその隙を突いてくる恐れもある。

 結局妹を抱きかかえて水に浮いた状態を維持しなければならなくなった健は、それでも尚水中に潜む浬を相手取るべく身構える。

 潜っていた浬が中央から顔を出したのは、海と化した床の全域に巨大な"渦"が生じ始めたのとほぼ同時のことであった。

「御機嫌よう。如何ですかな、これぞ我が家に先祖代々伝わる大魔術……ある一つの空間を成す全ての平面を海とし、それを意のままに操る"三入之海域"」

「ケ、自分の部屋に他人を無理やり連れ込むたぁ、如何にもヒッキー野郎らしい作戦だな」

「ふん……減らず口を叩くのなら今のうちですよ。この小さな海は私の意のまま。幾らそのスーツで超人的な力を得ているとはいえ、霊長種である貴方がこの渦から抜け出すことは不可能といっていい。ましてそちらの妹さんならば、私が直接手を下すまでもなくお亡くなりになってくださるでしょうし……どうするかは貴方がたの勝手ですが、抵抗は一切無駄であるとは警告しておきましょう」

「……」

 ぎりり、という音がしそうなほど歯噛みする健であったが、彼にとっては極めて不愉快なことに浬の発言は一々無駄に的確であり、義兄妹は成す術もなく渦に乗せられどんどん中央に引き寄せられていく。

「(ふむ、諦めたか……よし、この調子ならばここで下半身に潜って大口開けて身構えていればあとはどうとでもなるだろう)」

 浬は腕の生えた蛇のような体を、自身の下半身である蛇とも深海魚ともつかない化け物の口内の更に奥深く―具体的に言えば胃の辺りへ潜らせ、激しくなる渦の中央で大口を開けたまま待ち構える。


 程無くして、義妹あかりを抱きかかえた健はまんまと浬の下半身である化け物によって丸呑みにされてしまうのであった。

えッ、ちょ、喰わッ……喰われたぁぁぁぁぁぁ!?

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