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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第三百二十八話 戦うゲスト様-決着する剛腕-





決ッッ着ッッ!

―前回より・研究室内―


 絶大な"腕力"を基軸とする剣士二人の激突による余波は、戦場として選ばれた研究室に多大な破壊をもたらした。その被害は余りにも凄まじく、研究室は既にその原型を留めていない。"大振りな机さえ見えない(・・・・)程に破壊され、壁や床に穴の一つも空いていないのがまるで奇跡的に思えるほどの有様"と言えばそれがどれほどの惨状であるのかお解り頂けるかと思う。もっと完結に言うならば"部屋に充満したガスへ火の気を放ち丸ごと爆破されたかのような惨状"といった所か。

 そしてそんな"爆破されたかのような惨状"を作り出した張本人達はと言えば、そんな周囲の有様など眼中に無しと言った具合に延々と斬り合いを続けていた。


「どゥえアおりぁぁあア゛ア゛ア゛あォぅンンっ!」

「しェ゛ア゛ぃおルぁゥ!ッツェアイッ!たゥあ!」


 如何にも声に出して読み上げるのが面倒臭そうな叫び声を上げながら、二人の剣士に握られた二振りの大剣―禁忌丸と恒星龍神剣の重厚な刃が衝突し、持ち主達はその反動により大きく仰け反る。しかしそれでも二人は引き下がることなく、互いの手にした刃を振り上げる。

 そうしてひたすら戦い続けた二人の身体は、やがて抗いようのない凄まじい疲労感に襲われ、遂に互いを殺せないまま疲れで動けなくなってしまった。亜塔の目からはRKを受けた強化人間クレイド特有の鮮血を思わせる赤い光が消え、鱗を砕かれ巨体に数カ所傷口が出来ていたガランが言葉にさえならない呻き声を上げながら床面に横たわる様は、それこそヒトならざる竜の死に際を思わせた(勿論死ぬ訳はないが)。


「はッ……あ゛ぁ゛……」

「フオ゛ァ゛ァ゛……ヘア゛ァ゛ァ゛ァ゛……」


 両者の容態を見るに、このまま両者が力尽きれば相打ち、どちらか一方が死力を振り絞れば一方的な勝利さえ可能と言えた。だが殺し合う内に図らずも"互いの死は己の剣によって、闘争の果てにもたらすべき"との結論に至っていた二人は、生を諦めも無抵抗の相手に止めを刺しもせず、あまつさえ交渉の果てに両者合意の一時的な休戦に至ることとなる。亜塔はポイントで飲食物を購入し、ガランに分け与えた。

 かくして始まった剣士達の休憩は、やがて一種の酒盛りに近い雰囲気で盛り上がっていく(酒は無かったが)。


「そんでまぁ紀和の奴がミョーにハッスルしちめぇやがってな、最終的にゃ吹っ掛けたアイルが参ってんだぜ」

「ははは、そりゃ酷いな。もし単にからかっただけでそうなったんならご愁傷様と言わざるを得ん」

「だろ?まぁアイルの奴も何だかんだ言いつつ満足してたようだが、正直俺と社長はドン引きだったな。ファープや柵木の姐御は腹ァ抱えて大笑い、リネラなんてどうしていいかわからないの状態だったが」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「それで温泉街に来た嫁が選んだのがペナントやら提灯やらでな。ウケ狙いだったらしいんだが」

「何か盛大にスベりそうだなそれ。ツレへの土産じゃねぇよ……」

「まぁ、スベるまでもなく嫁の弟に突っ込まれてやめたそうだ。土産は結局無難なもんにしたとよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「そしたら姐御の持参したイースト菌のビンがッボォン!つってデケー音立ててフタぁ吹っ飛ばしゃあがってよ」

「うをい、それ大丈夫だったのか?その頃の柵木さんって確かまだ四凶になる前だったんだろ?」

「オゥ。そん時ゃ俺も正直ビックラこいたもんだが、そこは流石の姐御でよ。スレスレで避けて何かポーズ決めちまってやんのよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「というようなことがあってな。あの幼馴染みに助けられてなきゃ今頃隻腕よ」

「ふーむ、魔術もなきゃ化け物もいねーってんだから平和なんだろうと踏んでたが、危ねーのはどこも同じか」

「そりゃな。寧ろこっちのが安全にさえ思えるよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……なあ、亜塔よ」

「何だ?」

「月並みな話だが、嫁がいるってのはどういう感じなんだ?」

「どういう感じって言われてもなぁ……一言じゃ言い表せねえ、色々なもんが詰まってるわな。ツマだけに」

「ほう、上手え事を言いやがる。

……そうか、一言で言い表せねえ色々なもんか……」

 何処か悲しげな表情のガランは、カレーパンを三つ乱暴に一口で頬張ると、それをボトルコーラ丸々一本の一気飲みで流し込みつつ咀嚼。飲み込んでから咆哮のようなゲップを吐き出した所で床に寝転びつつ物憂げに言う。

「そんな色々味わえるんなら……俺も恋とかしときゃよかったかなぁ……」

「"しときゃよかった"ってお前……今まで恋愛経験ねぇクチか?」

「ああ」

「片想いも?」

「ねぇな……ガキの頃からそうだったよ。戦うって事に憧れてた。父親オトンは凄腕の生体災害応戦士で、母親オカンはかつて天才と呼ばれた棋士だった。そんな二人に影響されて育った俺にとって、恋ってもんはひどく不毛に見えた。勃たねえなんてこたねぇし、友情つうもんはあったがな。恋やらセックスやらへの願望はなかったんだ。仮にあっても"この躯で戦えなくなったら考えよう"ぐれーのもんでな……」

「ならこの戦いて俺を殺すついでに戦争も終わらして、そこから適当な女見繕って恋しても遅かないだろ」

「そりゃそうだがよ、俺が悔いてんなぁそこじゃねぇ。オメー相手に嫁やガキの話ができなかった、それが何より悔しいんだよ」

「そういう事か……」

「バカみてえだと思うだろ、でもこれ当人なりにはマジなんだよ」

「いやいや、バカみてえだなんてとんでもねぇ。そういう想いは誰にでもあるさ。例えこの世に人知を超えた奴が居ても、そいつにだってその想いを嘲り虚仮にすることは許されないだろうよ」

「……有り難うよ、亜塔。お陰で気分が晴れたぜ」

 心の底からの自然な笑みを浮かべたガランは、傍らの恒星龍神剣を手に取りぬっと立ち上がる。

「さて、飯食ってダラダラ話し込んだお陰で体力も幾らか戻ってきた事だし……」

「そろそろ行くか、決着」

 ガランに乗じる形で禁忌丸を手に取りすっと立ち上がった亜塔は、目を赤く光らせ身構える。

「勝負は今まで通りシンプルに」

「力一杯に互いを斬り合い」

「生きてた方が勝ち、死んだ方が負ける」

「「――……――……」」

 両者、沈黙のまま睨み合いを経て握る手に力を込め―


「―――ヴァォガァァァァァァアアアァ!」

「―――ゼゥルラぁぁああああぁぁあァ!」


 ―呼気を肺ごと吐き出す程の勢いで一斉に叫び、剣を構えては研究室の床を全力で走り出す。

 二人が互いの間合いに到達した時、先手を取ったのは低めの姿勢で水平に刺し貫く形へ構えられた恒星龍神剣であった。その肉厚な赤い刃が亜塔の右横腹を切り裂き、彼の服を血で赤く染める。

「(ったッ!あとはこいつを左へ――ッッ!?)」

 ガランは亜塔の腹を刺し貫くように切り裂いた恒星龍神剣をそのまま左へ力任せに振り抜こうとするが、剣を握る腕を亜塔に掴まれ腕の動きが止まる。

「(野郎、どこにこんな馬鹿力をッ!?クソ、ピクリとも動か――)」

 亜塔の腕を何とか振りほどこうとするガランだったが、彼の脳から発せられた電気信号が両腕に伝わるより先に禁忌丸は振り上げられる。


 そして両腕が脳からの命令を遂行しようとするのとほぼ同時に重厚な刃がガランの脳天へ触れ、そのまま一気に頭蓋骨を破壊し、硬い鱗に覆われ強固な骨と凝縮された筋肉によって支えられていた上半身を真っ二つに分断。手元より落ちた恒星龍神剣は新たなる持ち主を待つべく造り主の元へ戻っていく。



 かくして、激しき信念のまま戦いに明け暮れた剣士は、断末魔さえ上げずに絶命した。



「(さらば我が強敵ともよ。もし再会が叶うのなら、何れまた地獄で……)」


 静かに黙祷を捧げた亜塔は、丁寧に葬る手立てもない以上長居は無用と判断し、足早にその場を後にした。

次回、戸田・月読兄妹の死闘!

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