第三百二十七話 戦うゲスト様-ぶつかり合う剛腕-
亜塔VSガランの戦いはまだまだ続く……
―前回より・研究室内―
「どぅえああああああああああああ!」
「くッ!フっ!どぅをぁっ!ッゼイ!」
亜塔とガラン。共に持ち前の怪力によって肉厚の大剣を振るう二人の剣士が互いの命を奪わんとぶつかり合う様は、ある種完全な素手のみの殴り合い以上に"純然たる力の激突"を思わせた。
亜塔を叩き潰さんと振り上げられたガランの赤い大剣が研究室の床や壁を粉砕し、難なくその攻撃を避けた亜塔が、嘗て三百十四話にて(彼曰く可愛い自慢の嫁であるという)零華の放ったものと同じ技――"曲刀風月流一の太刀 残光"を放てば、その目映い光は赤い大剣によって掻き消される。
時にガランの大剣は亜塔の皮膚を切り裂き骨を砕いたが、彼の身に宿るRK細胞によってもたらされた生命力は(日々の食事に混ぜ込まれていた様々な薬品による肉体強化の後押しもあって)常人ならば"重傷"或いは"致命傷"である筈のそれらをも単なる切り傷・打撲・骨折程度に留め、それらの完璧な治癒・再生を瞬く間に完遂させてしまう。
また、亜塔の振るう禁忌丸による斬撃はその殆どがガランの樹脂に似た質感をした軽量かつ堅牢な鱗に弾かれてしまっていたが、先に述べた"残光"の余波共々僅かなダメージを刻み込んではいるようで、鱗の幾つかには亀裂やそれに発展しそうな傷が見て取れる。
「(……痛、ぅ……一発一発が重いし鋭いな……伊達にあんなドでかい図体してるわけじゃないって事か……)」
「(おいおいマジかよ、対物狙撃銃の弾丸も通さねぇ俺の鱗が半ば割れかかってやがる……あの野郎、剣共々普通じゃねえ……)」
亜塔とガラン、向かい合う二人の剣士は近付いたり離れたり、叫んだり考えたりを繰り返しながら尚も戦い続ける。"殺し合い"と言いながらも互いに戦いをある種の試合と見ているのか、ガランは手に持った剣以外の武器―空いた手足や尾、牙等を一切用いず、それに合わせて亜塔も純然たる闘志と力だけを込め禁忌丸を振るう。
やがてガランの鱗は何枚かが叩き割られ刃の通る"弱点"が微かに生じ、RK細胞により原則として疲労とは無縁である筈の亜塔にも"限界"が近付きつつあった。だがそれでも二人は戦闘を放棄せず、寧ろ"弱点を斬られた苦痛"や"RKによる回復も追い付かない程の疲労"をも楽しんでいるかのように暴れ続ける。
―同時刻・社長室―
「嘘でしょ……あんな体格なのに生身でガランと対等に渡り合ってるなんて……」
監視カメラにて激戦の一部始終を見たハルツの第一声は、そんな一言であった。
「しかも始まってから結構経つのに、まだあそこまで叫びながら剣を振り回すだけの気力と体力が残ってるとか、どう見ても普通の霊長種じゃないんだけど……はぁ、やっぱりあの赤く光る目が関係してるのかしらねぇ」
静かにモニターの電源を切ったハルツは"すふはぁっ"といった擬音語が似合いそうな具合に溜息を吐く。
「ま、その辺りは何やかんや理由付け簡単だから保留として……問題はあの剣から出てた光よね。最初は魔術かと思ってたけど、あの光り方はどう考えても気だったのよね……まぁ今日日気の使い手なんて珍しくないし、気功なんていう気を軸に据えた武術もあるっていうんだから、只でさえ常識外れなあの男がそれを使ってたって何らおかしくない。それはいい、それは別にいいのよ。ただ……」
ハルツは顔を顰めつつ、頭に疑問符でも浮かびそうな具合に口を開く。
「ああいう気の光って、見た目が派手な癖にそんな強くないってのが定説なのよねぇ。良くて目眩ましやカメラ潰しが関の山、物体を物理的に破壊する力なんてまるで無い、パフォーマンス止まりの技でしかない筈なのに……それでもあの光は、ガランの鱗に防ぎようのない爆発とか、衝撃波みたいな形で傷を与えている……何故……一体何故そんな事が……」
頭を抱えたハルツは、更に『それと、問題と言えばもう一つ……』と、自らの疑問を口にする。
「そんな波動を完全な生体エネルギー依存で放つんだから当然規模は小さくなりがちなわけで、そうならガランの剣で全部打ち消せる筈なのに、完全に消せてないってどういう事よ……と。さっきの映像が確かなら、あの子が振るってた剣は間違いなく私が誕生日プレゼントにと買ってあげた"恒星龍神剣"の筈。遙か昔から世の理を外れた超技術とその名前とを受け継ぎ世界中で活躍する武具職人"カドム・イム"の一人が作ったあの剣は、何物の介入も許さない強力な斬撃で立ちはだかるほぼ全てのものを薙ぎ払い掻き消す刃物……まさにあの子が自分の意志を徹底して貫き通すかのような力強さの象徴……そんな恒星龍神剣の打ち消しでもムラが出るって、一体どういう技だっていうの?」
ハルツは頭を抱え必至に考えを巡らせたが、どんなに考えても納得の行く答えは出ず、やがて"あれこれややこしく考えるより、社員の勝利を願う方が大事だ"との結論に至るのであった。
カドム・イム
古代(一説には黎明期)から世界各地で活動を続ける、謎の超技術を有する技術者達の総称。その名は言わば一通りの修行を終えた証であり、所謂"一人前の職人"のみが名乗ることを許される。
恒星龍神剣
全体が赤い両刃の大剣。平たく分厚い刃の両面にはそれぞれ大陽のような恒星と細長い体型をした手足のない飛竜(或いは翼を持つ大蛇)のような紋様が描かれている。
固有効果については作中でハルツが言及した通りのもので、あらゆる防御や妨害を無視して剣を振るうことができる他、持ち主の攻撃動作も妨害・防御されることがなくなる。