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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
325/450

第三百二十五話 戦うゲスト様-ファミリアマスターザトラ:完結編-




最後の勝負とは……

―前回より・柔道場内―


「さて、こうして君らは遂に私との勝負に漕ぎ着けたわけだが……」

 相変わらずの痴女めいた変態的な身なりのまま、ザトラは真顔で言葉を紡ぐ。

「ひとまずは祝わせてくれ。おめでとう、よくぞやってくれた」

「ありがとよ。ひとまずはその言葉だきゃあ、素直に受け取らせて貰うとするぜ」

【(さて、お次はなんだ……?何を仕掛けて来ゃあがんだ、この露出狂め……)】

「言葉"だけ"か……」

「言葉以外に何を受け取れっつんだよ。で、最後の・・・勝負は何だ?」

「まあ、それもそうだが……うむ、次の・・勝負はお察しの通り私と君らによる実質的な一騎打ちだが……君はどうやら持久戦に強い体質だそうだから、ここは一気に勝負をつけようと思う」

「一揆に……か。何をしようってんだ?」

【いや字が違えよ坊主。一揆に勝負つけるって何だよ。世界観ブレまくりじゃねえか】

「ルールは至極簡単だ。恐らく決着はすぐにつくだろう」

無視シカトかよ……】

「ロキシャ、ボーグル。アレを此方へ」

「畏まりました!と、我が主の命に快く応じる男、ボーグル!」

「チとお待ち下さいましよォ~」

 ザトラに言われた二匹が運んできたのは、何の変哲もない単なる二つの白い紙箱であった。

「たった今、使い魔達に命じてこの箱の中に君の喉へ埋め込まれた"白の素"に対応する抵抗薬を入れた。箱を開けて中の抵抗薬を手に入れられれば君の勝ちだ。負けた場合、白の素により君の首から上は白いプラズマによって完全に消滅する……」

【なッ、てめ、そんなのが最後の勝負だってのかよ!?ふざけてんのか!?】

「ふざけてなどいないさ。真面目に考え抜いた結果、こうでもしないと勝ち目が無いからね……ほら、早く選ぶといい。制限時間はもう残り1分もないんだぞ」

「んなッ……」

【一分、だと……てめ、どこまで他人をコケに―――「落ち着きなよオッサン、感情的になったって事態は好転しねぇぜ」

【……だがよ坊主、どうすんだよ?つーかそもそも、こんなもんで命張るなんざ馬鹿げてると思わねぇか?】

「そりゃバカげてるだろうぜ。だがなオッサン、ラノベの主人公てのはこういう時にこそ真価を発揮するもんなんだぜ。っつーわけで……」

【いやそれ答えになってね――「安心と信頼の"迷ったら左"ィ!」――いや適当過ぎんだろオ――「と、思わせての右だぁ!」――イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!?】

 大士はよくわからないフェイントをかけつつ向かって、右の箱を引ったくる。ジャールは少年の意味不明な行動に驚く余り顔がカマラサウルスのようになりかけるが(これ則ちかつてその存在が仮定された"雷竜ブロントサウルス"である)、当の大士はそんなジャールを尻目に紙箱の中から目当ての抵抗薬を入手するに至る。

「っしゃあ!俺の勝ちだ!」

 大士は鎧の効果により強化された筋力で抵抗薬の入った瓶の底を捩じ切り擬似的なグラスを作って薬を飲み干した。

「おめでとう。この勝負、君らの勝ちだ。勝者特権として、要求があるなら何なりと言ってくれ。本来ならば殺されている筈の我々だ、いかなる無茶な要求をも許諾するのが筋というものだからね」

「……露出狂のくせに随分と潔い奴だな」

【いや、潔さは露出狂関係なく――「だったらアレだ、まだなんか隠してることとか、言い忘れた事とかを言って貰おうか」――また無視かよ……】

「言い忘れた事……か。あぁ、そういえば一つ重要なことを言い忘れていたよ」

「何だ?」

「いやぁ、こうやって必死に勝負を勝ち抜いてきた君らにこういうことを言うのは正直気が引けるんだが……」

【構わねえよ、言ってみな】

「そうかい?うん、じゃあ言うけど……今まで私は五素がどうとか、抵抗薬がどうとか言ってきたろう?」

「おう、それがどうした?」

「うん。実を言うとね、あれは全部嘘なんだよ」

「な、はぁっ!?」

【てめ、嘘ってどういうことだよ!?】

「そのままの意味さ。確かに私が説明した五素というものはこの世に存在するし、それらは総じて時限爆弾となりえるんだが、私が君の体内に仕組んだのは単なる樹脂の切れ端でね。そもそも体内にすら入れてないんだけど」

「な……に……?」

【じゃあ何か!?てめえは俺らをハッタリで脅かして、わけのわからん無意味なバクチを申し込んだってのか!?】

「無意味というのは違うな。目的は達成されている」

「目的……まさか……!」

「気付いたかね?そう、君が藁にも縋る思いで飲んだその"抵抗薬"……私の真なる狙いとは、それを君に飲ませる事だったんだよ」

【つこたぁ、こりゃ毒薬か何かかッ!?】

「毒といえばそうなるが、細部は異なる代物だ。そいつは有機生命体の身体を侵食しながら石灰石に変えていく恐ろしい劇薬でね、あと五分もすれば君の身体は完全な石灰像に成り果てるだろう……」

 ザトラの言葉を聞いた大士は、ふと腹の中が凝り固まり凍り付くかのような感覚を覚える。

「(成る程、こっちはハッタリなんかじゃねぇって訳か……)」

【ッ!てめ、汚ぇぞ――「止める手立ては?」―な、坊主!?お前何考えてんだよ!】

「聞きゃわかんだろ。石化を止める方法を聞いてんだよ。どうせこいつのこった、これも何かしらのゲーム絡めて来んだろうよ。なぁ、露出狂?」

「ふむ、察しがいいね。石化を止める方法ならあるさ。何せそれが最後の勝負だからね」

 そう言ってザトラは大士に自動拳銃を手渡す。

「これから私はこの柔道場の中を全速力で逃げ回る。そこで君らは、動いている私の眉間をその拳銃で狙い撃つんだ」

「装填数は?」

「五発だ」

「少ねぇな。リロードは?」

「できない。弾切れの時点で君らの負けが確定する」

「俺がこの機関銃を使った場合は?」

「此方が用意した武器以外で私の眉間を打ち抜いたとしても、薬の効果は止まらない」

「つまり五発こっきりで打ち抜かねーと死ぬってわけか……」

「そういう――――ことだッッ!」

 その一声と共に跳び上がったザトラは凄まじい勢いで加速する。無重力の密室を縦横無尽に跳ね回るスーパーボールのような彼女の動作は目で追うのがやっとであり、まして拳銃で眉間を打ち抜くなど常人には不可能ですらあった。それは大士にとって予想外の出来事であり、更に間近に迫る死への恐怖からも焦って勝ちを急いでしまった彼は序盤にして弾丸を三発も浪費してしまう。程なくしてジャールの叱責を受け何とか落ち着きを取り戻したわけではあるが、それでも劣勢であることには変わりなく、狙いも定まらないまま制限時間だけが経過していくのであった。

「(どうする……どうすりゃあいい……クソ、うろ覚えだがあともう一分もねぇってのに……どうすりゃあいいんだッ!)」

 制限時間が刻一刻と経過する中、遂に石化は身体の表面にまで及んでいた。下半身は既に殆どが動かず、バランスを維持するのがやっとの状態。左腕に至っては最早完全に石化し垂れ下がったまま動かなくなり、拳銃を持っている右手にも徐々に石化が及びつつあった。


"このまま行けば、弾切れより前に拳銃を落としてしまうかもしれない"


 大士の脳裏へ不安が過り―――それはついに、現実となる。

 ふとした精神的動揺が招いた力加減のミスにより、拳銃が右手から滑り落ちてしまったのである。

 刹那、大士とジャールは絶望のあまり絶句した。もはや石化により身体を自由に動かすことさえままならない。拾い上げるなど無理だろう。ともすれば自分たちに待ち受けるのは、石灰像化の末路のみ――――二人は実質的な死を受け入れるべく覚悟を決めた。


 だが、その覚悟は思わぬ偶然により無駄に終わることとなる。




「ぐぇうぁっ!?」




 柔道場内に響き渡る、銃声と少女の悲鳴。足元から微かに漂う硝煙の臭い。瞬く間に全身から消え失せる、凝り固まり凍り付くかのような感覚。

 これらは則ち、風間大士及びその相方・ジャールがザトラ・ヴァンクス及び彼女によって拵えられた石化薬に勝利し、生存したことの確証であった。


「……ん、身体が……動く……?」

【ありゃ、本当だ。身体通り越して鎧にまで行ってた白いのが無くなってら】

「どういう事だ?俺等ァ確か、トリガー引けないまま銃を落っことしちまってた筈なんだが……」

【そうだよな……】

 などというやり取りを繰り広げている割に、石化から解放された二人が事の一部始終を理解するのにそう時間はかからなかった。

 二人が理解した"事の真相"というのは思いのほか単純で、"床面に落ちた衝撃で拳銃が暴発し、その弾丸が偶然にもザトラの眉間へ命中した"というものである。見ればザトラは額から大量の血を流して仰向けに倒れこんでおり、近くに使い魔達が駆け寄っている。詳しくは聞き取れないが、どうやらザトラはあの一発で即死したらしい。

【……呆気ねぇな】

「あァ。四話も引っ張った癖に、マグレで死んじまうなんてよ……」

【コウモリやカラスや虫やサルはどうする?】

「ほっとこうや……主人の葬式ぐれぇ上げさせてやったっていいはずだ。ここで敢えて深追いしねーのも、ラノベの主人公らしさって奴だろうしな……」

次回、亜塔VSガラン・マラン!

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