第三百十九話 戦うゲスト様-決着(ケリ)をつける時&反乱の四凶登場 その4-
因縁の戦いが始まる……
―CS社敷地内・広大なエントランスにて―
「ィやァ、久し振りだね。来ると思ってたよ」
対鬼人特殊部隊桃太郎組の七名(玲、理華、麗、イオタ、聖羅、犬丸、高雄)が荒れ果てた社内のエントランスにて遭遇したのは、パイプ椅子に座り、倒れた彫刻か何かをテーブル代わりにして何やらワイングラスで飲み物を嗜んでいるらしいケン・ファープであった。グラスに入った液体は、色合いやグラスの内面に付着した気泡からして大型ディスカウントショップなどで売られている70~90円程度の炭酸飲料と思われた。
「……"来ると思ってた"って、まるでずっとここで待ってたような口ぶりね」
「まさか本当に、こんな場所で来るかどうかも分からない相手を待ち続けていたというのか……」
「……暇人」
「簡単に言えばそうなるかな。とは言ってもずっとこの場所で待機してたわけじゃないけどね。監視カメラの映像を見ながら君らの通行ルートを予測し、先回りして通路に心理的なトリックを活かした細工を施しながら誘導していたのさ。思うように動いてくれなくて苦労もしたけど、現にこうして出会えたのなら、苦労した甲斐があったというものだろうよ」
「……はぁ……そこまでして私達に会いたいんなら、いっそファンクラブにでも入ればいいんじゃない」
麗の提案が完全な冗談である事は誰が聞いても明確であったが、それでも他の六名は揃って心中で『お前は何を言っているんだ』と突っ込まずには居られなかった。
「ファンクラブ、そういうのもあるのか」
「あるのよ~。どう?会費はそれなりに頂くけど、損はさせないわ」
「んー……そうか。そう言われると入りたくなるけど、入会はやめておこうかな。折角誘ってくれて悪いんだけどね。僕が会いたかったのは君らっていうより、そこのブレザー着た黒髪のコだから」
「ほう、玲をご指名かのう」
「あぁ、そのコとは個人的に一対一で決着をつけたいからね」
「ふむ……成る程のう。玲よ、あれはああ言うとるが、どうする?一騎打ちの申し出、受けるんか?」
「勿論、願ってもないことですよ。月並みな話ですけど……クゥちゃんの仇、取っておきたかったので」
「そうか……では儂らは退くとしようかのぅ」
「えッ、いいんですか聖羅さん!?」
「そりゃあの小僧と玲の一騎打ちじゃし、邪魔しちゃ悪いじゃろ。のぅ、玲よ」
「えぇ、助かります。これは私とこいつとの問題なので」
「うむ……んで、そういう訳じゃからの。儂らは席を外すとし―――
言い切るより前に、聖羅の姿が忽然と消えた。
否、消えたのではない。突如として床面に開いた機械的な穴へ、吸い込まれるように堕ちてしまったのである。
「ッ――「「聖羅さ――
「「聖羅ァ――
「綾乃部さ――
続く形で残る五名も次々と穴に落ちていき、玲は暫し絶句した。
「……一体、何が……」
「席をね、外して貰ったんだよ。大丈夫さ、彼らの実力が確かならすぐに死ぬようなことは無い筈だから。まぁ一人知らないのが居たけど……監視カメラの映像と僕の記憶が確かなら、彼も大丈夫だろう」
「……一体何をしたの!?」
「だから言ったろう?席を外して貰ったって。あの穴は空間湾曲で我が社の地下水路に通じていてね。放し飼いにしてある"コーストスペクター"はかなり獰猛だ。動くものは兎に角餌だと思ってかぶりつくだろうよ」
「……ッッッ」
「さァ、来なよ。何時までもクールに澄ましてないで、怒りのままに僕を殺しにさ……それが望みなんだろう?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……呆れてものも言えないわ。変にトリッキーぶったって最後には自滅するだけだっていうのに、それでもまだ平然と自分を追い込むような真似なんかしちゃって……」
物陰からファープと玲の対面する様子を伺っていたのは、以前ファープと行動を共にしていた、反乱の四凶が一人である流体種の女・紀和室見であった。
「ねぇ、貴女達もそう思わない?」
紀和は繊維状のない骨格が一切見られない身体を寸分たりとも動かさないまま、背後に佇み気配を放ち続ける二人組に言った。
「果たして彼が"ぶっている"のかどうか、その真相は分かりかねますが」
『仮にそうだというのなら、確かに滑稽ではあるでしょうねェ……』
姿を現したのは、第295話以来実に24話ぶりの登場となる小樽兄妹の二人であった。
「曖昧な答えだけど、実質的な同意と受け取らせて貰うわ。それで、貴方達は―――」
『お初にお目に掛かります』
「私めは小樽桃李」
『並びその兄羽辰』
「平たく言えば、只今クロコス・サイエンスを襲撃させて頂いている集団の構成員に御座います」
「そう……それでクロコス・サイエンスを襲撃してる集団の構成員であるあんたが、この私に一体何の様?」
『はい。実は貴方様を、恐らくは御社の有する戦闘要因の内でも選りすぐりの実力者と見込んで申し上げます』
「非礼を承知でお願いしたいのですが……ここは一つ、どうか我々の手に掛かって死んではくれませんでしょうか?」
「……いや、そんなお願いするんなら素直に斬り掛かって来なさいよ……まぁ、どのみち断ったってしつこく追い掛けてくるんだろうし、相手にはなるけどね……」
次回、ようやく"あの女"が登場!