第三百十八話 戦うゲスト様-反乱の四凶登場 その3-
どの話もこのくらいのサイズで纏まってれば良かったのにね
―通路―
「ひっ、ひぃいぃ~!た、助けっ!誰かぁぁぁ~っ!」
「お待ちをッ!何故逃げるのです?私は貴女に危害を加えるつもりなど微塵もありませんよ!?」
クロコス反乱軍所属と思しき鈍い灰色の狐耳や尾を有する和装で銀髪の少女を追い回すのは召喚の副作用―恐らく『コンクイスタ・ガヴァリエーレ』のエネルギーに起因するもの―によって人格に歪みの生じてしまったレズビアン忍者アンズ。
ようやっと念願だった反乱軍の女性メンバーである前述の狐少女に遭遇することのできた彼女は、作戦など知ったことかとでも言わんばかりに少女へ(あくまで本人なりには)友好的な態度で言い寄っていた。だが当然ながら(唯一の例外を除いて)完全かつ徹底した異性愛者であるクロコス反乱軍にとって同性愛者は嫌悪を通り越して恐怖の対象でしかなく、狐少女がアンズから逃げているのも当然と言えた。
「いやぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇ!誰かぁぁぁあああああ!」
「だから逃げないで下さいって!私はただ貴女と触れ合いたいだけなのですっ!」
「ふっ、触れ合うだけってあんたっ、どうせ口ではそう言っといて本音では乱暴するつもりなんでしょ!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいにぃぃぃぃぃ!」
「そんな、乱暴なんてとんでもない!ただ、貴女と適当にゆっくりお話がしたいだけですよ私はッ!」
敷地内を全力疾走しながら、しかし息切れひとつ起こさないアンズの猛烈なアプローチは続く。
「可愛いお嬢さん、私と一緒にお出でなさい!一緒に楽しく遊びましょう!借家の庭先には美しい花が咲いています。お召し物だってもっといいものを差し上げます!」
「綺麗なお花なら敷地内にも咲いてるし、着る物だってこれが一番のお気に入りよっ!誰が行くもんですかっ!」
「素敵なお嬢さん、私と一緒にお出でなさい!借家の管理人さんは皆美しく優しい方々ばかりです!保護すれば彼らは貴女の面倒を見ましょう!可能な限りのあらゆる方法で持て成してくれましょう!」
「世話なんてされなくても自分の事くらい自分でできるわよっ!子ども扱いしないでったらっ!」
「嗚呼、お嬢さんっ!貴女が大好きだ!可愛らしいその全てが!」
「私はあんたなんて大嫌いよっ!やらしい視線も荒げた息もレズ臭い雰囲気もっ!」
「ふぅ……聞き分けのない娘ですね……いいでしょう、嫌がるのならば力づくで連れて行くまでッ!」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁあああああ!助けて豊穣様ぁぁぁぁぁぁ!」
疲労により座り込んだ狐少女の助けを求める叫びが、内壁を通り越す程に響き渡る。
「いや、助けてって……それじゃまるで私が暴漢みたいじゃあ――ッッ!?」
アンズが座り込んだ少女に歩み寄ろうとした刹那、彼女の顔面スレスレに黄金色をした一筋の光が差し、通路の天井と床に直結5cm程の穴が穿たれた。敵襲を察知したアンズは大きく飛び退き、光の存在から自らの叫びが意味を成した事を覚った狐少女は安堵する。
「(この気配……来る……ッ!)」
アンズが今までに感じたことのない気配を感じ取るのと同時に、狐少女の周囲を黄金色に光り輝く粒子の流れが取り囲み、何処からともなく妙に古風で貫禄のある女の声が響き渡る。
『ヤレヤレ、面倒な奴に出会っちもうたのぅ……」
粒子の流れはやがて一つになり、それらは瞬く間に若干小柄な女の身体を形作っていく。
「はッ―あッ――ほッ、豊穣様っ!豊穣様なのですねっ!?」
「うむ。如何にも妾こそ、クロコス・サイエンス代表取締役ミルヒャ・ハルツより強者と認められし"反乱の四凶"が一人、柵木豊穣じゃ」
金色の粒子が集結することによって成されたその女は、地球の東洋圏に伝わる"九尾狐"を思わせる容姿をしていた。上半身は豪奢な和服に身を包んだ凡そ11か12歳程度の少女であり、粒子と同じ色をしたツヤのあるロングヘアを一本結びにしている。側頭部からはヒトの耳に代わって狐の耳が生え、二の腕の真ん中から先は獣人のようであり、ご丁寧に(?)黒い肉球まで備わっている。
下半身はこれまた粒子と同色の美しい毛並みに九本の尾を持つ狐のそれであり、骨格構造は所謂"タウル"を思わせた。
「ほ、豊穣様ぁっ!助けに来て下さったのですね!」
「そらァ、社会人たるもの下のモンが困りょったら助けちゃらないけまァて。まして妾、これでも一応幹部の端くれじゃけぇな。変質者に追い回されょーる部下放置しょーるようじゃあ、そらおえんじゃろ」
「ぁはぁ……ご迷惑おかけして申し訳ございません、豊穣様ッ……」
「ええんよ北楠、おめーはまだちせェし、裏方向きじゃけん。とりあえず今は逃げられぇ、ここは妾が何とかしちゃるけぇの」
「あッ、はィ……ありがとうございます、豊穣様っ!」
狐少女・北楠は豊穣に深々と頭を下げ、一目散にその場から逃げ出した。
「……へぇーで……へぇでじゃ、変質者よ。妾の名前と肩書きは分かったじゃろ?」
「えぇ、そこは理解りました……然しながら納得の行かない点が一つ」
「何なら?」
「変質者呼ばわりはやめて頂けませんか。私はただ、男性より女性に興味があり、取り分け先程のお嬢さんのような可愛らしい女の子を目にすると居ても立ってもいられなくなってしまうタチなだけでして」
「変質者ではねェと?」
「断じて。仮に変質者であるとしても、変質者という名の淑女です」
「それは結局変質者じゃねぇんか。というか近頃は普通の中年男が子供に挨拶しただけでしょっ引かれることもあるんじゃ。ましておめーは追い回しちもうとるけぇ、仮にしょっ引かれよったら言い逃れできんぞ」
「HAHAHA、民間人から吸い上げた税金でヤクザの真似事とは警察も落ちぶれたものですな(V)o¥o(V)」
「話逸らすな。そらァ妾も警察の一部が国営暴力団化しょーるんは知っとるし、冤罪誤認逮捕も無理矢理証拠捏造してチャラにしようとしょーる姿勢にゃ腹立つけぇ、それでも大多数は頑張っとんのじゃ。何もかんも頭ごなしに叩いたらおえまァが。というか本題じゃ、本題話させぇ」
「えッ、今の警察云々が本題じゃないんですか」
「違ぇわッ!ええか、本題っちゅうんはな、おめーを始末するゆー話じゃ」
「始末……つまり、私と戦うと?」
「そうならな。言っとくがおめーに拒否権はねぇ。へーから――「私が負けた場合貴女によって丹念に犯されるんですねわかりま――「なんでじゃ!?そねんことせんわッ!」
「えー、シないんですか?」
「せんせんせん!絶対せん!してたまるか!」
「シないんですか……」
「というか普通は逆じゃろ!」
「え、逆ならシてもいいんですか?」
「フン……できるんやったらすりゃええで……妾を生かしたまま倒せたら、なぁ……」
「ほう……それはそれは……」
次回、猿VSシャチ勃発!