第三百十七話 戦うゲスト様-さて、これで一区切り……ついてねえ……だと……?-
書き終わってからようやっと気づいたわ。遭遇編消化できてないボスキャラがあと四つも居やがんの。しかも全部クロコス・サイエンスのやつ。
―前回より・中央スカサリ学園校舎内―
「ぐのぅえあばぎっ!」
学園地下に繋がる通路を進む香織・ニコラ・春樹の前に、上記のような(声に出すのも面倒なほどに複雑怪奇で訳の判らない)悲鳴を上げながら仰向けに落ちてきたのは、第二百八十六話の後書き以来実に31話ぶりの登場となる我らが(一応の)主人公・辻原繁であった。
「し、繁……?一体何があったの?」
「随分と姿が見えなかったけど……」
「……31話も一体何してたのだ?」
「おぅ、お前らか……何してたかっつって、まぁ話すと長くなるんだが」
「尺延びるから手短にね」
「分かってらァ。ま、つい昨期までの出来事を要約して言うなら――「僕らと戦っていたのさ、彼は」―――!?」」」
繁の言葉を遮るように颯爽とその場へ舞い降りたのは、ご存じワスプの保有者ランゴ・ドライシス。
「紹介しよう、あちら元ルタマルス軍上級大将兼中央スカサリ学園職員兼生体兵器部隊所属―「厳密には体育担当教諭補佐兼航空隊隊長―通称"左大将"だよ」―ランゴ・ドライシスさんだ」
「ど、ドライシスっ!?ドライシスって、あのドライシス!?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、ノモシア民にとっちゃ超がつくほどの有名人よ。もう半年以上前に大佐のエリヤ・オップス共々消息を絶ったと報じられてたけど、まさかエレモスで生き延びてるなんて―「驚いたかね?」―ッ!」
ランゴに続いて何処からともなく姿を現したのは、元ルタマルス軍大佐兼中央スカサリ学園基礎魔術担当教諭補佐兼陸兵隊隊長―通称"右大将"のエリヤ・オップスであった。
「あぁ、オップス君。砕かれた足は大丈夫かい?」
「えぇ、回復魔術で難なく元通りです」
「チぃ、等打槍の打撃反射からもう立ち直りやがったか!やっぱ腕一本じゃそうなるかー」
「そりゃ二対一じゃ分が悪いでしょうよ。何なら加勢しようか?」
「願ってもねぇ。ちょうどそろそろ連絡入れようかと思ってたところだ」
「途中で連絡入れるくらいなら先に行先言いなさいよ……それじゃ、ニコラさんと春樹ちゃんは先行ってて」
「はいよー」
「了解なのだー」
―暫く進んで―
「然し何も居ないわねぇ」
「本当なのだ。こういう流れなら普通生体兵器とかT.O.R.O.隊員がワンサカ出てくるものだと思うけど」
破殻化したニコラの背に跨がって学園内の広大な通路を進む春樹は―時に死の危険をも伴う熱帯雨林暮らしの経験故か―得体の知れない恐怖と不安に駈られていた。
「(この殺気……ただ者じゃあない、何かやばいのが近付いてる気がするのだ。一応ニコラにも知らせとかないと……)あー、ニコラ。飛んでる所ちょっといい?」
「いいわよー。どうしたの春樹ちゃん?」
「何か凄く曖昧なんだけど、何かどっかから凄く殺気立った獣臭い気配が――「ガゴァァァァァァッ!」―――……迫ってるから気を付けてね」
「……遅くない!?いや、警告してくれたのは有り難いけども!何か思いっ切り咆哮が―――っどわぁあああああ!?」
「ッッッ!?」
刹那、広大な通路の分厚い壁を突き破って巨大な何か―それ即ち春樹の言う"殺気立った獣臭い気配"を放つ咆哮の主―が現れた。
「こ……こいつはっ……」
「と、虎……?」
壁を突き破り二人の眼前へと姿を現したのは、二階建て大型バス程の巨体を誇る虎のような肉食獣であった。何より特徴的なのは口元より生えた二本の巨大な犬歯であり、口内に収まらない刀剣のような長さのそれはさしずめ氷河期の地球に棲息していた古代の食肉目・スミロドンを思わせる。
この巨獣の名は"スミロドゥス・ギルティア"。ダンパーが"彼女"と呼ぶ、中央スカサリ学園が生み出した最強の生体兵器である。他と違いただの一頭しか存在しないこの巨大な雌の獣は、純然たる身体能力と戦闘センスによってのみ"最強"の地位を維持する生粋の武闘派でもあった。"ギルティア"という種小名は飼育担当によるもので、大人気SF小説『地平の旅人』の主人公ギルティア・ループリングに由来する。飼育担当は誕生当時より長らく種名しか決まっていなかったスミロドゥスに『雌として戦いに身を投じるならば、彼女のように強く美しく気高くあって欲しい』との思いを込めて名付けたという。その思いが通じたのか、今やスミロドゥスは前述の通り学園最強の生体兵器として優雅に強く在り続けている。
「ねぇ、春樹ちゃん……この後の展開、プロットにはどう書いてあったっけ?」
「えーと……確か僕らでこいつと戦うとか何とか……」
「……やっぱり?」
「うん」
「……まぁ、作者も『そろそろ春樹動かして某氏元気付けんとヤバそうだ』とか言ってたし……」
「考えすぎだと思うのだ。そもそもこの小説から元気貰ってる読者なんて――「ヴォゴガァァァァァァ」―うヒぃッ!?」
スミロドゥスの恐ろしげな咆哮は通路内の空気を目視可能なレベルで振動させ、ニコラは思わず破殻化を解除してしまう。
「……ねぇ、春樹ちゃん」
「何?」
「ノモシアの諺に『ウニを素手で撫でる』ってのがあるんだけど、どういう意味かわかる?」
「えーっと……『見掛けに依らずいい人でも、迂闊に馴れ馴れしくすると見掛け通りのダメージを喰らう』とか?」
「あー、確かにそうとも解釈できるけど違うわね。正解は『とんでもない間違いを犯す』よ……」
「へぇー……何かまんま過ぎて逆にピンと来ないのだ。ただ、一つ断言できることがあるとすれば――」
「何?」
「――僕らはそんな『ウニを素手で撫でたバカ』になっちゃいけないってことだけなのだ」
「そうね。只でさえ素手でウニ撫でまくってる作者ですもの、私らくらいちゃんとしなきゃねぇ」
次回、反乱の四凶最年長の人物が登場!