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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
315/450

第三百十五話 戦うゲスト様-新種解析-

明らかになる真実

―第三百十話より・中央スカサリ学園襲撃班拠点内部―


「音速の打撃?」

「はい。目視故私の錯覚とも考えられますが、この化け物が手足を振るう速度は少なくとも四足動物にあるまじきものでした」

「かく言う私も見切って避けるのがやっとの有様、隙を突いて攻撃しようという気にすらなれませんでした。仕方なく真空密閉粘着爆弾とその射出装置を急遽購入し何とか仕留めましたが……」

「ふむ……身体の一部と思うほどに剣を信じ、騎士道精神のままに数多くの障害を切り伏せてきた君を妥協に追い込む程の相手とは……」


 クアル・ハイルの剣士グリス・ゼラニュートが"白い何か"との戦いで目にした"奇妙で信じがたいもの"は数あれど、その中で彼を最も驚かせ恐怖させたものは、彼自身の剣をも超える速度で振るわれた"白い何か"の四肢であった。

 曰く、"白い何か"の四肢による打撃は単なる正拳突きや張り手、前蹴りなどといったようなありふれた打撃でさえも肉眼による目視での捕捉が不可能なほどの速度を誇るという。ともすれば産み出される破壊力は言うまでもなく、予備動作から軽めに見える張り手の一発さえも太さ1m近くもある鉄筋コンクリートの極太四角柱を高さ約20cm、幅約50cm、奥行き約30cm程の楕円形に抉り取るほど凄まじいものであったという。


「然し、聞けば聞くほど恐ろしい相手だねぇ。君の実力を軽視するつもりはないが、慣れない砲撃でよくぞ仕留められたものだ」

「私自身、仕留められたのは奇跡と思っております。手足による打撃以外の動作が人間を僅かに下回る程度であったこと、持久力はさほど高くないこと、水の中から出ようとしないことなどが幸いし死体確保にこぎつけましたが、それでも僅かに隙を見せでもしていれば死んでいたことでしょう」

「つまり、出会ったら水のない場所に移動すれば何とか逃げられるのね」

「そういうことだ。付け加えるなら手足の射程外であることが望ましかろう。また、見た限りこれらは最低でもくるぶしの浸かる水の中に居たがるようだということもわかった」

「つまりその点に注意すれば何とかなるわけねー。早速データベースに書き加えないと」

「各作戦参加者にも連絡しましょう。強敵と交戦中の方々が心配です」

「勿論そのつもりよ。はい、そういうわけだから解散としますかね――っと」

 宣言した香織はそれぞれに指示を下していく。

「とりあえずニコラさんは医務室で傷病者の対応に回って」

「了解」

「ジーンさんは管制塔で現場のサポートを」

「わかりました」

「ドロールさんとグリスさんは―無茶を言うようで悪いんですけど、引き続きここでこいつらについて調べを進めて下さい」

「ありがとうございます。その御役目、喜んでお受けしましょう」

「お供します、ドロール公」

 持ち場に向かうそれぞれを見送りつつ部屋から出た香織の通信端末へ連絡が入る。

「はい、もしもし」

『もしもし、僕なのだ』

「あら春樹ちゃん。どうしたの?」

『エリニムが気まぐれで拾って来たT.O.R.O.隊の負傷兵に情報吐かせようと頑張ってたんだけど上手く行かなくてキレちゃって、今し方自棄起こして痛め付け始めちゃってるのだ。詳しくはわかんないけどあのペースだと一時間もしない内に死ぬかも』

「あー……とりあえず何でエリニムが負傷兵を殺さずに拾ってきたのかすさまじく疑問だけど」

『何となくって言ってた』

「あぁ……まぁとにかく、エリニムに鎮静剤と、負傷兵に自白剤打っといて」

『鎮静剤ってあの北側の壁の右から四番目、下から五番目の棚にある茶色い瓶だっけ?確か「瞬間鎮圧オチツ・ケコラー」とかいう』

「そうそう。自白剤は向かいの棚に入ってる『拷問戦隊トットトハクンジャー』のどれかでいいでしょ」

『わかったのだ。じゃあイエロー辺り打っとくのだ』

「情報が手に入ったら教えてねー」

『はいはーい』


 地球では大脳上皮を麻痺させる以上の働きは無い自白剤であるが、カタル・ティゾルには注射するだけで相手の持ちうる情報を聞き出せるような自白剤が存在する。『トットトハクンジャー』もその一つで、これらは注射液や錠剤など様々なものがカラフルなパッケージに入って売られている(当然だが民間人には購入できない)。


―五分後―


 負傷兵への自白剤投与とドロール及びグリスによる調査によって明らかになった"白い何か"の全貌は次の通りである。


・謎めいた"白い何か"は、正式名を"スプレーマントロプス・フルーメン"と言う。"ネルンボ・スカザーリア"が独力のみで・・・・・生み出した・・・・・この生体兵器は未だに多くの欠陥を抱えた不完全な存在であり、やがて生まれる上位種の前座に過ぎないという。

・また、中央スカサリ学園は地下最奥部で最強の生体兵器を産み出しうる"ネルンボ・デイパラ"を育てている。秘宝回収隊は外部へのパフォーマンス要因であると同時にデイパラを含む生体兵器に与える餌でしかない。

・フルーメンの素早い打撃の秘密は蛇腹状の四肢骨にあった。ドロール曰く『東の神話に似たような話が出てきただけだが、偶然にしては余りにも類似点が多かった』とのことである。

・神話に於ける"蛇腹状の四肢骨"の持ち主は、天賦の才を持つ若き格闘家であった。とは言ってもそれはイメージの話であり、格闘家の四肢骨が実際に蛇腹状であったわけではない。

・というのもその格闘家は、嘗て"全身の間接を以て加速しての、音速にも匹敵する速度の正拳突き"を編み出していた。そしてその技を発展させるべく試行錯誤を続けた結果格闘家は自らの四肢骨を蛇腹状に変化させるイメージを得るに至り、遂に正拳のみならず四肢による打撃の全てを音速レベルにまで加速する技術を身につけたのである。

・ともすれば実際に蛇腹状四肢骨を持つフルーメンが音速の打撃を放ててもなんら不思議ではない。


 これらの情報を得た中央スカサリ学園襲撃班は、デイパラより産まれる生体兵器の危険度を"可能ならば交戦せずに討伐することが望ましいレベル"と仮定。手の空いている人員をデイパラ駆除に向かわせる。

 拠点に残ったのはネオアース民の指揮に必須なジーンや医務室へ待機するドロール、彼の補佐役であるグリスといったような面々のみとなった。

次回、学園側の切り札級人員が一気に二~四名登場(予定)!

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