第三百十二話 戦うゲスト様-えろい(確信)-
そりゃエロいさ。誓っていい。
―前回より・T字型通路―
「ふ……っは……ぁあ…………っぅ……」
通路にもたれ掛かってへたり込んだ零華の姿は元女子高生の強化人間という経歴と年齢を感じさせないほどに官能的であった。奇抜な見なりの割にさほど露骨でなく、素朴でどこか風情さえ感じられる自然体の色気は、見る者を見とれさせるに充分と言えた(少なくとも作者はそう確信している)。
とは言えそんな体勢を敵地のド真ン中―それも、性欲のままに異性を弄ぶ能力に特化した男三名の眼前でとることは、普通に考えれば極めて危険な行為である。だが彼女はその危険を冒してでもオース三兄弟の連携を崩さねばならないと考えていたし、少なくとも無計画に動き回るよりは危険を冒す価値があるとも考えていた。
―以下、零華が作戦実行に至るまでのモノローグ―
「(聞けばクロコス反乱軍の奴らは人一倍どころか人三倍くらい性欲があって、戦闘も基本異性の相手を痛め付けてレイプすることを前提で行っているらしい。その話を裏付けるように、私の目の前に現れた奴らは全員男であからさまに私の身体を狙ってると態度で理解できた。でもあの三人は男でこそあれそういう強い性欲が態度に出ていない。
じゃあここで問題。オース三兄弟はどうしてクロコス反乱軍特有の異常な性欲が態度に出ていないのか?
1.何らかの要因で性欲がない。例えば幼いからとか。
2.私に性欲を抱けない。例えば体型が好みじゃないとか、私に女としての魅力がないとか。
3.あいつらはいわゆるウブなムッツリで、真面目な忠臣のふりをして性欲を隠してる。
――――合理的な考え方としては1が妥当かもしれないけど、戦場で殺す云々の覚悟ができる精神年齢なら異性を性的に意識するくらいはできるはず。後天的に性欲を抹消されたと考えることもできるけど、正直そうする意図が見えないからこれはあり得ない。
じゃあ2かっていうと、仮にそうだったら好都合っちゃあ好都合―――だけど、それはそれで何かヘコむ……ま、半ば冗談みたいな選択肢だしこれも無いわね。
となると消去法で正解は3ってこと?……まぁ年齢的にも充分有り得そうだし、それが正しければ軽く煽ってやれば葛藤が生じて連携が乱れたりするかも。試す価値はあるだろうし、これ以上考えてもいい考えなんて思い浮かびそうにないし……やるしかない、か)」
―所要時間の割に長ったらしいモノローグ終了―
安易と言えばそれまでな策であったが、零華の推測は的中していた。オース三兄弟は―三つ子らしくなく、それぞれ差はあったものの―へたり込んだ彼女の色香に惑わされ、兄弟揃って"恥ずべきもの"として内に封じひた隠しにしていた、幼さ故の純粋で強い性欲を刺激されつつあった。
「(こッ……この女ッ……)」
「(初めて見た時から思っていたけど……)」
「(……エロいッ!……それも、殺人的にッ!)」
表向きにこそ平静を装っている三人の内心は大体こんなものである。三つ子はそれでも沸き立つ性衝動を抑え込もうと躍起になったが、その思いに反比例して欲求は強まっていった。それは幼年期の人間にありがちな"図らずも抑圧に反発してしまう心理"によるものであり、当人達にその自覚はない。抑え込もうと強く思うたび反比例して高まる欲求。目を閉じても瞼の裏に蘇る鮮明な光景、挑んだ以上引き下がれない闘争の心理。絡まり合うそれらはやがて負の無限ループを形成し、三つ子の精神をどんどん追い詰めていく。
「(っく……ぅっ……はぁっ……)」
「(……っは、あ……)」
「(もう……駄目だぁ……)」
遂に限界へと達した理性は崩壊し始め――そして、崩れる。
「(ッ、止せデーンス!行くなッ!)」
「(っぉあぁぁっっ!)」
「(デーンス兄さん、駄目だ!戻ってッ!)」
最初に動き出してしまったのは、水色の髪に顎骨の描かれたTシャツを着た次男・デーンスであった。
兄ラビウムと弟リングアは念話で彼を止めに掛かるが、当人に止まる気などあろう筈もない。ノーモーションでフワリと跳び上がったデーンスは、ただただ本能のまま一心不乱に零華へ飛び掛かる。
だが当然それは零華が狙った通りの展開であり、飛び掛かったデーンスは振るわれた二枚刃の刀・血風丸により悲鳴を上げる間もなく斬り殺されてしまった。
「デ、デーンスッ!」
「兄さん……無茶を……」
兄弟を殺され悲しみに打ちひしがれるラビウムとリングア。先程まで平静を装っていた三つ子は、兄弟の一人を失った途端に余りにもわざとらしく感情を表に出してしまう。
「さて……これで一人欠けたわけだけど、まだ完全連携で私を食べようと思ってる?歯を全部叩き折られた口で食べられるものなんて精々ゼリーか流動食くらいのものだろうけど、まさか私をそんなヤワな女だとでも思ってた?だとしたら勘違い甚だしいわね」
零華は両目を赤く光らせながら、わざとらしい及び腰で身構えるラビウムとリングアに言い放つ。
「私を食べ物に例えるなら、さしずめハイエナか山猫の肉。筋張ってて硬いからナイフも通らないし、幾ら焼いたって柔らかくならない。そもそも癖の強い肉だから、大抵の動物にとっては食用にさえなりはしない。そんな変な肉だっていうのに、歯を折られたあんた達がどうやって――「歯ならあるさ」――ッッッ!?」
刹那、T字路の右側にある筈のない気配を感じ取った零華は、飛んできた金属塊を血風丸で弾き返しつつ慌てて振り返り――そして、絶句した。
「……な……あ……?」
振り返った先にあった"ある筈のない気配"の発生源――それは、つい先程斬り殺した筈のデーンスであった。
「あんた……確かに殺した筈なのにッ……!」
「残念」「だったね」「トリックだよ」
「こうなると」「想定していない」「僕らじゃない」
「踊り食いは」「リスキーな食べ方だ」「対策ぐらい練るよ」
「対策ねぇ……」
「そう、対策さ」
「貴女の言うように」
「僕らは現実の口と同じく」
「一人が欠けると大きく弱体化する」
「だから僕らは対策をした」
「僕ら三人の体内には、一種の"因子"がある」
「因子は交互に二通りのサインAとBを出す」
「三つの因子が出すサインAとBの比は常に1:2」
「正解はA。因子がAのサインを出している一人は蘇生されない」
「但し因子がBのサインを出している二人は何があっても蘇生される」
「因子のサインは大体2分4秒から6分12秒の周期で切り替わる」
「一人が死ぬか、蘇生されても切り替わる」
「あと、まとめて始末してもいけない」
「最低40秒の間を開けずに複数殺すと、それらは因子のサインを問わず全員蘇生されるから」
「それと、逃げようなんてことも考えない方がいい」
「蘇生の時間と場所は僕らの意のままだ」
「さっきのデーンスだって、死んだ直後に貴女の背後へ蘇生して一撃で仕留める事もできたんだよ」
「でも僕はそれをしなかった。貴女みたいなのはじっくり相手をしてこそだからね」
「へぇ……それはどうも」
かくして強化人間の若き俊敏剣士・零華と"完全連携"を名乗る三つ子・オース三兄弟による、小規模ながら壮絶な闘争は開始される。
ここで問題。次回明らかになる驚愕の事実は次のうちどれ?
1.蠱毒の自室に飼い猫経由でネズミノミが発生。
2.ホンソメワケベラは時に客の身体を食うこともある。
3.亜塔さんと零華さんはどっちもエロカッコイイ。
4.以上の選択肢に正解はない。