第三百十話 戦うゲスト様-新種解剖&T.O.R.O.四神参上 その2-
学園側はなぜかすんなり話が進むなぁ。
―第三百五話より・中央スカサリ学園襲撃班拠点内部―
「驚きましたねぇ……まさかこんな生物が居ようとは、流石異世界と言った所でしょうか……」
「いやいやいやいやいやいやいや、流石に異世界でもこんなのまず居ませんって」
「何回"いや"と言ってるんだ貴様……まぁ否定したい気持ちは十分理解できるが……」
「然し本当に変な――っていうか、妙に不自然なデザインね」
グリスによって仕留められた三匹の"白い何か"は、他の生体兵器とは一味二味を通り越して五味か七味も違う外見をしており、その奇異な形態はその場に居合わせた四人―香織、ドロール、グリス、ニコラの四人を大いに驚かせていた。香織をして『昭和終期のドット絵か平成初期のポリゴンで造型されたものが現実世界で形を成したかのよう』と言わせしめたその身体には体毛も鱗も外骨格もない。純白の肌は外見にそぐわぬ硬度を誇り、質感は陶磁器のようである。また、全身はほぼ完全な平面と直線によって為され、どう動かそうとも有機的な形になることはない。四肢と首は四角柱、尾は四角錐、胴体は平坦な逆さ台形の立方体で、目玉と思しき赤い球体が合計四つ埋め込まれた頭部は一見底面が菱形の立方体に見えてその実よく調べると正六面体であった。
だが、その異様さは当然外見だけに留まらない。この不可解な生物の真なる異常性は、解剖してこそ明らかになる。
「これは……骨?」
「ほぉ……これはまた、どういう構造になってるんだか……」
「興味深いですねぇ……凡そこの世のものとは思えない」
「……どうりであんなものを打てるわけだ……」
メスが通らない為刃の代わりに円形の薄い紙を取り付けた電動丸ノコにより切り開かれることで露になった"白い何か"の内臓は、その外見に反して普通のものであった。脊椎や肋骨、頭蓋骨等も根本的な成分組成や構造に限っては通常の脊椎動物と大差ない。
では何がそこまで異常だったのかと言えば、それ則ち四肢と尾の骨に他ならない。というのも、これらの中を通る骨の基本的な形状は肉を剥ぐ前とさして変わらないものであだったのである。更にその全体はよく見れば少しばかり引き伸ばせるようになっており、等間隔で真っ直ぐに隙間の開いたその形はさしずめある種の蛇腹(山折と谷折の繰り返しから成る構造)を思わせた。
「時にグリスよ」
「何でしょうか、ドロール公」
信じがたい事実を目の当たりにして尚冷静なドロールは、現時点で唯一この"白い何か"と遭遇し直に戦った経験を持つグリスに問い掛ける。
「もう一度詳しく聞かせてくれないか。この怪物と戦った際、君が見た全てを」
―同時刻・中央スカサリ学園敷地内―
「なぁ、あかりよ……」
「どうしたの、お兄ちゃん」
北に位置する高等部第三理科実験室にて語らうのは、長身痩躯の変身ヒーローと小柄な魔法少女―もとい、流星戦士ベルセルカーこと戸田健と、その義妹である魔法少女ルナトーズこと月読あかりの二人であった。
二人の周囲にはやはり生体兵器やT.O.R.O.隊メンバーの死体が散乱しており、二人の置かれている状況が激闘に一段落ついた束の間の安息であることがわかる。
「こんな状況下で聞くのもアレだがよ、お前『蒼面【ブルーフェイス】』ってどこまで読んだっけ?」
「蒼面だったら漫画全巻読破したよ」
「アニメは?」
「映画だけなら。テレビ版はまだだよ」
「そうか……じゃあお前、二作目の内容覚えてるか?」
「確か『地平の旅人』とのクロスオーバーだったよね。触手みたいなキモい化け物に占拠されて生き地獄になった大都市で大バトルっていう」
「そう、それだ――実を言うとな、今の状況がそれの一場面によく似てる気がしてよ」
「え、っと……それって、いい状況?」
「いや……覚えてる限りじゃ人が大勢死ぬか、軽くトラウマ級だったかな……ともかくやべぇシーンだったのは覚えてる」
「それ、どっちも最悪じゃん……」
刹那、義兄妹は共に天井裏辺りへ得体の知れないおぞましい気配を察知する。それが自分達を狙っていることを不確かながらも気取った二人は、アイコンタンクトで息を合わせ、天井が波打つのと同時に外側へ飛び退く。大口を開けた深海魚とも海蛇ともつかない化け物が波打つ天井を突き破るようにして現れては、そのまま波打つ床へと潜っていったのは、二人が飛び退いた直後の事であった。
「何あれ、ゲラムの怪獣?」
「えッ、ダムラスの化け物じゃねぇの」
「さて、お二方――「いや違うよ。どっちかって言うとあれ、ゲラムのやり口でしょ?」
「まずは軽くご挨拶を――「いやー、ああいう派手なのはダムラスだろ」
「私T.O.R.O.四神の――「えー?でもエテルニウスならこれぐらいやるんじゃないの?」
「いや、あの――「それを言ったらダムラスは海賊だろ」
「すみません、ちょっと――「海賊ったって宇宙だよ?怪獣使うにしても空飛んだりするでしょ」
「あのですね、私の話を――「いやー、わからんぞ?惑星侵略するんなら地中とか水中を意識した設計にでもしねぇとやっとれんだろうし」
「うーん、そうなのかな――「話を聞けィ!」―――!?」」
先ほどまで話を遮られ続けていた続けていた人物による恫喝は、二人の話を強制中断させるに十分な声量を有していた(拡声器を使っていたので当然といえば当然であったが)。
「あ、な、なんだぁっ!?」
「み、耳がぁっ――って、何っ!?」
あかりと健の視線の視界に、ふと謎の人物が飛び込んでくる。腕のある大蛇とでも言い表せようか、先ほど襲ってきた化け物の口内から生えるその在り様は、生肉のような肌も相俟ってまるで化け物の舌を思わせた。
「な、なんだてめぇは!?」
「あんたもT.O.R.O.隊の関係者ね!?」
「ご名答。私はダンパー理事長より隊内最強の称号を授かりし大いなる傑物"T.O.R.O.四神"の一人、三入浬。以後お見知りおきを」
「四神だと!?つー事ぁ、あと三人居るってことか!」
「如何にも」
「それで、その四天王的なのの一人が私らに一体何の用?」
「用件など今更聞くまでもあますまい。学園に仇をなすあなた方を、駆除させて頂きに来たのですよ」
「駆除ねぇ……ゴキブリみてぇに言ってくれやがるぜ!所詮てめーも蛇っちゃ蛇、沖縄なんかじゃ駆除される側の動物だろうによォ!(ま、蛇ったってレティキラとかは逆にこっちが駆除されそうになるがな……)」
「あんたなんてあたしとお兄ちゃんでぶつ切りにして海蛇燻製汁にしてやる!(正直グロいから食べたくないけど……さとてんやクアル・ハイルの皆だったら食べてくれるかな?)」
「ンフフフフ……良い戦士だ。それでこそ駆除する価値があるというものッ!さァ、かかって来なさい!我が大魔術の力、思い知らせてくれましょう!」
次回、疾き獣の狩りを見よ!