第三百八話 戦うゲスト様-ステゴロ-
強化人間は強い(確信)。
―前回より・研究室内―
あれから亜塔は管制塔に連絡を取り、ヤンヌの粘液で台無しになった衣類の全てを拠点の洗濯槽へと送り込み、替えの服を注文。全裸のまま料理を続行しつつ、注文した衣類の転送を待つことにした。
一方、残り三名となった痴女共の内二人―西洋悪魔のような姿の者と、四肢が触手と化した者―はこれを好機と判断し本能の赴くまま亜塔に襲い掛かったわけだが――その判断がそのまま彼女らの即死に直結したことは言うまでもない。
先手必勝の勢いで先に亜塔の身体へ触れようとしたのは、四肢が触手である天田久留であった。元々手先が器用であった為か触手の扱いも巧みであり、その技により名前通り数多の雄を弄び犯してきた彼女は、自分ならば亜塔を瞬きする間にでも無力化できる自信があった(根拠はない)。まして今の彼は全裸であるし、先程ヤンヌと戦った事もあり体力を消耗している筈で、ならば触手で責め立てて屈服させる程度余裕ではないか――天田はそう確信していた(当然ながら根拠はないが)。
然しながら"何の工夫せずに後ろを狙う"という捻りのない戦術が、強化人間である亜塔にほぼ無意味の――実質的な自殺行為である事は言うまでもない。
亜塔に触れようかという寸前、流し台に捨てる予定だった熱湯(緑黄色野菜の出汁入り)を顔面へ浴びせ掛けられた天田は見事なまでの大火傷を負い、怯んだ所で咄嗟に引っ込めようとした触手を逆に掴まれてしまう。痛みを堪えながら必死で亜塔の手を振り払おうと躍起になる天田であったが、そんな努力を嘲笑うかのように(勿論実際に嘲笑っているわけはないが)亜塔は彼女の頭を手首のスナップ一つで手元に引き寄せるのと同時に触手を長い髪の毛に持ち替え、至極適当な―フォームはおろか狙いさえろくに定まっていないような動作で―ただ無造作に投げ捨てる。
投げ捨てられた天田は、何の偶然かゴミ箱へと直行する。それを知った天田はの認識は『なんだただのゴミ箱か。これなら抜け出て逆転できるな』などといった具合に安易なものであった。だがすぐに、その認識が誤りであることに気付かされた。
「あ、あのゴミ箱はっ!」
事前に研究室の下見をしていた天田は、ふと思い出す。あのゴミ箱の中身は確か―――そう、割れた試験管や汚れすぎて使い物にならなくなったビーカー、結晶がこびりついてしまったフラスコ等の、廃ガラスではなかったか――否、確かにそうだ。あのゴミ箱は確かに廃ガラス用のものであった。
「あ、やば、あの中には、確か――ぐぎひぎょえばっ!?」
ゴミ箱へと頭から突っ込んだ天田の顔面へと(破棄されながらも抜群の安定感からゴミ箱の中で直立していた)先端の破損した全長50cm超の極太メスシリンダーが突き刺さり頭蓋骨を貫通する。天田が絶命したのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆◇
続いて亜塔に襲い掛かったのは、西洋悪魔のような姿をしたガルギー・団居であった。自身及び自身と密着している物体を意のままに石化させる能力を持つ彼女は、その能力を攻撃・防御・擬態といったあらゆる動作に取り入れた変則的な動作からグゴンにも一目置かれていた。そんな彼女の策は"背後から亜塔に抱き着き彼の四肢を石化させ拘束し犯す"というものであった。『背後狙いの時点で盛大に失敗しそうだな』等と思った読者が居るなら声を大にして言いたい――『その予想は正しい』と。
全裸のまま料理を続ける亜塔の背後へ忍び寄り抱き着こうとしたガルギーの手が亜塔の首にかかった瞬間、丁度がら空きになった亜塔の両手が彼女の両手首を瞬時に掴み、力一杯ぶん投げた。
この時ガルギーにとって何より不幸だったことは、彼女の潜伏していた研究室が四階にあったことと、調理スペースが窓際にあったことであろう。結果的に背負い投げを喰らった彼女は四階の窓を突き破って外に放り出され、その上ガラスにぶつかった衝撃で翼を骨折し飛行能力をも失ってしまった。だがそれでも諦めきれない彼女は、丸まった状態で自身を石化させ落下の衝撃に耐えようとする――が、落ちた先に佇むのはクロコス・サイエンスと縁の深い企業に所属する鋳造工達によって作られた、同名生体兵器の名前の由来にもなった神話の巨人"オリバー・クラッカー"を象った特殊合金像。
その素材である特殊合金は、神話に於いて"拘束されざる者"と呼ばれた巨人の強さに準えてか"山一つ分の落石にも耐えうる"とも称される程の強度を誇った――と、ここまで来れば落下の衝撃に耐えようと自身を石化までさせたガルギーがどうなったのかは、わざわざ文章に書き起こすまでもないかと思う。
巨人像に激突したガルギーは"落石にも耐えうる"と称される特殊合金の強度に見事惨敗し、砕け散りそのまま絶命。同時に石化も解除され、岩石片は肉片と化し他の生体兵器や小動物の餌となるのであった。
次回、ロッカーの中に隠れた女に悲劇が!