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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
307/450

第三百七話 戦うゲスト様-脱出-





ヤンヌ・ミーディンの恐るべき正体とは……

―解説―


 鉄の処女アイアン・メイデン

 確かな知識と教養を持ち合わせた読者諸君ならば当然知っていようこの恐るべき装置は、中世ヨーロッパで刑罰に用いられた拷問処刑具として、広くその名を知られている(鉄とは言うが多くは木製であったとされる)。

 成人女性(一説に寄ればそのモチーフは聖母マリアともされる)を象った高さ2m程の、中が空洞になった人形であるそれの前面は左右に開くようになっており、この内部に罪人をぶち込む。扉からは長い釘もしくは棘が内部に向かって打ち込まれており(中には本体背後から釘が打ち込まれたものもある)扉を閉じることによって内部の罪人を無数の釘で刺殺する――と、その構造と用法は極めてシンプルかつ凶悪なものである。ただ意外なことに、そんな鉄の処女が実際の拷問や処刑に用いられた例は殆ど皆無に等しいらしく、現存するものはあくまで単なる飾り物であったとの説が(ほぼ確定同然な程に)有力である。


―前回より・研究室―


「ン、フフッ、フフフッ……やった……遂にやったわ……ッッ!」


 前回こそ"アーティスティックな棺桶"という比喩を用いたヤンヌ・ミーディンだが、彼女の容姿をより的確に形容するならば"釘が触手に置き換わった鉄の処女アイアン・メイデン"という表現の方が相応しい。

 まさしく空中浮遊する鉄の処女が如し外見の彼女だが、その金属部分は単なる"感覚器官を備えた外皮"に過ぎない。彼女の本体は内部に宿るおびただしいまでの触手を統括する貧相な小人らしき中枢部であり、半ば肉癖に埋もれたこの本体に於いてまともに機能している臓器はほぼ脳のみと言ってよい。感覚器官は魔術の施された金属製の外皮に備わっているし、吸い込んだ空気は外皮内面を通じて全身に行き渡る。

 ただ、何より奇妙なのは彼女の食性であろう。幾ら反乱軍のメンバーがヒトを逸しているとは言え、原則としてその食性はヒトと大差ないのだが―――彼女の場合ヒトとしての消化器は完全に退化してしまっており、栄養分の吸収は身体の殆どを成す触手壁で行う。

 主食は脊椎動物の精液で、触手はそれらの吸収以外に獲物の身体を刺激し射精を促進させる役割も担う。獲物は原則使い捨てであり、衰弱し射精能力が無くなったとみれば即座に吐き出し放逐するか、他の同僚に譲渡もするという。また、触手は搾取した精液を溜め込む袋にもなるため餓死の心配もない。


「ク、フフッ……遂に……遂に、捕らえたのよッ!クフッ、先ずは触手で服を脱がせて……と。さぁぁぁ~て、どこから脱がそうかしらねぇーッ!」

 変態的な声を上げながら、ヤンヌは飲み込んだ亜塔をどうするかじっくり考える。

「やっぱじっくり上から?それとも一気に下から?いやいや待って、敢えて着衣状態のままとかイイかもしれないッ!?」

 突如、金属製であるヤンヌの外皮が内側からガタンと大きく揺れた。

「は、な、何っ!?こんなッ、まるで施錠された扉を・・・・・・・体当たりで・・・・・無理矢理突き破ろうと・・・・・・・・・・している・・・・かのような――ッッッ!?ま、まさか――中のあいつ・・・・・がっ!?」

 獲物アトウの抵抗という予想外の事態に混乱するヤンヌであったが、何とか落ち着きながら必死で外皮前面を押さえ付ける。その甲斐あってか、暫くして亜塔エモノの体当たりは止んだ。

「フぅ……何とかなったようね……さて、これで今度こそあんたを犯して精液を――っぎひぃっ!?」

 ヤンヌの全身に、今まで体験したことのない未知の激痛が走る。その痛みは彼女にとって初めてのものであったが、痛みと同時に耳へ届いた"鈍い音"は、彼女にその由来を一切の容赦なく理解させた。

「こッ、これッ゛――はぁア゛ァ゛!――ぁ……まさkア゛ゥ゛ッ……ま―――ま゛さ゛か゛ッ゛、し゛ょ゛く゛し゛ゅ゛が―――アギィィッィ!?」 

 絶叫で遮られこそしたものの、確かに"まさか触手が"と口にしたヤンヌの推測は、的中していた。

 事の起こりは僅か一分前、閉じこめられた"忌々しい密室"から"脱出"しようと持ち前の怪力による抵抗を試みるも、それが無駄だと覚った亜塔は、生臭く湿っていて蒸し暑く狭苦しい――呼吸をするのも嫌になるほどに不快な暗闇の中で、悪臭を伴う粘液を滴らせた肥満デブのミミズ共が癪に障る動きで身体を這い回りまさぐる様を両目以外のあらゆる感覚器官で感じ取りながら、無言のまま静かに誓う。


 "殺す。こいつら全員、皆殺しだ"


 物騒な誓いを立てた亜塔は、間髪入れず行動に打って出た。身体を這い回る触手の一本―今の彼にとっては太ったミミズの一匹―を素手で掴み、乱暴かつ力任せに引きちぎったのである。

 本来ならば強力な粘液により掴んだ手をもすり抜けてしまう筈の触手を、然しそれさえも許さないほどに強い腕力で掴み、引きちぎり、ぶち抜き、握り潰す。ただ一つのごくシンプルな――苛立ちという感情のもとに。


「(料理を邪魔しやがって……)」

「がヒッ!?」

「(こんな中に閉じこめやがって……)」

「ギひっ!?」

「(蒸し暑い……)」

「ぐホゲっ!?」

「(生臭い……)」

「オガっ!」

「(息苦しい……)」

「く゛う゛ッ!」

「(呼吸いきをするのも嫌になる……)」

「ア゛え゛ッ!」

「(服の中に入り込みやがって……)」

「お゛き゛ィ!」

「(スーツも台無しだ……)」

「う゛g゛い゛ぃ゛ッ!」

 触手が引き抜かれるたび、ヤンヌの悲鳴が研究室に木霊した。

 だがその声は苛立ちに囚われ自制心を失った亜塔の耳には届いていなかった。

「(そして何より腹が立ったのは……)」

「ひ、h、い、いあy……あa……!?」

 激痛により言葉を発する事さえままならないヤンヌの内部で、亜塔は既に活力を失いつつある触手を両掌に収まる限り掴み取り―


「(お前のようなゴミ如きにまさぐられたこと……それだけだ!)」


 ―それら約15本前後を―持てる腕力の限りで、破壊した。


「■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


 耐え難い苦痛に見舞われたヤンヌは、最早文字で表記する事も困難な程の悲鳴を上げ、同時に内壁部の傷口から滝のように形容しがたい色の体液を噴き出し、衰弱するように絶命。空中浮遊の効力は切れ、空洞の金属塊は直立姿勢のまま床面に落下した。

 無論そうなれば施錠(・・)など無いも同然である。ヤンヌの内壁を蹴破って外に出た亜塔は、粘液と血液にまみれながら、嘗て自分を閉じこめていた忌まわしき密室の全容を見つつ言う。


「知ってるか……既婚男の身体をああまでしていいのはな、そいつの妻子だけなんだよ」

次回、残る三名の痴女が亜塔の餌食に!

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