第三百六話 戦うゲスト様-ウワサヲスレバカゲガサス-
その日は後に"痴女の厄日"と呼ばれ――なかった。
―前々回より・CS社屋内・照明の落とされた研究室―
「ねぇ、どう思う?」
「どう思うって、何を?」
「いやだからホラ、例のあいつらよ。あの社長室に直接電話かけて来た神河とかいうのが殺られたっていう」
「あぁ、目が赤く光る二人組のこと?確か、そこそこ際どい身なりの銀髪女とスーツ姿のイケメンだっけ?」
夜間の研究室に集い語らう四人の女。そんな字面と上述の会話文だけを見れば至って普通の光景に見えようが、"集い語らう四人の女"が全員クロコス反乱軍のメンバーである時点で、それらの見て呉れが凡そこの異世界カタル・ティゾルで社会的に人類として扱われる知性体を大きく逸したものである事は言うまでもない。
僅かに開かれた掃除用具用ロッカーら這い出るもの、作業台の上に飼い猫のような姿勢で座り込む西洋悪魔のような姿のもの、四肢が軟体動物とも刺胞動物ともつかない触手と化したもの、空中を浮遊する女体を象った棺桶のようなもの――強化改造により原型を遙かに逸した奇々怪々な姿や能力を選るに至ったそれらのメンバーは、何れもクロコス反乱軍きっての曲者と称された派閥の一部であった。
「そうそう。銀髪女は兎も角、スーツ姿のイケメンてのはかなり気になるわよねぇ~」「スーツで戦うって事は、やっぱり清楚系なのかしらね?」
「でもでも、聞いた話じゃ大剣を振り回して戦うワイルド系だって聞いたわよ?」
「えッ、何それ?ギャップ萌え?いいわァー滾るわァァァァッ!真面目な清楚系をプライドもクソもヘッタクレもないくらいグチャグチャにしてやるのもいいけど、強がってるワイルド系のWeak Pointを散々っぱら突き回してドロッドロのカラッカラに犯し尽くしてヤる爽快感もタマんないわよねぇ!」
「あぁ、イイわァ。それ最ッ高じゃない!」
「そういうのって憧れるわよねェ~。"女に産まれたなら誰しも思うこと"的なッ!」
ひとしきり下品な会話を交わした四人の女達は、やがて各々の隠れ場所へと戻っていった。
―同時刻・通路―
「んー、何ぉ処に行ってしまったかなぁぁ~ッ!全く見付からんぞーッ、いやいやこれは本当に参ったなぁーッ!」
研究室同志を繋ぐ通路に、芝居臭さ全開で如何にも"演技によるマヌケ"然とした青年の声が響き渡る。その声の主こそは先程研究室に潜む反乱軍の女達の話題に挙がっていた"目の赤く光るスーツ姿のイケメン"こと強化人間の亜塔である。
効率を上げるべく"目の赤く光るそこそこ際どい身なりの銀髪女"こと、妻の零華(この表記を用いた真相を知らない読者は『獣道-白ノ刹那-』をプレイするかプレイ動画を見よう)とは別のルートを進んでいた彼は現在、あるトラブルに巻き込まれていた。
そのトラブルというのは盗難であった。というのも彼、ふとした油断から愛用の大剣・禁忌丸を敵に奪われてしまったのである。犯人は地球に伝わるハルピュイアを思わせる外見をした幼い(推定年齢10~12歳程度)少女兵。ヒトであった頃から悪戯好きで恐れ知らずのお調子者であった彼女はほんの軽い気持ちで亜塔の禁忌丸を奪い持ち主を挑発することで、名も知らぬ敵との鬼ごっこに興じようと考えた。
それを察した亜塔はその稚拙な心理を逆手に取り、わざと彼女の思惑通りに動いているように見せかけることで"トリッキーな戦闘"を演出し、少ない討伐数でポイントを荒稼ぎしようと考えていたのである。幸いにも彼の戦闘能力は丸腰であっても大抵の生体兵器や反乱軍メンバーを余裕でねじ伏せられたし、肝心の鳥幼女も自分が嵌められている事実など知らないようであった。
「(俺より先に他の誰かがあのガキを殺してしまっては元も子もないが、それはそれで良しとしよう。待つ手間も省けるしな―――っと、そんな事より腹が減ったな。あの子へのプレゼントを買う分のポイントは貯まったし、少し贅沢でもしてみるか)」
亜塔は本部の管制塔へ連絡を取り、適当に食材や調理器具を注文し転送させた。
「(ガスコンロが無かったのは予想外だが、まぁ研究室になら光熱水道くらい通ってるだろ)」
かくして亜塔は料理のできる環境を求めて冒頭に出て来た痴女四人が待伏せる研究室へと入っていった。
―研究室―
今回のサブタイにある諺は本来、あくまで"たまにそうなることもある"程度の意味合いで用いられることが一般的である。然しながら作者の実体験に基づくなら―かなり限られた局面での場合であるが―この諺は実質的に"特定の相手を呼び寄せたいならその者の噂話をすればいい"という意味にもなりかねない。
無論不確定な事象であって、単に偶然を勘違いしただけの思い込みと言われればそれまでである。ただ一つだけ確かな事は、研究室に潜む痴女四人が、図らずも噂話によって狙っていた敵を呼び寄せるに至ったということであろう。
「(きッ、来たぁぁぁ!何て幸運なのかしら!)」
「(嘘ッ、本当に来ちゃったわけ!?)」
「(いャん、噂には聞いてたけど本当にイケメンなのね!)」「(嫌いじゃないわ!寧ろ大好きよゥッ!)」
各々固有の場所に隠れていた痴女共は、それぞれ内心発狂しそうな程に(例えるなら、一昨年十一月の末に人生初のファンアートを頂いた時の作者よろしく)驚き、また歓喜した。彼女達は亜塔が現れた理由など知らなかったし、知る必要もないと思っていた。しかし"理由"はすぐさま明らかになり、亜塔の行動は彼女らを内心絶句させるに十分であった。
「(え、何で……コンロッ!?)」
「(野菜、肉、包丁……って、えぇ!?)」
「(フライパンに油を……)」
「(これってまさか……料理!?)」
面食らったのも無理はない。研究室に入って来た亜塔はそのまま他に何をするでもなく、流し台に向かい料理を始めたのである。
痴女共は自分達の眼前で起こっている出来事に一瞬戸惑いこそしたが、料理に夢中な今こそ絶好のチャンスだと考えた四人の内の一人―空中を浮遊する女体を象った棺桶のような者―が亜塔の背後へ忍び寄る。この女の名はヤンヌ・ミーディン、クロコス反乱軍の中でも特に風変わりな形態と能力を持つ事で知られる幾人かの一人である。
「(イケメンで強いだけじゃなくて、その上家庭的だなんて……本当イイわァ……それでこそ犯し甲斐があるってもんよ……)」
ヤンヌがほくそ笑むのと同時に金属製の棺桶である彼女の前面が左右へ扉のように開き、見るも悍ましい彼女の"内部"が明らかになる。
一見ただのアーティスティックな棺桶にしか見えない彼女の内部に蠢く、無数の触手。小腸の内壁を覆い尽くす柔毛を肥大化させたようなそれは、貪欲に何かを求めて動き回っているかのようであった。
「(さァ、イケメンさん――私のナカへいらっしゃい。キモチイイことシてアゲるわよォ……)」
前面を開ききったヤンヌはそのまま亜塔へとにじり寄り――まるでカエルアンコウがミノカサゴを喰らうかの様に、青年を背後から丸呑みにしてしまった。
「(――勝ったッ!第六シーズン完ッ!」
次回、ヤンヌの正体が明らかに!彼女達に対する亜塔さんの筋肉紳士っぷりにも注目だ!