第三百五話 戦うゲスト様-新種誕生&T.O.R.O.四神参上 その1-
(デュルリリリ~♪)
「謎の"新種"と最初に顔を合わせたのはァ~この男ーッ!」
(デン!テテーン、テーン♪)
「クアル・ハイルの鉄仮面"グリス・ゼラニュート"ッ!」
(デンデンデーレ、デレッ、デッデッデデレデレ♪)
「蠱毒の所為で出番が少なくなってしまった天才剣士が任された、驚愕の大役とはッ!?」
(ドワェーン)
―前々回以後より・中央スカサリ学園敷地内・水没した家庭科室―
「ナナセ!ネッナニニニヌネナネ!」
「ニヌネニナニノノネ!」
「ナナネナニナヌ!ナナヌニヌネノ!」
鳴き声とも言語とも呻き声ともつかない謎の音声でのやりとりで何かを探す、三匹の"白い何か"。
恐らく"内骨格を持つ有機生命体"であることだけは確かであろうそれらの容姿は、凡そこの世で存在の確認されている如何なる生物(或いは、先人の優れた想像力によって描かれた如何なる架空存在)にも似ているようで似ていない――平たく言えば"わけのわからない姿"をしていた。
「(……一体何者だというのだ、この連中は……毛もなければ鱗もなく、さりとてカエルやウナギのような滑りも見られず、そもそも呼吸の気配すらない……あのネルンボという蓮の花から這い出て来たのだ、中央スカサリ学園の気を違えた精神疾患持ちの狂人共が何らかの形で関わっている事は確かなのだろうが、一体……)」
そんな三匹の"白い何か"を身を隠しつつ観察するのは、甲冑を思わせる仮面で素顔を隠すクアル・ハイルの剣士グリス・ゼラニュート。本来ならば元騎士としての矜持に則り大抵の敵には正々堂々とした戦いを挑む事を信条とし、それ故に少なくとも能動的に逃げ隠れすることを好みはしないであろう彼が自らの意志で身を隠しているのには、当然しっかりとした理由が存在した。
「(然しドロール公のご命令とは言え、何故このグリス・ゼラニュートが化け物の駆除ではなく捕獲をせねばならんのだ。いや、ドロール公お一人の御意志であったならばまだ良かろう。問題はそのご命令というのが十中八九、実質的にあのいけ好かない赤毛魔女の意志によるものであろうという事よ。大方自分の言葉は聞き入れぬと判断しドロール公に代弁を行わせたのだろうが……えぇい、かの女の何と姑息なことか!私はそこまで頑固でも堅物でもないぞ!どれだけ自分に自信がないんだあの小心者!)」
腹立たしく思いながらも、根は律儀で真面目なグリスは言い渡されたとおり"白い何か"の捕獲手段を考える。幸いにも可能な限り原型を保っていれば生死は問わないため、なるべく手短に仕留めてしまえばよい。
「(となるとやはり正攻法か……だが問題は、奴らの"アレ"をどうするかだ……)」
―同時刻・柔道場―
「ざらァァァァァァァッ!だばぎゃああああああああっ!」
「さェあァッ!はッ!シャッ!ハゥタァァーッ!」
本来ならば柔道部員達の健康的な叫び声などが木霊していることであろう畳張りの部屋に響き渡る、二人分の雄叫びと奇声――その発生源の片方は、未だこの作戦を"ゲームによる仮想空間"であると思い込みつつもひたすら戦い続ける少年・風間大士。嬉々として戦場へ飛び込んでいった彼が単身相手取るのは、パンツ一丁に黒いマントを羽織っただけという痴女めいた身なりで空中に浮遊するブロンド女であった。
外見から察知する限り年齢は大士と同程度、顔付きが地球でいう白人に近く耳が細長いという点から見るに種族は尖耳種であろうか。周囲には彼女を警護するかのようにカラスや蝙蝠、羽虫が飛び回っており、これらは彼女の魔術による使い魔を思わせた。
◆◇◆◇◆◇
「ちィ、ややこしい奴だな。弾丸が全部弾かれちまう」
【偶然当たりかけたとしても掠りさえしねぇからな……しかもあのパツキン露出狂、何を気取ってか当たりかけた弾丸ァ全部ギリギリ当たりそうで当たんねぇ距離で避けやがって、イラつくぜぇ……】
「落ち着けよオッサン。奴はあの身なりからして自己顕示欲の強い変ン態だ、多分"映画みたいにギリギリで攻撃避けてる私カッコイイ"的な、一種の中二病でも拗らせてんだろうぜ」
【だからオッサン言うなって……まぁお前が言うからにはそうなんだろうな】
「お前が言うからにはってなんだよ。つーかアパトサウルスって人間よりずっと長生きなんだろ?それでその大きさまで生きてんだったらオッサンどころかジジイっつっても差し支えねーじゃん?」
【いや確かに長生きだが成長の速度がちげーよ。人間換算したらまだオッサンと呼ばれるような歳じゃねーことは確かだよ多分】
「多分って何だよ」
【原作で言及されてねーんだよハッキリとした年齢が】
◆◇◆◇◆◇
「ン……動作は荒削りで大雑把、かつ照準も出鱈目ながら、それでいてこの味わいは……」
先程までの大士との戦闘を、まるで料理の味を思い返すかのように反芻するのは、パンツ一丁に黒いマントを羽織っただけという痴女めいた身なりのブロンド女――もとい、尖耳種のザトラ・ヴァンクス。T.O.R.O.隊でも最上位の幹部とされる"T.O.R.O.四神"なる四人組の一人である彼女は、大士の分析通り高い性欲と自己顕示欲を誇る優れた魔術師であり、疾風と大気の属性を巧みに操るほか、浮遊や使い魔使役などトリッキーな技にも秀でる策士であった。
「植物性油脂五割、強烈な香辛料三割、その他調味料二割の比率で丹念に練り上げられた濃厚なタレと刻んだ香草で味に深みを持たせたテイオウスナハンザキの胃壁ステーキが如し。若干しつこめで庶民的な分気品には欠けるが、寄り好みせず堪能してこそ真の貴族!なぁ眷属諸君、君らもそうと思――「思うわけねーだろストリィィィィム!」―アベバァーッ!?」
誇らしげに語りかけるザトラの頬へ、使い魔と思しき蝙蝠(ウオクイコウモリ風)の体格に見合わぬ強烈な飛び蹴りが叩き込まれる。珍妙な悲鳴を上げて吹っ飛ぶザトラに、使い魔の蝙蝠は立場を弁えない罵声を浴びせる。
「イミフな出鱈目言ってカッコつけてんじゃねぇぞクソ主!何が真の貴族だコラ、おめーの実家は地主で金持ちだが貴族じゃねーだろうが!」
「ぁ痛ッ……ルーナック!主をいきなり蹴る奴があるかっ!相変わらずお前は礼儀がなってないな!」
「礼儀だと?ハン、そんなもんとうの昔に捨ててやったわ!」
「何て奴だ……なぁ、みんなも何か言ってやってくれ!」
使い魔の生意気な言動に腹を立てたザトラは他の使い魔達に助けを求めた――が、
「いやぁ、そりゃ何時もは叱り飛ばしますけど……さっきのはアタシもねぇ……」
とは、ルーナックの姉である蝙蝠(チスイコウモリ風)の使い魔グニール。
「畏れながら申し上げます。主殿、先程の発言は作者補正を抜きにしても九割がた失笑ものかと……」
とは、ルーナック及びグニールの姉である蝙蝠(オオコウモリ風)の使い魔トライスラ。
「蹴り入れたルーナックの気持ちも判らなくはねーっすわ」
とは、赤子の白骨死体を使役する能力を有するカラスの使い魔・ユニ。
「一瞬主のドヤ顔をウザいと思ってしまった事を悔やむ男、ボーグル!」
堂々と失礼な事を叫ぶのは、掌ほどもある甲虫(ゴホンツノカブトかセンチコガネ風)の使い魔・ボーグル。
「安心シロボーグル、俺モ今丁度同ジ事思ッタ」
「右に同じくだぜぇ~」
便乗するように言うのは、それぞれ電子音声のような片言で喋るキリギリスのカトルと陽気なリスザルのロキシャ。最早言いたい放題である。
「えー……?そんなに駄目?」
「駄目に決まってんだろ!」
「駄目ですかね」
「畏れながら」
「まぁ半ば作者の所為っすけどね」
「作者の無能ぶりに苛立つ気力すら失せる男、ボーグル!」
「語彙ガ足リネエンダヨナァ……」
「全くだぜぇ~。そんで主、これからどうすんですかぃ?」
「……作戦、立て直そうか」
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