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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
304/450

第三百四話 戦うゲスト様-幼獣の真相:後編-

読者「こんな展開で大丈夫か?」

蠱毒「大丈夫だ、問題ない。ところで……こんな投稿時間で大丈夫か?」

読者2「四日遅れた事だってあったんでしょ!?二時間くらい何よ!」

―前回より―


「……どうする気かって?処分に決まってるだろ、言わせるなよ」


 ファープの一言は、玲の度肝を―まるで本当に肝臓を素手で引き抜く勢いで―悉くぶち抜いた。


「処……分?」

「そ、処分。面倒だから二度は言わないぞ」

「処分……何で……何でこの子がそんな、処分なんかされなきゃなんないのよッ!?」

「何故って――あぁ、そういえば君らは知らないんだっけ。いいよ、説明してあげよう」

「……ファープ、警告を忘れたの?」

「あぁ?大丈夫さ、どうせすぐに終わる。君は帰ってていいよ」

「……」

 青く透き通った女が音もなく姿を消すのと同時に、ファープは一昔前のアニメ於ける解説役のような(わけでもない)喋りで語りだした。

「そもそもウチクロコス・サイエンスの怪物は、僕のような例外を除けば―さっき帰った紀和室見ちゃんも含めて―全て人為的に製造された生体兵器か、一般人を強化した改造人間である事は読者の皆にとって周知の事実だし、君らも把握していると思う。というか、今回はそれを把握している前提で話を進めて行こう。異論・反論は認めない」

「……」

「それは当然ここにいるこいつ―君らが名前までつけて可愛がっていた、リバーライダーも同じなんだよ」

「……つまり、私は……」

「そ。君らが草刈りでもするように殺し続けていた化け物の同類――それも、とびっきりの落ち零れで能無しの、所謂"失敗作"を育ててたって事になる」

 ファープの言葉は玲の心を―まるで刺だらけの焼き鏝で幼児の柔らかな腹を刺し貫きその内臓を力一杯掻き回すかのように―容赦なく、無慈悲かつ暴力的に刔る。深く傷つく玲の心中を知ってか知らずか(十中八九知り尽くした上でだろうが)ファープは更に言葉を紡ぐ。

「生体兵器と改造人間にはウチクロコス・サイエンスを支配している"さるお方"の細胞が組み込まれていてね、その所為で奴等は限りなく凶暴かつ獰猛にして好戦的な―まさに"兵士"たり得る素質を得るんだけど、そいつ――カモノハシとスッポンモドキの合成生物キメラであるリバーライダー――はどういうわけか生体兵器に共通する"兵士の気質"がまるでない失敗作だった」

 ファープは割り込む隙も与えぬ程の早口で言葉を紡いでいく。普通なら盛大に噛みそうな所だが、それでも彼の言葉は一言一句滞りもしない。

「それで"さるお方"は仰った。"我が軍に戦意なき腰抜けは不要。態々手を下すも腹立たしい、放置していれば自ずと他種の餌となり絶滅するだろう"とね。だがリバーライダーは生き残った。唯一残った卵を君らが孵してしまったからだ。"さるお方"は君らが卵を孵したという原因こそ知らないが、リバーライダーの生存という結果は知っている。自らが存在を否定した存在の生存を知った"さるお方"のお怒りは凄まじく、即座に僕らへリバーライダーの処分命令を下された……と、こんなものかな」

「「「「「「……」」」」」」

 堂々と、かつ軽々しく、そして何処か誇らしげなファープによって語られたゴノ・グゴンの野蛮で身勝手な考えは、桃太郎組の面々を内心激怒させるに十分であった。

「さて……何時までもこうして話し込んでいるのも何だし、そろそろ事を済ませるとしようか……」

 細腕でリバーライダーの首を握り締めたファープは、この余りにも哀れな失敗作をどう殺してやろうかと考えを巡らせた。幸いにも自らの異能・・が幸いしてか道具は山のようにある。凡その殺し方はできるとして、何を使うかが問題だ。ここは何としても徹底した殺しぶりを見せ付けてやらねば気が済まない――余裕綽々に考えを巡らせるファープだったが、この時彼は少しばかり出遅れて・・・・しまっていた。

「クヮゥッ!」

 手中に収めた不出来な獣の抵抗を、僅か一秒にも満たない遅れの元に許し、思わずその手を振りほどかれてしまったのである。

「ッ、しまっ――!?」

 続いて彼の眼に写るのは、リバーライダーの右後ろ脚から放たれる眩いばかりの青白い光・・・・。少年は光の強さに思わず瞼を閉じようとするが、そうはさせぬとばかりに対するリバーライダーの―カモノハシ及びスッポンモドキという、凡そ空気中での機敏さとは縁遠いであろう動物のそれにあるまじき―アクロバティックな回転蹴りが繊細な顔面へ叩き込まれ、光り輝く右後ろ脚の鋭い爪が少年の左目を刔る。

「ッぐぁぁ゛ァ゛ぁぁ――め、メがァッ!?」


―解説―


 カモノハシという動物に対する人々のイメージがどんなものなのか作者は把握していないが、少なくとも過半数のそれは"愛らしく温厚で少し抜けた感じのマスコット"に類似するものと思う。攻撃的なイメージなど抱きはすまい、ましてこの種が世にも珍しい"有毒哺乳類"であろうなどと誰が信じようか、とも。

 然しその実、カモノハシは中々荒々しい側面も併せ持つ。その象徴たり得るものこそ、後ろ脚に備わる蹴爪である。雌のそれは成長に伴い抜け落ち、生涯それを有すのは雄のみであるというこの爪には、これまた雄に限り免疫機構に由来する複数のタンパク質類―内三種は本種特有のもの―から成る毒液を分泌する。

 これは中型犬程度を殺すに十分な程の猛毒で、ヒトに対しては致死的でこそないが、激痛は対象を無力化させる程だという。毒による浮腫むくみは傷の周囲から急速に広がり、四肢まで徐々に広がっていく。事例研究から得られた情報によればこれは持続的な痛みに対して高い感受性を持つ感覚過敏症となり、平均数日、時には数ヶ月も続くとされている。


―解説終了―


 そんな毒の爪をよりによって眼に受けてしまったファープの苦しみは、相当なものであった。しかもこの時、それに加えてリバーライダーにはある変化が起こっていた。その変化というのは―先程の"蹴爪が光った"という描写から察知済みの読者も居ようが―なんとこの混成獣、人為孵化の際に得た玲の気から何を受け取ったのか、彼女の家に伝わる体術を生まれながらに習得していたのである。しかしその事実を知るのはこの話を書いた作者とこの話を読んでいる読者諸君のみ、劇中人物は知る由もない。


「はッ、ぁア――んの、クソがッ……」

「クゥ!クヮフゥッ!」


 二足で立ち身構えるリバーライダーの鳴き声は、ファープに対する警告のようでもあった。


"お母さん達に手を出すな。これ以上抵抗するようなら容赦しないぞ"


 蹴爪に毒を持つ事から雄であろうリバーライダーの心中を代弁するなら、ざっとこんな所であろう。早くも体術をモノにしつつあるらしく、片目を刔られ毒に冒されているファープが劣勢なのは火を見るよりも明らかであった―が、更なる非情な現実が彼を追い詰める。


 桃太郎組の隊士達を拘束していた重力が消え失せつつあったのである。


「(な、そんな――馬鹿なッ!何故だ!?何故奴らがっ!?時間をかけ過ぎた?いや違う、僕に限ってそんなミスなどする筈が無い!だったら何故……まさか紀和め、嵌めやがったな!あの洗濯糊めが、そんなに僕が嫌いかクソっ!)」

 苦境に立たされたファープだが、彼は尚諦めずに活路を模索する。

「(――だが逆に考えろ、僕ッ!ここで撤退したっていい、逃がせばいいと考えろ!殺すチャンスくらい幾らでもある――が、こいつだけはッ!)」


 ファープは追い詰められて尚望みを捨てず、自らの異能により右腕に狩猟用クロスボウを生やす・・・。数日前、興味本位で喰った・・・代物だが、上手くやれば中型竜種の頭蓋骨をも砕く代物だ。こんな獣程度一撃で殺せるだろう。そう思いながら、ファープはクロスボウに矢をセットする。

「――!クゥちゃん、逃げて!」

 クロスボウに気付いたらしい玲は、何とか立ち上がろうと弱まりつつある重力に抗いながら、腹の底から声を張り上げる。


「(……生意気な。霊長種の分際で僕の邪魔立てか、死にたがりめ……いいだろう。そんなに死にたければ、お前から死ね……)」


 死ぬ予定だった失敗作を孵したばかりか、名前までつけて可愛がる。漸く訪れた処分のチャンスにさえ邪魔をする――玲の行動に苛ついていたファープは、クロスボウの照準を玲に向ける。


「―――えッ」

「「「「「玲ッ!」」」」」

「クヮウッ!」


 桃太郎組の隊士隊は未だ満足に動けない玲を守らんとするが、そんな四人と一柱の思いを嘲るかのように矢は発射され、一同は思わず目を閉じた。


 そして、一瞬の後。死を覚悟した玲は、しかしどういうわけか自身の生存を自覚する。


「(――あれ、何で私、生きて――)」


 思わず目を閉じてしまっていた。一体何が起こったのか確認せねば―玲が瞼を開いた、次の瞬間。


「……ぇ?」


 視界に飛び込んできた、光景――


「なん、で……」


 眼前で立ったまま矢に刺し貫かれた一抱え程の影。

 刔られた傷口を押さえながら逃げる敵。

 それを追おうとして見失い、此方に駆け寄る仲間達。

 理華、麗、イオタ、聖羅、犬丸――皆悲しげ(或いは悔しげ)な表情で、玲の身を案じていた。


 状況を理解した玲の目から、涙が流れ出す。



 クゥちゃんが、死んだ。クロスボウの矢から、自分を庇って。何故あの子が、もっと生きられた筈なのに、何故。



 パズルゲームの連鎖コンボで弾き出された得点のように膨れ上がる悲しみは瞬く間に心を支配し、冷ややかでストイックな少女の感情は、限界を超える水を注がれ続けた水風船のように破裂する。破裂した感情は粒を通り越し流れとなった涙となり、また、喉を嗄らさんばかりの嗚咽となり、膨大なエネルギーを物理的に外部へ放出しようとする。


 玲はその後十秒前後の休憩を十回挟み、七分もの間延々と泣き続けた。泣き止むも疲れから寝てしまった彼女は、約一時間の仮眠を経て起床。『悲劇を乗り越え鋭さを増したその視線には、より一層強まった"ヒトに害なす魔物とその根源に対する憎悪"が渦巻いているようだった』とは、未だ玲との関係が上手く行っていないと語る理華の弁。ただ彼女はそれに付け加える形で『この一件を経て桃組の心は一つになりつつある気もしなくはない』とも語っている。

読者「……何故殺した?」

蠱毒「まぁ落ち着け。銃を突きつけられてはビビッて話もできやしねぇ」

読者「答えろ!何故殺した!?」

蠱毒「……それがお約束だからさ。プロットでも決まってたしなぁ。

この先他のゲストがどうなるかはあんたら次第だ。無茶な展開と微妙なオチの被害者にしたくなけりゃ、私に協力しろ。

オーケイ?」

読者「オッケイ!」

(銃声)

蠱毒「ぐぼぇぁっ!!」

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