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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
301/450

第三百一話 戦うゲスト様-食人蓮の秘密:後編-





明らかになる真実、誕生する新種

―前回より・水の浅い初等部屋内プールにて―


「おっねクソッタレぇ!」

「「「クビョァ!」」」

 謎のキノコらしき球体を突き破って現れたイプセルドーリスの幼生を掌からの光弾で瞬時に破砕した健は、すぐさま泣き叫び取り乱す義妹を宥めにかかる。幸いにもショックの軽かったあかりはすぐさま落ち着きを取り戻す。

 転向当初のいじめをいじめとも思わず無自覚のままに受け流し続けた精神力は異世界にあっても健在なようであった。


「歩けそうか?」

「大丈夫だって。それよりあいつら、どんどん出てきてる!ここでやっつけとかないと後々やばいことになるかも!」

 見渡せばプールに浮かぶ謎のキノコらしき球体の内部からは、何れも水圏に深く関わる生体兵器三種―イプセルドーリス・ディアファヌマ、モルダキア・モーディカ、プロテウス・デパンダン―の幼生が次々と現れては水中に解き放たれていく。その有様はまるで水棲生物の"孵化"を思わせた。

「くッ!小せェ癖にもうデカブツと同じような動きをしてきやがる!気を付けろよあかり、ウナギみてーな奴に食い付かれたらそのまま皮膚食い破って身体ン中ァ食い荒らされっぞ!」

「お兄ちゃんこそ、あのプヨプヨした奴にひっつかれないようにね!完全に貼り付かれたら大変な事になっちゃうんだから!そんなの嫌よ!?」

「解ってらァ!せォい!」


―解説―


 義兄妹が生体兵器討伐に熱を上げている所へ休憩がてら、一つ解説を挟みたい。

 その解説というのはずばり、学園班側で主に佳虫ファミリーの人員が遭遇している謎の両生類"プロテウス・デバンダン"についてである。

 不甲斐ない作者の所為で本文中でも具体的に何をするのかまるで描写・説明されないまま、ただただ『恐ろしい生体兵器』とばかり表記されてきたプロテウス・デバンダン。外鰓を取り払ったホライモリを太らせたような姿をしたこの両生類は、一見さして恐ろしくは見えない。それこそ予備知識がなければ、地球のカンディルを更に凶暴化させたようなモルダキア・モーディカや、鑢状の歯舌しぜつで植物から人肉からコンクリートの壁までも瞬く間に削り取り食い荒らすイプセルドーリス・ディアファヌマの方を恐ろしく感じることだろう。

 しかしその実、それらのどちらも本領を発揮したプロテウス・デパンダンのもたらす恐怖には遠く及ばない。この一見愛らしくもある両生類のパワーは見た目に反して凄まじく、跳び上がって手頃な生物の露出した柔らかい皮膚へ貼り付くのと同時にその体組織へ食らい付きそのまま一体化。ある程度馴染んだところで一気にゲル状の原始的な姿にまで逆戻りたデパンダンは、寄生対象の細胞を喰らうのと同時に高速で自身の細胞を分裂させその範囲を広げていく。同時進行で範囲の拡大される補食と一体化はやがて脳にまで到達し、その時点で寄生対象は生命と自我を保ったままデパンダンの意のままに操られる事になってしまう。こうなると助かる見込みは絶望的であり、そもそも一体化が成立した時点で助かる手立てはあって寄生部位の切除ぐらいということになる。

 救いがあるとすれば、デパンダン本体は両生類故脆弱であることと、寄生から一体化に至るまではかなりの時間がかかる事であろうか。特に張り付かれた際は酢酸やエタノールなどをかけると苦しみ悶えながら剥がれてくれる為、対処そのものは実に簡単である。


―解説終了―


「――っと……今度こそ終わった、よな?」

「多分ね……それにしても何だったんだろう、あの白いの」

「確かではねぇが……"実"なのかもな……」

「実……?」

「そうだ。検索すりゃはっきりすることだろうが、あん中に詰まってた赤いドロドロは人間の血とか肉で、白いカケラは細かくなった骨……そう仮定すりゃ、人間を食うネルンボの中身と一致する……」

「つまりネルンボは、生きたモンスター製造機ってこと?」

「そうなるだろうな……まぁ詳しくはデータベースに書いてあんだろ」

「ちょっと待って、今検索してみる――っと、ほ、よっ――あぁ、あったあった。確かに書いてあるよ。えーっと……『養分ようぶんをある程度たくわえた花は葉や根共々しおれて朽ち果て、白い球状きゅうじょうの実をつける。この実は以下の三種を育成する保育器ほいくきもしくは育児嚢いくじのうの役割を担う』って。どっちかっていうと卵だけど。っていうかイクジノウってなに?」

「タツノオトシゴの腹にある奴だろ」

「あぁ、あれね。オスが出産とかの」

「そういう事だ。ま、ともあれここいらはあらかた制圧したし―「次行っちゃう?」―のもありだが、休憩がてら飯にするって手もあらぁな。さっきのでポイント貯まったし、贅沢って奴をしてみるのも悪かねぇ」

「おぉ、流石お兄ちゃん。英断だねぇ、それにしよう!」

「ははは、そう褒められたもんでもねぇだろうよ。さてさて、そうと決まりゃ早く戻るとしようぜ。ここいらでピクニックシート広げて食ってたらバケモン共に横取りされっからな」


 かくして義兄妹は食事のために一旦拠点へ戻ることとし、その場から立ち去っていった。

 だがこの時、義兄妹はあるミスをしていた。実を成していないネルンボを『餌さえなければ実などできる筈もないだろう』という安易な考えから駆除せず放置してしまっていたのである。

 だがそんな二人の思い込みとは裏腹に、放置されたネルンボ達はその場に浮いている"餌"――もとい、先程までに義兄妹が駆逐した生体兵器の亡骸を餌として補食し、十分と待たず一斉に実をつけることとなる。しかもその卵から産まれた生物は、データベースに於いてネルンボから生まれるとされる三種のどれとも―それどころか、これまでに中央スカサリ学園が産み出し使役していたどの生体兵器とも異なる外見をした"新種"だったのである。

次回、作者が当初からやりたかったネタがスタート!

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