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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
299/450

第二百九十九話 戦うゲスト様-三日も待たせてこの出来か……ゴミめ-




遂に始まる全面戦争!

―前々回より・CSクロコス・サイエンス社敷地内の通路―


「ふッ………ぬんッ!」

「ヂゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ヴヴヴヴゥ……」


 目にも留まらぬ早さの居合いによって一瞬にして切り落とされる、マウソルジャーの首。

 その切断面からは当然のようにヘモグロビンを主成分とする赤い血液が噴き出していたが、それはあくまで首から下の話。切り落とされた首の切断面は、まるで核磁気共鳴画像法かコンピュータ断層撮影によって得られた輪切り画像のように綺麗なものであった。見れば周囲には、それ以前に刀の餌食となったであろう様々な生体兵器―マウソルジャーやリザドロン、テラーギガスの生殖細胞等やクライム・パラサイトによってゾンビ化した人間達の他、群れで活動する掌サイズの吸血蟻"ブラドロップ・アント"や、同じく群れで活動する座布団サイズのフナムシ"クロコスウミジラミ"等―の死骸が転がっている。


「くッ、何処ドコ彼処カシコも不細工な化け物ばかり……クロコス・サイエンスの何と悪趣味なことか!例の美少女達は一体ドコに!?」


 刀についた血糊を拭いながら不満げに毒づくのは、この死体の山を造り上げた張本人―もとい、剣術の腕前と同性愛者レズビアンぶりに定評のある忍者剣士・アンズである。見取り図を受け取るや否や真っ先に社内へ飛び込んだ彼女の目当てはただ一つ――先日山中で遭遇したクロコス反乱軍の女性メンバー達である。彼女はその凄まじい同性愛者ぶり故、一応曲がりなりにも生体兵器の端くれであり、異界民にとっては明らかに"おぞましい化け物"然とした容姿であるはずのクロコス反乱軍女性陣をも"少々個性的なお嬢様・お姉様方"と認識するに至っていたのである(294話で神河が話していた忍者というのも勿論彼女に他ならない。また、繁殖特化故に総じて異性愛者である反乱軍女性陣は同性愛者のアンズを心底不愉快に思っていた)。


「……まぁ、何だかんだ言って立ち止まっていても仕方ないか……」


 少しばかり辺りを見渡したアンズは、直感の赴くままに走り出す。


―同時刻・東側社員食堂―


「な……何なのこいつら……」

「明らかに……強く、なってる……」

「まさか……この短期間で何かの強化改造を……」


 アンズが反乱軍の女を探し回っているのと時を同じくして、かの同性愛忍者が追い求めるものへ遭遇した者達もいた。唱道者達―則ちアルティノ、ラピカ、シャアリンの三名―である。自らの契約対象である使徒精霊並びに三名のネオアース民の力を武装として身に纏い戦う彼らは現在、クロコス反乱軍のメンバーと思しき男女三名に苦戦を強いられていた。


「ンフフ……未熟だったわねぇ、ボウヤ達」

「敢えて我々に戦いを挑んだその勇敢さは評価しよう……」

「だが残念だったなァ、お嬢ちゃん……チト予習が足りなかったらしいぜェ?」


 地に伏せり動けないでいる三人(実質九人。もっと厳密に言えば三人及び三柱及び一頭及び一尾及び一匹)を見下ろす反乱軍メンバーの男女三人は、何れも霊長種ホモ・サピエンスを形質の基軸に据えた異形の容姿をしていた。

 先ず最もホモ・サピエンス的であるのはリーダー格と思しき中央の女であろうか。ほぼ全裸のまま腰掛けた姿勢で空中に浮遊する彼女の体型は如何にも(例えば軽く1mを超えていそうな胸囲や、その癖妙に引き締まった胴などという点に於いて)フィクション的であり、腰を通り越して尻か大腿骨の中程まである亜麻色の長髪はウェーブがかっており、中に針金でも入っているのではないかと思われるほどに型崩れを見せない。

 頭部にはどういった原理でか光の輪が備わっており、背から生えた純白の白い翼も相俟ってその姿は典型的な"地球の西洋宗教画に於ける天使"を思わせる。但しその背からは深紅の外骨格を持つ盲目の人面蛇が数匹生えており、局部隠しや姿勢維持の役割を担っているらしかった。


 続く男性メンバー二人の内で容姿がホモ・サピエンスに近いのは、ラピカを狙う比較的大柄でラフな喋りの方であろうか。剣闘士風の露出が高めな鎧に片手サイズの盾と剣と、これだけならまだ普通と言えよう。だがその右腕は獅子、左腕は牛のようで、背には巨大な鷲の翼が備わり、両足の膝から下などは大型二輪車のそれと思しき車輪に置き換わっている。極めつけは全身至る所に備わった目玉であろう。これらは閉じると同時に消失する概念的なものに過ぎないのではあるが、それでも異常なものであるのは間違いない。


 だが、そんな上記二人より明らかに異常な姿であるのがシャアリンを狙う細身の優男である。見て呉こそ色白で女性的な体つきをした紳士的な美男子であるが、その体は皮膚から内臓、骨格から体毛、果ては服の繊維一本までも全てが"寄り集まって色を変えただけの触手"に過ぎず、則ちこの男の容姿は実質"ホモ・サピエンス型"ですらないのである。


「さて、そんなこんなあって、またすっかりお前らは追い詰められちまいやがってる訳だが……」

「我々は他の奴らと違い、綺麗な目をした異性には極力紳士的でありたいと心掛けているんだ」

「だからねぇ、アナタ達の事はあまり苦しませたくはないのよ……まぁ私の場合は淑女というのが正しいのだろうけれど……わかるでしょう?」

 優しげに問い掛ける天使女の視線は何とも蠱惑的であった。しかしアルティノはそんな彼女を嫌悪や侮蔑の篭った目で睨みつけながら、普段の温厚な彼からは想像もつかない程におどろおどろしい言葉で侮辱・罵倒する。

「黙れ阿婆擦れベイベロン……何を言おうと詭弁の癖に、今更綺麗事嘯いて自己弁護か。見苦しいな……」

 罵りの言葉を紡ぎながら、アルティノは必至の思いで立ち上がる。武装を成すスーザンとダカートは無理をする彼を止めようとしたが、そんな相方二人の反対をも押し切って彼は立ち上がり、大型獣脚類の頭骨らしき意匠のあるバトルアックスを掲げ身構える。

「さあ、来いよ下等生物……僕の斧でお前らの……エロとかセックスとか、そういうのしかない頭なんて……叩き割ってミンチにしてやるからさぁ……」

「あらら、イケナイ子ねぇ。そんな汚い言葉使ったら、折角の綺麗なお顔が台無しよ?」

「お前に汚されるよりはずっといい……本部でお前らクロコス反乱軍の話を聞いていた時から、ずっとそう思ってた……」

「ケ、童貞がァ……健全ぶってんじゃねぇよ、みっともね――ォ゛ヴぅア゛ッ!?」

 剣闘士男の右目を刔る、ピンポン玉大の光球。かつ変則的な動きで素早く飛び回るそれは、ラピカの操るチョウチンアンコウ型の指揮棒(先端に発光器官のついた竿型の背鰭が肥大化したようなデザイン)によるものである。

「みっともない?寝言言わないでよ。時刻はまだ18時も回ってない――寝るにはまだ早いじゃん」

「(ん……?この少女、我々にあれほど追い詰められていた筈だが、心なしか他二人よりも――っガ!?」

「……余所見してんじゃないわよ、このミミズ野郎。あんたの相手はあたし等でしょうが」

 目にも留まらぬ素早い斬撃で触手男を正中線のラインで二分割するのは、蛾の触覚を模したデザインの刃つき鞭二本を振るうシャアリンであった。

「く……クふフっ……いイねエ、すゴくイい……ヤはリ武装ぶソうシてイるンだカらソうデなクちャねエっ!」

 分断された触手男は、傷口から湧き出る触手で自らを縫い合わせていく。

「っ……は、ぁ……んの、メスガキィ!もう容赦しねぇからなぁ」

 剣闘士男の全身に備わった目が、怒号と共に見開かれる。

「何よもぅ、折角"イイコト"してあげようと思ったのにィ」

「のにィ」

「のにィのにィ」

「のにのにィ」

 天使風女の腰から生えた人面蛇は、口々に主の発した言葉の語尾を鳴き声のように反復し続ける。

「ま……苦労してオとした方が楽しみは倍増するけどねェ!」

次回、謎の植物ネルンボの秘密が明らかに!

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