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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
298/450

第二百九十八話 戦うゲスト様-ゲストが戦うと言ったな。あれは嘘だ-



こんなのゲスト召喚編じゃないわ!ただのエレモス編よ!

―前回より・中央スカサリ学園地下―


「――ん、ンっ……んン?――……ッ!!」


 ふと、眼が覚めた。暗く、寒く、湿った何処か―少なくとも天国とか地獄とか、要するに"あの世"ではない事は確かな場所で。

 立ち上がろうとしたが、身動きが取れない。見れば、椅子に括り付けられたままのようだ。


「……そうか。てっきり死んだと思っていたが、ありゃ麻酔銃か……しかも両足が膝まで水ん中、辺りを見渡しゃ俺と同じように連れ込まれた"餌"がチラホラ、って事は……だ」


 水の張られた石造りの暗い地下空間。"根源"の座する場所と似ているそこは、やはり特殊な生体兵器の育成施設に他ならない。ただ、薄暗い水辺の中央に花開くのは"植物のような姿をした動物"である"根源"などではなく、れっきとした植物―それも、光の届かない中で一見無意味に咲く、巨大な蓮の花。

 その余りに奇妙な―そして、醜悪でありまた美しくもある花を咲かせる植物の名は、"ネルンボ・デイパラ"。蓮守サルミヌス・クストディ達によって保護されている人食い植物ネルンボ・スカザーリアの上位種にして、学園の追い求めていた"秘宝"そのものである。

 こう書けば多くの読者は"ならば何故秘宝回収隊なるものを編成・派遣などしたのか?"と疑問に思うことだろうが、回収隊関連はあくまで一種のパフォーマンスであると同時に、選りすぐりの優秀な人材を生体兵器やT.O.R.O.隊に襲わせる事が目的だったとでも書けば納得してくれるだろうか(即ち、そういった優秀な人材を犠牲にしてでもそれらの試験運用や繁殖補助を行うべきとの判断が下されたという事である。序でに言えば王将以外の者達は生体兵器やT.O.R.O.隊によって薬物で意識を奪われたまま安置されている)。


「……あのクソ爺、麻酔銃で眠らせた俺をここで目覚めさせてあの花に生きて意識のあるまま食わそうって魂胆か……何処までもエゲツねー事考えやがるぜ全く……抜け出そうにも縛り方が俺の身体を読み尽くした結びになってやがるしご丁寧に脚まで――って、一度は生を諦めたはずの俺が何を今更生きようと思ってんだか」

 自嘲気味な口ぶりの王将は、まるで知らされていなかった幼馴染みセルジスの過去及びそれによる彼女の苦しみを思い返し項垂れる。項垂れ過ぎて椅子が少し傾いた辺りで、脳内を渦巻くものは"警告を無視して突っ走った挙げ句完璧に自滅した無様で無力な自分への自責"に置き換わる。

「(あぁ、いっそこのまま前のめりに倒れて溺死してぇよ……そうすりゃあのクソナマズにせめて一矢報いられたりとかすんじゃねぇかな……)」

 そして王将の括り付けられた椅子が遂に勢い良く倒れかかったその時、椅子の転倒が突然止まった。背後か横合いから何者かが掴んだのであろうか。兎も角椅子の傾きは矯正され、図らずも王将は一命を取り留めることとなった(この時王将はそれを不本意に思いながらも、心の何処かで死なずに済んだことを安堵していた)。

 図らずも命拾いした(或いは"してしまった")王将は自分を助けてくれたのは誰だろうかと気配のした方に目をやり――そして、言葉を失った。


「(な……セルジス……?)」


 そう。彼を溺死の危機から救ったのは他でもない、幼馴染みのセルジス・ズィリャ・プロドスィアだったのである。


「セルジス……何故ここに……」

「何故って、あんたを助ける為に決まってるじゃない。全くもう、こっちが"来るな"って言ってるんだから来ないのが普通でしょ。本当、後先考えないんだから」

 セルジスは何処かから持ち寄ったらしい大振りなケーブルカッターで王将を縛るワイヤーを次々切断していく。

「……後先考えてねぇのはお前もだろ。借金のカタで学園の手下やってんなら、こういうのは謀反とか反逆って奴なんだろ?」

「そりゃそうよ。でもあんな奴らへの恩義とあんたとの絆だったら、あんたとの絆の方が大事だもの――っと。はい、取れた」

 強靭なワイヤーを完全に取り払ったセルジスは、それを投げ捨てながら言う。

「最初は理事長の言うことも正しいし、ここまで世話してくれた恩を返さなきゃって思ってた。生徒会長のあれだって仕方ないことなんだと思ってた。普通の家に生まれたみんなへの劣等感も、この仕事をやりきればどうにかなるって、そう信じてきた――けど、さっきあんたが理事長に言ってた事を思い返す度、やっぱりヒトはどんなに惨めでも真っ当な道を歩まなきゃならないんだって思って、バカ過ぎる自分に気付いて嫌気がさして、死にたくなって、でも死ねなくて――っていうか、死にたくなくて―――それで、せめて生きてる間にできる限り思い付く限りの事をしようと思って」

「それで、俺を助けに?」

「……そういうこと。ここに捕まった中で唯一助かる見込みがあったのはあんただけ。つまり、ダンパーを止めらるのもほぼあんただけと言っていい」

「つまり何か、俺は"希望"だとでも言うつもりかよ」

「まさにその通りよ。あんたは希望。是が非でも生き延びて」

「……お前はどうする?」

「私は大丈夫。きっとまた会える―――会って見せるわ」

「……解った。絶対死ぬなよ」

「あんたもね。お互いやるべきことをやりきったら、その時はまた―無事だったらルラキや、生徒会長も誘って―一緒になんか食べに行きましょう」

「解った」


 かくして逃げ道を教わりセルジスと別れた王将は学園敷地内より抜け出し、密かに行動を開始した。

次回こそゲストの戦闘を描きたいなぁ……

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