第二百九十五話 戦うゲスト様-血風禁忌-
赤い目の剣士達が行く(瀬戸内市の方言で『まだ解説書けそうにない』の意味)!
或る番いのホモ・サピエンスがいた。
より細かく言えば黄色人種であるそれらは、まるでヒトならざる生物であるかのように美しく、またその内に比類無き力を宿していた。
嘗て架空のものとばかり思っていたそれらを肉眼で眼にしたとある九人は、語る。
曰く『あれがもたらす死はきっと私にも超えられない』
曰く『捕食者の最適化という命題の模範解答』
曰く『ヒトがヒトのまま獲得しうる至高の戦闘形態が一つ』
曰く『興奮の余り一物へ血が行き過ぎて卒倒しそうになる』
曰く『有機生命体にしては余りにも都合が良すぎる』
曰く『子として孕んだならば耐え難い恐怖から衰弱する』
曰く『天然には生まれ得ない魔物』
曰く『極めて興味深い存在』
曰く『最適の人選』
それらの力の根源たるものは、主に三つ。
第一に、獲物を捕らえ敵を切り裂く爪牙たり得るもの。
第二に、研ぎ澄まされた爪牙を無双のものたらしめる術。
第三に、捕食者を捕食者たらしめる奇跡と神秘を秘めたる血肉。
これら三つが揃いかみ合うことで、それら―"亜塔"と"零華"という二人の捕食者は、CS社の生体兵器軍団にとってこの上ない"天敵"となる。
―前回より・山中にて―
「ぐへィっ!」
「かォほァ゛ァ゛ッ!」
「ぎャぼロべッ!」
「あぎブぐヒっ!」
甲高い笛の音色を思わせる音が鳴り響くのと同時に、反乱軍メンバーや生体兵器達の首が落ち、胴体がいとも容易く分断されていく。その切り口は美しいまでに無駄が無く平坦であった。まるで菜切り包丁で絹漉し豆腐を切り分けるように眼前の敵を細切れにしていくのは、ショートカットの銀髪を棚引かせる女・零華。二枚刃の直刀を振るう彼女の動きは洗練されており、敵を素早く切り裂く様は猛禽か蟷螂を思わせる。速度に特化した強化人間である彼女ならではの動きと言えよう。
「ひっ、ば、化けも――ぐびゃらがッ!」
「くそったれィ、俺達の前でイチャつきやがってがばらべぎひっ!」
「死ねやこのイケメんごぼぶべっ!」
「ブチおカべぉろぐぶッ!」
零華の殺しぶりをその素早さや美しさ故に猛禽や蟷螂に例えるならば、亜塔のそれは鰐や熊に例えられよう。比較的細身にもかかわらず肉厚の大剣を軽々振り回す彼の戦い方は"大胆にして豪快"という男性的なものであり、動作こそ若干鈍重で大振りであったものの、それを補って余りあるリーチと破壊力は零華にとって分の悪いタウロークスやステルス・ビースト、更にはテラーギガスをも剣の三、四振りで殺しきれる程であった。
かくして解き放たれた二人の剣士は、己の爪牙たる刃を振るい眼前の敵達を悉く殺し尽くしていった。
―同時刻・管制塔―
「ふぅん……亜塔に零華、か。単に腕の立つ人間とばかり思っていたが、蓋を開けてみれば中々どうして……油断ならん連中のようじゃな」
「あァ、あの変態共が戦いの心得もクソもねぇようなそこいらの民間人を改造しただけの雑魚だって事を踏まえたとして、現場が現場だ。並の奴ならヘバった所で袋叩きにされたっておかしかねぇ」
暇潰し程度に夜間の管制塔へ現れた聖羅と犬丸は、晩酌ついでにモニターの向こうで繰り広げられる光景について適当に語らっていた。
「うむ、戦闘能力以前にそこが問題よな。あれだけ動き回っていながら疲れる様子を見せぬなとはどういうカラクリじゃろうな」
「マジでカラクリとかだったりしてな」
「阿呆抜かせぃ、お主仮にも犬じゃろが。初対面の奴が大体何物かくらい臭いで判別できようが」
「仮にもは余計だが、確かにあいつ等の臭いは血の通う奴らのそれだったな。だがだとしたら何故奴らは――「変わり種なんですよ」――!?」
突如として二人の背後に現れたのは、主にこの管制塔で作戦参加者達のサポートを行う事の多い桃李と羽辰であった。
「て、てめっ、いきなり後ろ来んなっ!」
『驚かせてしまってすみません。でもそれはお二人も同じ事でしょう?忘れ物を取りに来たらいきなり誰かが晩酌してるんですから』
「ふむ、それはすまんかったのう。して、あれらが変わり種というのはどういう事じゃ?」
「まぁ、話せば長くなりますがなるべく簡潔にご説明致しましょう」
素早い動作でスライドを準備した桃李は、目にも留まらぬ早業で、所謂学園モノに於けるステレオタイプの"女教師"然とした身なりへ姿を変える(とは言ってもズボンがタイトスカートに変わり、眼鏡・出席簿・指し棒が追加されただけだが)。
「そもそも彼ら――亜塔さんと零華さんの元居た次元では"天堂グループ"なる組織がさる奇妙な研究を進めていましてね」
「奇妙な実験?」
「はい。その実験というのは―正直『獣道-白ノ刹那-』をプレイ済みの方には説明するまでもない事柄なんですが」
「おいメタ発言自重しろ」
「―癌細胞の変異実験という奴でしてね。当初は"変異した先に何があるのか"ぐらいの手探り状態―だったかどうかはともかくとして、夢のある内容ですよね」
『入手した情報によれば、投薬から放射線まで、やれる事は何でも試したらしいですね』
「大方の事は分かったが……どうして癌細胞なんか使ったんだ?」
「確かにのう。健康な普通の細胞を変異させる実験ではいかんかったのか?」
『お二人とも、いい質問です。そもそも細胞にはヘイフリック限界というものがありまして、基本分裂回数にはいくらかの制限がかかっているわけです。つまるところ、これが老化の原因ですね』
「しかしながら癌細胞というものにはそのヘイフリック限界が存在しないんですよ。故に実験材料としては御誂え向きの素材なわけです」
『そしてこの癌細胞に度重なる変異が起こった結果生まれたものこそ"Red Krbes細胞"――即ち、かの二人に与えられた"力の源"なのです』
「特徴としては宿主の体組織を強化し回復能力を高め、肉体をより戦闘向きに作り変えます。まぁ副作用に感情が高ぶると目が赤く光ったり頭髪から色素が抜けたり原型をかけ離れた化け物になったりちょくちょく死んだりはしますが―「おい今死ぬって言わなかったか」―ともあれ運よく適合した者の戦闘能力は、ヒトながらにヒトを超えたものとなります。天堂グループはこれを強化人間と呼んだらしいですね」
「無視されやがったよ……まぁいいや……つまり奴らはそのレッド・クレブスとかいうもんの力で疲れ知らずの超人になってるわけだな」
「要約すれば理華の体へ流れる鬼の血と似たようなもんじゃな。ところで、そんな"くれいど"とかいう二人はなんでまたあそこまで化け物狩りに熱を上げとるんじゃ?よっぽどポイントを稼ぎたいにしても、些か不自然に感じるんじゃが」
「……そういや思い出した。理華の奴があいつ等にここの商品で欲しいもんは何か聞かれたって言ってたな」
「え、何それ、儂聞いてないんじゃけど。おい犬丸」
「悪ぃ、聞かれなかったもんでつい……それよりもだ、何であいつ等はそこまで狩りにこだわるんだ?」
『これまた二人揃ってNiceQuestionですねぇ。今学期は満点にしたいくらいですよ』
「満点って何じゃ満点って。それで、あの二人はどうしてそこまでポイントを欲しがっとるんじゃ?」
「はい、それは彼らの過去に大きく関わる事ですのでやはり『獣道-白ノ刹那-』をプレイして頂きたいんですが―「メタ発言自重せんかいや」―まぁ、口頭で説明するより先ずはこの画像を見せた方が早いですかね」
桃李がそう言うのと同時にスライドへ写し出された画像を目にした二人は驚愕の余り一瞬絶句するも、凡その"真相"についてはある程度予想がついていた。
ヒント:カップ焼き蕎麦現象