第二百九十四話 戦うゲスト様-アカクヒカル-
本編(http://mbf.to.cx/kemono_siro/)のダウンロードとプレイは済ませただろうな?
予備知識に不備はないよな?
今回召喚されたゲストの中でも屈指のスペシャルゲスト―その活躍をしっかり見届ける"覚悟"くらい、当然出来ているよな?
―前回より二日前の夜・CS社社長室―
「もしもし、こちら社長室」
『しゃ、社長っ!ハルツ社長!こちらクロコス反乱軍第14小隊の神河っ!応答願います!』
社長室で映画など見ていたハルツが取った電話の相手は、山地に派遣している"クロコス反乱軍"のメンバーであった。前回も少しばかり述べたと思うが、言わば"クロコス・サイエンス版のT.O.R.O.隊"とでも言うべきこの戦闘部隊は、その殆どがT.O.R.O.隊の丸写しかという程に似通っている(元々のコンセプトが"完全に模倣した上で尚上を行く"というものであるためこうなるのは当然なわけだが、そもそもそのコンセプトに行き着く辺りどうかしている)。
一応探せば異なる部分もあるにはあるが、それらは例えば"所属する組織"や"製造手法と技術"などといった内面的な点であり、ともすれば当然表面的に見て取れる特徴で二つの組織を区別する基準などは、あって部隊名くらいのものであることは言うまでもない。
「はいはい、ハルツだけども。どうしたの神河ちゃん。何かトラブル?」
『とっ、ととととっ、トラブルっていうかっ、劣勢っていうかっ、絶体絶命の危機っていうかっ、ともかくやばいんですっ!』
「え、あぁ」
『好みの子を引っ掛けに行ったラデン君は突然ロボットの腕に叩き潰されるし』
「あらー」
『カワイイ系の美少年狙った筈のトラドちゃんは息荒げた忍者に追い回されるし』
「はえー」
『普通に歩いてただけのモアーグ君ですらいきなり首がボォンって、吹っ飛んで……はぁ……社長、こんなんじゃもう作戦どころじゃないですよ。もうこの場で生き残れる気すらしないんで、自害していいでしょうか……』
「あぁー……早まっちゃ駄目よ神河ちゃん。命は大切にしないと」
『や、でも社長、私が改造に立候補した理由ってパチンコで作った借金返す為ですよ?そんな駄目人間死んだほうがマシじゃありません?』
「そんなの世の中幾らでも居るんだから気に病む事ないわよ。自分を駄目だと判ってるなら十分やり直せるんだし。とりあえず詳しく状況を聞きたいから、一度本社に戻ってきてくれない?」
『あぁ、はい。わかりましt――ぅぁぁぁあああ!』
「――ッ!?ど、どうしたの神河ちゃん!?」
『あ、へぁ、や、ぁあ~!もう駄目っ!奴ら、あぁ、殺されるぅぅぅ!』
「神河ちゃん!?落ち着きなさい!何があったの!?」
『は、ぁあ、ぇあ――しゃ、社ちょっ、ハルツ社長ぉぉぉ!ひ、あぁ、すみ――ません――私、戻れそうに、ないですぅっ!』
「戻れそうにないって、一体どういうこと!?」
『音だけ光って、風の敵を、目しか木々すら、赤く四つが、笛みたく近付いて、凪いで、鳴らして、みんなそれで、大変怖い、殺され――っひぃやぁぁあああッ!』
「混乱してるのは判るけどひとまず落ち着きなさい!一体何があったというの!?」
『は――しゃ――社長っ!敵です、敵撃です!木が無理矢理叩き折られ、風を切り裂くような音がするからわかるんです!皆奴らに殺されましたぁ!』
「やっぱり敵襲なのね……敵の特徴は?」
『暗くて見えません!何もかも!灯りも無くしちゃって目なんてあってないようなものですよぅ!ただ見えるモノと言えば――あひぇああぁぁぁああああ~~ッ!』
「何なの!?何が見えるっての!?」
『め、目です!他に光なんてないのに、月の光さえ差し込まない林の中なのに、奴らの目玉が、赤く光ってるんですっ!』
「目玉が、赤く光る?ねぇ神河ちゃん、それって――『ヒぐべブぼゴがァっ!』―か、神河ちゃん!?神河ちゃ――ッ!?」
必至に呼びかけるハルツの思いも虚しく、その断末魔を最後に神河との通信は途絶えてしまう。通信機が破壊されるような音がしたのが、何よりの確証であった。
「……はぁ……戦闘部隊は基本半ば死人出ること前提で運用されるものだけど、実際に有志が死ぬのはやっぱ辛いわね……まぁ、だからこそ頑張らなきゃならないんだけど……大丈夫よ、皆の死は絶対に無駄にしない……」
―同時刻・夜間の山中―
「これで何匹目だっけ……」
「数だけはかなり稼いだと思うが……待て、今確認する」
山中の湖畔にてそれぞれ切り株と大岩に腰掛けるのは、黒いスーツに身を包んだ黒髪の男と、これまた黒いSFチックな戦闘服を着込んだ銀髪の女であった。足下に転がる神河のそれと思しき死体から察するに、彼女を殺害したのもこの二人組で間違いないらしい。
銀髪の女に言われてタブレット型のインスタント・スコアボードを起動した黒髪の男は、素早い手つきで"総討伐数"のウインドウを開き、内容を読み上げる。
「二本脚で歩き回る豚十頭とバカでかい蜘蛛八匹、エリマキトカゲ十二匹にネズミの化け物十五匹……」
「ゾンビとこのイカみたいな奴は?」
そう言って女が脚で指し示したのは、全長1.2m程もある巨大なチョッカクガイらしき生物―もとい、クロコス・サイエンスの産み出した水陸両用型生体兵器・イカヅチカラダコの死体であった。この生物はその名の通り太い12本の触手にシビレエイ相当の電圧(凡そ8~220ボルト程度)を誇る発電器官を備えた殻のある頭足類であり、下手に組み付かれれば即死すらあり得るなど中々に厄介な代物であった。
「ゾンビは三十だがカウントせず、中身の白い虫78匹をサイズ毎に分けて換算するらしい。殻の付いたイカは八匹だそうだ」
「あら、意外に少ないのね」
「途中で逃げられたりもしたからな――よし、続きが出た。角の生えた豚と透明になる奴がそれぞれ三頭、毛深い巨人が一、気色悪い黒い化け物が六、その中身はカウントしないそうだ」
「まぁ、あんなの倒した内に入らないわよね」
女が"倒した内に入らない"と評する"中身"とはつまるところ、テラーギガスの生殖細胞―厳密に言うなら、身体を離れて動き回る量産可能な生殖器―であった。詳しい説明は後の機会に譲るが、本体より放出されたこれらはその一つ一つが独立した生物のように振る舞い、生殖を敢行するのである。
「まぁ、そういうことだ。それと、さっき倒した"反乱軍"とかいう奴らがこいつを含めて四人と来た。俺としては中々の好成績なんじゃないかと思うわけだがお前はどう思う、零華よ」
「私も同意見よ、亜塔。このペースならあの子へのプレゼントにも間に合いそうだし」
零華と呼ばれた銀髪の女は、亜塔なる黒髪の男へ微笑みながらそう答えた。
「そうか……うん、そうだな。まだ目標の半分にもなってないが、踏ん張れば何とかなりそうだ」
すっくと立ち上がった亜塔は背負った鞘から愛用の大剣を抜き、水平に向けた分厚い剣の切っ先を見据える。続く形で零華も亜塔と背中合わせになる形で立ち上がり、腰に差した刀を抜き身構える。
「……気付いたか、零華」
「えぇ、勿論。この程度の殺気にも気付けないようじゃあ、強化人間の名が泣くわ……」
「フッ、違いない……そういうわけだ。隠れても無駄だって事は理解出来たよな?理解するだけの頭があるんなら、さっさと姿を現すといい……」
「さもないと、反乱軍気取りの切り身と怪物のミンチが出来上がる事になるわよ……」
挑発めいた言葉に応じるように、殺気ダダ漏れのまま周囲に隠れ潜んでいた反乱軍メンバーや生体兵器が姿を現した。
「生意気ね……あの程度の雑魚を倒したぐらいで調子に乗っちゃって……」
「思い知らせてやるしかねぇよなぁ、てめー等のカラダへ直によゥ……」
「フィギギギ、ギギ!ギフィフィフィッ!(あんたは、搾精刑ッ!覚悟しな!)」
「ヂィチチヂゥ……ヂチウヂウヂヂチウジゥ……(アバズレがァ……死ぬまで輪姦してヤるよォ……)」
その数、ゆうに300以上。どこに隠れていたのかと問い詰めたくなるほどの兵力が、二人を取り囲む。
しかし男女はそれでも尚一切臆することなく身構え、そして感情の高ぶった二人の目が、遂に赤く光る。
その光こそは、言わば敵にとってしてみれば"死のサイン"―――強化人間の猛攻は、開始されるのである。
次回、赤く光る目に隠された真実とは!?