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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
293/450

第二百九十三話 戦うゲスト様-彼こそまさに"(名前さえも)苦痛"-





T.O.R.O.隊の正体とは!?

―前回より・洞窟内―


「……くッ……放せ、この売女めが……」

「んふふふふ……そんな言っちゃってまぁ、素直じゃないんだからぁ……」

「……!……!!」

「あァ、ハぅん、いイ、実にイいなァこれッ!僕のナカから出ようと暴れ回って……満ちの喜びってこういうのを言うンだネぇ……」


 突如として洞窟内へ現れた学園側の"援軍"による襲撃を受けたグリスとエリニムは、まさに絶体絶命の危機と呼ぶに相応しい状況にあった。


 先ずグリスを追い詰めていたのは、岩石の大地をも内側から突き破って生えてきた―それこそ成人男性をも丸呑みにできそうなほどに―巨大なハエトリソウの内部より死人のように白い肌をした妖艶な女の半身が如し中枢部を現した植物亜人アルラウネらしき生命体。詳しくは後述するが極めて淫乱な痴女であるこの生命体は、どうやらグリスを蔓等で拘束・性的に誘惑しているらしかった。

 無論、元騎士であり生真面目で堅物(言わば現代語でいう硬派)な彼がそんな阿婆擦れ植物の安っぽい誘惑に屈する訳はなく、寧ろ心底忌まわしく思っているのは言うまでもない。今にも抜け出したい彼なのではあるが、植物体の至る所から生じた細長い蔓の力は(外見の割に繊細であるとされるハエトリソウの、しかも本来の同種には備わっていない代物であるにも関わらず)凄まじく、平均的なホモ・サピエンスの腕力では文字通り"手も足も出ない"程の拘束力を誇っていた。


 ただ、そんなグリスの置かれている状況もまともに呼吸が可能な分同行者の少女よりはマシなのかもしれない。と言うのもエリニムは、ハエトリソウ女とほぼ同じタイミングで現れた魔術師らしき尖耳種の女装男(紫色の肌に麻薬中毒者のような顔つきだが、それでも女と見まごう程に整った顔立ちをしている)の奇襲攻撃を受けてしまったのだが――事も有ろうに彼女は現在、しゃぶられていた(・・・・・・・・)

「(っぐ、息が……てか……気持ち悪……っ……ぅ……)」

 エリニムの華奢な上半身をゆっくり味わうようにしゃぶる・・・・のは、女装男の腕と服の袖がそのまま変化したような、刺胞動物とも軟体動物ともつかない触手の塊らしき化け物であった。男の魔術によって召喚・生成されたその化け物は、エリニムをギリギリ窒息死させない程度に彼女の上半身を包み込んでおり、男の陰湿な性格が見て取れる。


 察しのいい読者諸君ならばもう感付いているかと思うが、グリスとエリニムを襲うこの変態二人組こそ中央スカサリ学園が不利な戦況を覆すべく解き放った"T.O.R.O.隊"に属する隊士達である。その実態は白い胎児に死人の魂を写し込む事によってヒト相応の形態と知性を持たせた生体兵器なのであるが、形態が霊長種寄りになってしまう以上身体能力の低下などは免れない。当時の設計者達はその点を魔術や武装で補おうとしたが、それら技能には個体差がある事が何よりのネックとなった。

 そこで計画の主導者であったコーノンの祖母は"個体差のない要素"として"性欲"に目を付け、異性相手の繁殖を主目的とした猥褻行為の能力を重点的に強化する事で身体能力の無さという欠点をカバーしようと考えた。そこで参考にすべく学園内へ連れ込まれたのが、組織壊滅に伴い大陸外逃亡を余儀なくされたクブス一派の残党であった。

 特別待遇で持て成され秘術についてのあらゆる知識を学園側に授けた残党達は最終的に生体兵器の素材になる形でT.O.R.O.隊の結成に大きく貢献した。だがその力は常軌を逸して凄まじく、結果として学園側は長きに渡り彼らを封印せざるを得なかった(因みにこれは物凄く余談だが、密偵を通じてこの情報を得たクロコス・サイエンスも似たような部隊を造り上げており、こちらは社会に反感を抱く者達を素体とした改造人間から成る為か"クロコス反乱軍"と名付けられている)。


「さアて、そロソろ全身を頂くとしようかッ!そシて彼女を味わッた後は彼女のナカに―」

 女装男の卑猥な言葉に合わせてその右腕がエリニムを完全に飲み込もうとした、次の瞬間。

「―ェ゛ゥ゛ッ!?」

 女装男の背中から吹き出る、大量の血液。それは鋭利で大振りな刃物によるものであり、どういうわけか一度に複数の刃物で斬り付けられているかのような出血であった。

「ォ゛ァ゛ッ―――っガ、ア゛――は、ア、な、ッが、あア゛……」

「ひっ、ど、ドナリーっ!?」

 女装男・ドナリーの右腕が本体の負傷に伴い力を失い、飲み込まれていたエリニムが解放される。ハエトリソウ女は酷く動揺しているらしかったが、それでもグリスを縛る蔓は緩まない。

「ッ、が……な、何なんだ、一た―「大丈夫ですかァ?」―!?」」

 刹那、背中の激痛に苦しみ悶えていたドナリーと、彼の身を案じ慌てていたハエトリソウ女は思わず言葉を失った。突然見知らぬ何者かに声をかけられたからではない―否、それも理由ではあるのだが、それ以上の理由は眼前に現れた見知ら何者かの容貌にあった(そして解放されたエリニムと未だ拘束されているグリスにとってその"何者か"は最早驚くまでもない程に見慣れたものでもあった)。


 身長約1.8m、平均より少し細めの体躯へ密着するように着込まれた衣類は、併用されるブーツや肩当等から推測して戦闘もしくは軍事用と思われた。両手は金属製の篭手で武装され、指と二の腕からは肉食獣や繁殖期に於けるミシシッピアカミミガメの爪を思わせる、これまた金属製の刃が備わっている。その内二本に血がついている点から察するにドナリーを斬ったのはこいつで間違いあるまい。

 しかし問題なのはその顔である。緑色の奇抜な布製覆面と言えばそれまでなのだが、図柄三つと閉じられた目出しファスナーで構成されたその顔は、まるで内部に神経や筋肉でもあるかのように動いていたのである。覆面を被って行動する者ならば別段奇妙なことはないが、事もあろうにそれが生物の顔面として機能するなどまるで前例のない事である。

「いやぁ、すみませんねぇ。いきなり挨拶もせずに後ろから切り掛かったりして……そのがあまりにま苦しそうでしたので、少々大胆に行かせて貰いました」

 覆面男の軽々しい言葉と態度は、二人を驚愕・激怒させるに十分過ぎた。

「な……何が、大胆だっ!謝って済む話じゃあ……なイだ、ろうガッ……!」

「そうよそうよ!謝ったぐらいで済むなら刑法なんていらないわよっ!っていうか、あんた一体何様のつもりよ!?」

「あァ、これは失礼を。申し遅れました、私めは『クアル・ハイル』の構成員――名乗る程の者でもありませんが、どうぞ気軽に『シュメルツ』とでもお呼び頂ければ」

「名前なんてどうでもいいわ!っていうか何よ、クアル・ハイルって!まさかクロコス・サイエンスの関連団体とかじゃないでしょうね!?」

「クロコス・サイエンス?はて、何の事でしょう。我らクアル・ハイルはあくまで独立した組織であり――」


 謎の覆面男・シュメルツは、クアル・ハイルについてのあれこれを二人に語って聞かせた。


「……痛みで人類救済ねぇ……」

「はい。先程そちらの方に切り掛からせて頂いたのも、貧しく荒んだ心に救済が必要であると考えたが為でして――「ハん、くだらない!」

 ハエトリソウ女は、心底不愉快といった調子で吐き捨てた。

「……くだらない、でしょうか」

「えぇ、本ッッ当にくだらないわッ!あんたの主張はコウモリのクソにも劣る妄言だわッ!何が『痛みで愛を満たす』よッ!そんなもので世界が救えるわけないでしょ!」

「その、通りだッ!――痛み、如きに……ヒトは救えん!ヒトを、救うは――肉の悦び!性のもたらす快楽こそ……ヒトに愛を――ヴごゥェぁっ!」

 負傷して尚クアル・ハイルの考えを否定しにかかったドナリーの喉元をシュメルツの右人差し指(に備わった刃)が一閃し、その首を落とす。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!ドナリィィィィィィィィ!」

 地に伏し絶叫するハエトリソウ女を見下ろし、シュメルツは淡々と言葉を紡ぐ。

「……それが、あなた方の答えですか……」

「このヒトデナシ!よくもドナリーをっ!」

「それはこちらのセリフですよ。よくも我が同士を誑かしてくれたものだ……あなた方に救済の余地はない……」

 身構えるシュメルツに対し、ハエトリソウ女もまた立ち上がり挑発する。

「はッ、あんたみたいな変態覆面如きが何を言おうがどうって事はないのよ!どうせ私も殺すつもりなんでしょう?ドナリーのように!」

 ハエトリソウ女の口ぶりは、完全にシュメルツを愚弄するものであった。

「でも残念ね!私の手元にはあんたの仲間であるこいつがいる!少しでも下手な動きをしようものなら、こいつの命はないわ!それと、あそこで上の空になってるガキもついでに殺してやる!」

「っ……売、女……めが……ドロ・・――っ、シュメルツ殿ッ、このような愚物の言葉に耳を傾けてはなりません!私を巻き込む覚悟で、クアル・ハイルの教えを愚弄せしこの女に神罰を――ぐぉぇぁあああっ!」

 締め付けられるグリスの体、調子に乗るハエトリソウ女、未だ微動だにしないシュメルツ、解放されたばかりで気が動転してしまい上の空のエリニム。状況は俗にいう泥仕合に近いものへと突入した。


 そして二分後。興奮しきって精神の摩耗したハエトリソウ女が、精神異常者のような声で"グリスとエリニムを締め殺す"と宣言しようとした、その時。


「こいつらを、殺してや―――ッァ……」


 突如、あれだけ息巻いていたハエトリソウ女の勢いが急激に弱まり始めた。見ればその全身には、何やら白い粉末が振り撒かれている。


「こ……れ……は……――「除草剤だぜ」―!?」


 そう言いつつ背後から現れたのは、竜脚類の鎧を身に纏う少年・風間大士。掲げる武器は機関銃でもスレッジハンマーでもなく、竜脚類の全体をモチーフにしたであろう火炎放射器らしき代物である。


「俺は詳しくねぇが、ハエトリグサって案外デリケートらしいよなぁ。熱さも寒さも駄目、食虫植物だがアリ食っても蟻酸でダメージ受けるっつーし……まして除草剤なんざ喰らやぁ、当然死ぬよな?」

「貴様……風間大士とか言う奴、何故ここにッ!?」

 力無くしおれた蔓から抜け出ながら、グリスは問い掛ける。しかし問われた少年の答えは案外素っ気なく、

「説明は後だ。それより早く逃げな。除草剤とは言えその化け物を殺せるブツだ、安全とは言えん。そこの面白い顔したアンタもだ。何処の誰かは知らねーが、そいつに止めでも刺したら早く戻る事だな。エリニムは俺が連れ帰っからよ。清水さん曰く妙な奴らが動き出したらしい。翌朝にゃ臨時説明会を開くそうだぜ」

「御忠告感謝します、風間少年」

「へッ、大士でいいぜ。仰々しい呼び方は止してくんな、総裁殿・・・


 鎧姿のまま未だ上の空のエリニムを抱えた大士は、思わせ振りに洞窟内を後にした。


「……ふん、"何処の誰かは知らないが"とは言ってくれるが、別れ際の一言で気付いていた事がバレバレじゃあないか……」

 地に伏す瀕死のハエトリソウ女を踏み付けたシュメルツは、苦笑しつつ静かにその風変わりな覆面を取り払う。

「だが面白いな。仮想空間だと認識しているとは言え、ただの民間人がこうまで順応するとは……実に興味深い……」


 さらけ出されたシュメルツの素顔――それは他の誰でもない。クアル・ハイル創設者、ドロール・ゲヴァロシアそのヒトだったのである(詳しくは本日更新予定の解説にて)。

次回、(作者個人としては)今回召喚された中でも屈指のビッグゲストが登場!

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