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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
289/450

第二百八十九話 戦うゲスト様-刑事二人、夏の夜に氷塊見る:前編-

 夜。日の入りから翌日の日の出までの、多くの生物にとっての節目となる時間帯。

 陽光届かぬ大地の空は暗闇に支配され、昼勤の労働者や多くの学生は帰宅し、仮眠を終えた夜勤の労働者は出勤し、葉緑体による光合成という栄養生成の手段を失った植物はガス交換に専念するようになり、昼行性の生物は休息に入り、夜行性の生物は活動を開始する。

 そんな夜はまた、善からぬコトを企む者共や妖怪変化物の怪悪霊などといった"邪悪"や"闇の住民"達も総じて活発になる時間帯である。


戸国井美梨トクニイミナシ又尺賀延多三マタシャクガノビタゾウによる共著『闇の時間がもたらすもの』冒頭部より抜粋

―前回より・夜間の山中―


「ねぇ真壁君ッ!」

「何です高宮さん」

「今私達が置かれてる状況って、もしか、ひょっとしなくても、危機的状況って奴じゃない!?」

「そりゃそうでしょうねぇ。もし仮にこれを羨ましいと言う奴が居たなら俺はそいつにこの真壁容赦せんッってなもんです」


 山中の獣道を進む、一台の乗用車。法定速度を無視した猛スピードで森林の木々を掻き分け進むそれの運転手は、未だ未確認超存在についての捜査を続けている刑事コンビの片割れことヤモリ系有鱗種の男・真壁。助手席に座る豹系禽獣種の女・高宮共々(元々盗人等をしょっ引くのが仕事であったにも関わらず)捜査に慣れ過ぎた・・・・・二人は、何時の間にやらそれをゲーム感覚で楽しむようになっていた。

 現在山中の悪路を半ば無理矢理に乗用車で突き進んでいるのもそういった"ゲーム感覚の調査"の一環であり、曖昧な目撃情報から生体兵器を追って乗用車のまま山へ突っ込んだことがそもそもの発端であった。


「まるで意味がわからないけど、何だか判ったような気がしたわ!」

「そうですか。じゃあしっかり掴まってて下さいね、あの化け物無駄に素早いんでこのままじゃクシャっとられそうだ」


 跳ね回りながら猛スピードで突き進む乗用車を追い回すのは、クロコス・サイエンスの狂気を象徴するかのような得体の知れない化け物・テラーギガス。『攪拌された溶液の中へ薬品を数滴垂らして凝固させる』という荒唐無稽な手法によって産み出されるこの化け物の姿は多種多様であり、共通するのは"節足動物の骨組みを持った毛のない哺乳類のような黒い化け物"ということのみである。

 現に今現在車を追い回している個体は細長い腕で樹上を素早く駆け回る単眼ザトウムシのような姿をしており、二百八十五話でリューラやバシロと交戦していた個体とは似ても似つかない。


「フギィィィィ!」

「ねぇ真壁君!あの怪物心なしかペースアップしてる気がするんだけど気のせいかしら!?」

「気のせいじゃないですね。このまま走ってたら追い付かれて俺ら即死ですよ」

「ファッ!?冷静なのは助かるけど何でそういうことさらっと言えちゃうわけ!?」

「大丈夫ですよ高宮さん。こんな事も有ろうかと車検帰りに行きつけの車屋で中古の飛行ユニット取り付けましたから。それで飛んで逃げます」

「えっ、中古ってなにそれ怖い」

「タイヤがそのまま浮遊ローターになる新しめの型ですよ。いや本当、ワレザーや転売屋からせしめた賄賂をコツコツ貯めてた甲斐があったってもんですよ」

「いやでも中古ってあんた―「それで、確か燃費もいいんですよ。さぁ、見てて下さい。素早くフワーっと浮いてみせますからね。フワーっと―――あれ」

「いやだから話を―――って、どうしたの真壁君?」

「……高宮さん。俺ね、改めて思ったんですよ」

「……何?」


「『やっぱり舗装路用の車両は舗装路以外走っちゃいけない』って、凄く今更ですけど」

「本ッッ当今更ね」


 真壁と付き合いの長い高宮は、その言葉が『衝撃で飛行ユニットが故障したので脱出しましょう』という意味なのだと即座に理解。真壁共々車外へと脱出するに至り、一方運転手を失った車の方はと言えばあちこちにぶつかりながら横転し遂に動かなくなってしまった。

 二人は咄嗟に隠れようとしたが、テラーギガスの鋭い五感はそれをも許さない。更に巨体に見合わぬ甲高い鳴き声が他のテラーギガス(当然ながら、姿形や大きさはどれもバラバラ)をも呼び寄せてしまい、二人は瞬く間に取り囲まれてしまった。


「あぁ、やべぇ……」

「……こういうのを"お約束"っていうのかしらね」

「言ってる場合ですか高宮さん。っていうかさっきまでの慌てようは何処行ったんです」

「けいむ市通ってもんじゃストリートまで行ったわね」

「何処ですかそれ……」

「一周して冷静になったってことよ」

「意味わかりませんよ。つーか、付き合い長い部下が殺されそうだって時に言う台詞がそれとか酷くありません?」

「普通に殺されるならまだマシじゃない。私なんてこのあと捕まったら最後、死ぬことも許されずこいつらに乱暴され続けんのよ。異種姦ADVみたいに」

「そこはエロ同人じゃないですかね。つーか三十路過ぎの中堅敏腕女刑事が何で異種姦ADVとか妙にマニアックでアングラな単語知ってるんですか」

「お上の年寄りが犯罪助長とか犯罪者予備軍量産とか何とか騒ぎ立てるから、仕事の合間縫って幾つかやってみたのよ」

「やったんですか!?仕事の合間縫って!?」

「そうよ。絵が綺麗だし、お話も気になったから。あと警察官だし、近頃の若者文化に触れる意味合いでもね」

「若者文化って……まぁ、間違っちゃいませんが……因みにどんなのをやったんです?」

「最初にやったのは『Anti-St』っていう純愛ものよ」

「あぁ、有名な奴ですね。移植版やったことありますよ。確か終身刑喰らった元修道女の殺人鬼と律儀な法廷画家のラブロマンスでしたっけ?」

「そうそう。作画担当が隅っこに冗談で描いた適当な絵がそのままヒロインに採用されて大ヒットしたっていうアレよ」

「名作ですよねー。アニメもドラマも大ヒットしましたし―――って何で俺らこんな危機的状況で暢気にエロゲの話してるんですか!?常識的に考えてオカシイでしょうが!」

「そうよ!何で私達こんな危機的状況で暢気にエロゲの話してるのよ!?常識的に考えてオカシイじゃないの!」

「つうかそれ以前にこんだけ目立っていながら化け物が襲って来ないんですけど……って、ん?」

 ふと自分達を取り囲むテラーギガスの群れに幽かな違和感を感じた真壁は、地面に落ちていた比較的大きな木切れや石を拾い群れの内でも比較的小柄な個体に近寄っていく。

「ちょ、真壁君、何やってんの!?」

「反応を確かめるんですよ。幾ら忍耐強くても、突かれたり石ぶつけられりゃ反応せざるをえんでしょ」

「そ、それはそうだけど――「第一今の俺らは何時死んだっておかしくない。こうやって生きてるなんてどう考えても異常なんですよ。なら死ぬ前にやれるだけやんなくてどうするんですか――フンッ!」

 真壁は自分達の存在に気付きさえしていないかのように振る舞うテラーギガスの細長い脚を、太めの木切れで力強く打ち払うが―――


「「へ?」」


 打撃を受けた毛のない痩せこけた手長猿のような前脚の一本が、まるで氷柱ツララのようにへし折られる。更に支えを失った事でバランスを崩し傾いた怪物はそのまま倒れ、まるで棚から落ちた陶磁器のように粉々に砕け散ってしまった。


「これは……どういう事?」

「俺に聞かないで下さいよ。俺だって何があったんだか判んね――「そこなお二人、お怪我はありませんか?」――!?」」


 真壁の声を遮る、若い女の声。二人がその声のする方へ目を遣れば、張り出した太い枝の上に、扇情的(かつ古風でファンタジック)な身なりの女が佇んでいるのが目に入った。適当に『あぁはい、大丈夫です』『これでも鍛えてますので』等と答えた二人は、女に聞こえない程度の小声であの女が何者なのかと話し始める。


「一体何者なのかしらねぇ、えらく美人だけど……新手の"れいやあ"っていう人達かしら?」

「見たところ霊長種か尖耳種って所でしょうが、こんな夜中の山奥にレイヤーとか聞いたことありませんよ。っていうか何でそんな言葉知ってるんですか」

「若者文化への理解を深めたかったのよ。それにしてもいい太股だわぁ、照り焼きにしたら美味しそうよね……」

「俺なら冷しゃぶにして白菜と一緒にゴマだれつけて食いたいですね――って何肉食動物の本能爆発させてんですかッ、俺まで釣られて冷しゃぶとか言っちゃったじゃあ――「よッ」―どぅぇあぃ!?」

 扇情的な身なりの女は無駄のない動きで樹上から飛び降り、高宮と真壁の眼前にフワリと降り立つ。同時に(どういう原理かは不明だが)女の服装が露出度を控えた気品溢れる貴族か魔術師の装束を簡略化したようなものへと置き換わり、薄紅がかった荒々しい白髪は高貴な黒に、攻撃的な深紅の瞳は穏やかな水色に変色。顔つきも穏やかなものへと変化し、オマケに何処から取り出したのか黒縁の逆ナイロールフレームの眼鏡まで掛けている。

「それは良う御座いました。ご無事で何よりですわ」

「あぁ、いえ、此方こそ助けて頂いて有り難う御座います」

「んぁあ、っと、そうだ……申し遅れましたが、俺らァこういうモンでして」

「未確認超存在襲撃事件捜査本部の高宮と真壁です。初めまして」

「あら、警察の方でしたの?しかも未確認超存在を追っている方とは……お初にお目に掛かります、エルマ・ヴァイン・デラクリアと申します。以後宜しく」

出会っちゃいました~ッッッ!ゲスト解説は次回更新時にッ!

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