第二百八十五話 戦うゲスト様-巨獣進撃-
拠点付近を襲撃する生体兵器の群れ!
―前々回より・山中の"扉"付近―
「うぉるぁああああああああ!くたばれクソッタレェェェェェェェ!!」
「ウゴォォォォォォ!ゴガァァァッァァ!」
「おっ死ねバケモノがぁぁぁぁぁぁぁ!」
「フギギギギギギギギギィ!」
クロコス・サイエンス襲撃班の拠点と常世を繋ぐ"扉"付近にて勃発した激戦の規模は、他の面々より明らかに大きく激しいものになっていた。と言うのも、襲ってきた生体兵器が軒並み巨大なものばかりなのである。
例えば前々回に理華達を襲撃した"姿無き巨獣"そのものである"ステルス・ビースト"。擬態能力を有した巨大なアリクイと言えばそれまでだが、問題なのは恐らく大型肉食恐竜に相当するであろうその大きさと怪力である。嘗て"申し訳程度な威嚇の構え"であった直立姿勢は最早威嚇の域を逸してその巨体をありありと見せつけ、蟻塚を砕くのに用いられていた鉤状の爪は山中の木々を薙ぎ払い腐葉土の地面を削り取る。歯も顎もない管状の口から放たれる細長い舌は鞭のように振るわれ、爪共々実質的な刃物と化す。
続く巨獣の代表格は、これまた前々回に理華達を襲撃した"タウロークス・ブーリン"の上位種である"タウロークス・ハンマ"であろう。新たに付与された水牛の形質はその頭部に武器としても使用可能な角をもたらし、前身の二回り以上もある巨体を更に恐るべきものとして際立てている。大柄な割に動作が機敏であるのも余計に達が悪い。
その場に僅か一頭のみながら圧倒的存在感と戦闘能力により場を荒らすのは、"全身を水色の体毛で覆われた巨人"という表現の似合う"オリバー・クラッカー"であろう。不正に走った警備員を改造し作り出されたこの巨人は、ステルス・ビーストのような特殊能力もなければタウロークス・ハンマのように機敏なわけでもないが、一応は同胞であろう生体兵器をも巻き添えにした力任せの攻撃は、最早天災と呼ぶに等しいものがある。
「ンなろゥ、クソッタレィ!豚の癖に素早く動き回りやがって!プロレスラーにでもなったつもりかよッ!」
「いやぁ、どっちかと言えばボクサーじゃろ。あとありゃ豚ではなく猪じゃな」
「どっちも根本は同じじゃねぇか――ィよッ!てォら、死ねやボケェ!」
「ブギゴァァァァァァァァッ!」
自身より大柄なタウロークス・ハンマを口汚く罵り正面から大太刀で斬り殺すのは、マッシヴな体格と灰白色や漆黒の荒々しい毛並みが特徴的な狼系禽獣種の大男――ではなく、高い霊格と強大な力を併せ持つ日本妖怪"犬神"が一匹・犬神犬丸である。
対鬼人特殊部隊桃太郎組に所属する小柄な犬神使い・綾乃部聖羅の擁する配下が一である彼は古来より綾乃部家と密接な関わりにあり、言わば聖羅の忠臣にして良き隣人とでも呼ぶべき存在であった。
「ぬぅぁぁっ!ボディ・スラムッ!」
「ゴゥォアァァァァァァ!グッ、ボゴァァァァ!」
「まだ踏ん張るかッ――ラリアットォ!」
「ボグゲェッ!ガふッ、ゴガァァァァ!」
念のためにとクロコス・サイエンス襲撃班に五つほど貸与されていた『列王の輪』の形態が一つ『ソレンネ・パッツィーア』に乗り込みオリバー・クラッカーをプロレス技で叩きのめすのは、対鬼人特殊部隊桃太郎組の司令塔を勤める巨漢の中年・五十嵐高雄。プロレスラーとして名を馳せた肉体派とはいえ人知を超えた存在には無力な彼を、それでも香織は"管制塔からのバックアップに最適"との理由で呼び寄せた。しかし彼女の真なる狙いとは、言わば"人間版ヘルクル"である彼にソレンネ・パッツィーアを貸与し乗り回させることにあった。
と言うのも、以前より香織はソレンネ・パッツィーアの動作を妙にぎこちなく感じており、熟考の末にその原因が自分の性格や戦闘様式にあるのではという仮説に至る。そしてそこから更に考えを煮詰めた結果"重量級の格闘家等に特殊な方式の元で操縦を行わせればスムーズな動きが可能になるのではないか"という仮説を打ち立て、仮説実証の為実験の遂行に打って出たのである。
「しぶとい奴め――アルゼンチン・バックブリーカーッ!」
「ブゴガゲォェァッ!」
実際その仮説は正しかったのかと問われれば、答えは当然ながら"是"であろう。格闘家の意のままに擬似的な肉体として操られる大型ロボットは比類無き力を誇る毛深い巨人を悉く叩きのめし、遂に絶命へと追い込んだのである。
◆◇◆◇◆◇◆
「フぅ、スっゲぇなァ!マジでブッ殺しちまいやがった!ガチで惚れそうだぜッ!」
「やめとけありゃ既婚者だ。後先考えずに手ェ出すと死ぬぞ」
「わァってらァ。こちとら既婚者に手ェ出すほど落ちぶれちゃいねぇ――「フギィィィィィィ!」―とぅをッ!?ッブねぇなンの野郎、話に割り込んで来んじゃねえやィ!」
話し込むリューラを細長い腕で叩き潰そうとしたのは、"ムカデとエビの中間的が如し生物(或いは古代の甲殻類デボノヘキサポドゥス)の外骨格や節足、複眼等を毛のない黒い哺乳類の皮膚や腕、眼球に置き換えたような巨獣"という、書いている作者でも何がなにやら解らなくなってくる(要するに文章では余りにも形容しがたい)グロテスクな姿をした大型生体兵器"テラーギガス"である。
取り分け意味不明な姿をしたこの生体兵器は"コンピュータ制御により製造の全行程を一度に行うことで生体兵器の高速生産が可能なのでは"との荒唐無稽な考えで作られた装置が産み出した唯一の成功例であったりする。そう聞くと如何にも不完全な生物であるかのように思われようが、しかしその実はクロコス・サイエンスの擁する生体兵器の中でもかなり凶悪な部類に入り、とても不完全とは言い切れない。
更に言えばこのテラーギガスの生態に於いてこと奇妙であるのはその繁殖行動なのであるが――説明文が長引いてもアレなのでそれについての詳しい解説はまたの機会とさせて頂く。
―前回後書きより―
スズメバチの象徴を持つ第四のヴァーミンこと"ヴァーミンズ・チェトィリエ ワスプ"。こう聞くと多くの方は毒針に関係する能力なのだろうと思われるかもしれないし、実際毒針の要素も含まれてはいる―――が、それらはあくまで付属品程度のものに過ぎない。
ワスプという能力の本質は『有機生命体を粘土化させ武器に作り替える』というもの。能力そのものが直接的な攻撃作用を持たないという意味に於いては極めて異質な能力と言えるが、当然ながら戦闘向きの保守的な能力というわけでもなく、寧ろこの能力は(産み出した武器の種類や保有者の腕力・技術次第だが)ワスプの司る『暴力』の罪を体現するかのような比類無き火力を誇る。また、リーチ同様逐一原材料を確保・消費せねばならないというデメリットこそあるものの、破殻化・爆生時の純然たる戦闘能力(取り分け耐久力)は断然此方の方が上であり、シーズン3で鳴頃野神子音が辿ったような間抜けな末路とは先ず無縁と言えた(だからといってどちらが優れていると明確に断言出来るものでもないが)。
「一振りッ!二振りッ!次いでの三振りッ!四振り目鉈ッ―――からの、セイアッ!」
新たに作り出された肉厚幅広の大鉈二刀流を交互に振り回したランゴは、その四回目で側にあった大樹を刈り繁目掛けて蹴り倒す。
「ゥえィッ!ほゥッ!シょゥッ!―――っと、やべぇ――なッ!ッエイァ!しゃオッ!」
繁はそれらの攻撃を間一髪の所で回避(爪牙虫で弱体化させようにも狙いが定まらない)。ランゴにより蹴り倒されてきた大樹を細密な溶解液でバラバラにすると、重力のままに落下するそれらを素早くランゴやオップスへ蹴飛ばし返す。
「――ッ、何ィ!?」
「ほう、上手く返してくるじゃあない――かッ!」
飛んできた木片はオップスの障壁やランゴの鉈によって悉く受け止められてしまうが、不意を突かれた二人はそれなりに混乱しているらしかった。
「ふむ……正直驚いたよ、保有者になってから一年と待たずにそこまで使いこなせている有資格者が居ようとはねぇ。欲を司る四つならさほど珍しいことでも無いが、罪を司る六つにそこまで馴染むのが早いとは驚きだよ」
「ふん……言っちゃ悪いが当人にゃそんな自覚なんざ殆ど無いに等しいんだよなぁ、これが」
「まぁ順応や発展は個人差ありきだものねぇ。素養の差や種族の差以外にも、内包する罪もしくは欲の強さにだって影響されるものだから。例えば僕の『暴力』なんてのは、軍人としての僕を見た周囲からの主観的な評価や解釈に基づくものだから」
「そうなのか。だが妙だな、アサシンバグの罪と言やぁ『嗜虐』だが、俺ってそんなに他人から恐れられてたっけ?」
「(……お前自身が途轍もなく嗜虐的なんだろうが、気付けッ!)」
内心突っ込みたくて堪らないオップスであった。