第二百八十四話 戦うゲスト様-予想外の才覚-
再び湖での戦い!
―前々回より・広大な湖の浅瀬―
「バォッ!ファバォッ!(急げぇ!奴らを止めろぉ!)」
「ボボフォ!フボバォ!(くそぅ、生意気な陸生動物めぇ!)」
「フボバー!(※悲鳴)」
「ビョォォォォォ!フォブロボボォ!(ぬぉおおおおおお!弟の敵ィィィィ!)」
多可聡子や風間大士とその仲間達が忠臣となって繰り広げられている広大な湖での戦いは、その区域の主である半魚人のような姿の"サルミヌス・クストディ"を交え激化の一途を辿っていた。
このクストディという生体兵器は他の生体兵器同様根源とエリスロとの間に産まれた白い胎児が育ったものなのだが、その中でも例外的に高い知能を誇り、独自の言語体系を持ち他の水棲生体兵器を指揮・統率・飼育したりもする。その知能故か学園関係者より、樹海に点在する水圏でしか育たない"ネルンボ・スカザーリア"という水棲植物型生体兵器(及び水圏)の管理を任されており、スカザーリアが蓮のような形態である事から"蓮守"の名で呼ばれることもある。
「あーらら、次から次へと懲りずに出て来ちゃってまぁ」
【きっとオレ等に何か見せてぇのさ】
【見せたいって、何を見せたがってるの?】
【多分オーディションだろうなァ、一作一場面きりだが確かな斬られ役のよッ!】
そんな蓮守を相手取って華麗に戦うのは、風間大士の仲間であり幼馴染みでもある少女・榊原結花。多頭の蛇・ハイドラが如し西洋風の鎧を身に纏う彼女の武器は"籠手の指先とほぼ同化したに等しい短い爪"と"鎧の各部位に備わった小さな砲台"という些か地味なものであるが、それらには何れも"蛇型使い魔の量産"という魔術的機能が備わっており、物量の差をほぼ無視できる状況にあった。
データ化され装備の根底を担うのは、ホンハブのハッチー、ブラーミニメクラヘビのミューズ、パキラキスのボラットといいうネオアースに住まう三名の"蛇"である(彼らの初出は『恐竜ホスト~Dream of Jurassic~』第17話及び18話の干支に関連づけた元旦回である)。
「ふッ、はッ、やッ!もう一丁ッ!―――これで、どうよッ!」
その後も結花は迫り来るクストディを悉く退け駆逐し続けた。ヴィジュアル系音楽に傾倒し、月に三~四回程度敬愛するアーティストのライブへ赴く結花は、小柄ながらに比較的高めのスタミナを持ち合わせており、何らかの要因で秘められた戦闘センスを引き出しさえすれば汎用性の高い理想的な歩兵として機能するのである。
「フッ……鰓掃除して出直しなっ!」
「……お前、そんなキャラだっけ?」
―同時刻・上空―
ネオアース民の力を得た高校生三人の攻撃はまさに圧倒的の一言で、それは地上や上空の生体兵器達にとって脅威となっていた。だが"高性能"と"完全無欠"が同義語でない事は言うまでもなく、正確無比な聡子の狙撃や破壊力抜群な大士の殴打や機関銃掃射、結花の操る多種多様な蛇型使い魔の攻撃を運良くすり抜け攻撃を仕掛けてくる生体兵器―即ち、"討ち漏らし"も少なからず存在する。
【さぁて凛ちゃん、ここから今まで教えた基礎のおさらいよ!】
「はい!ケイコさんッ!気合い入れて行きましょう!」
高校生揃いの風間大士一味(通称"チームさとてん")にあって唯一の中学生である梶永凛の役目とは、そういった"討ち漏らし"の駆逐であった。線が細く中性的な容姿に加え気弱な性格から如何にも脆弱なイメージの付きまとう彼は元々、"戦場に出るような性分"ではない。
よって香織も彼を召喚することは流石に躊躇い、事前に"グロテスクな描写やホラー要素が多く、気弱な方のプレイは推奨しない"と念入りに説明することで、間接的に凛へ参加を辞退させようとした。だが"男らしさ"に憧れる彼は寧ろ進んで作戦への参加を希望し、結果として乗り気でなかった結花をも奮起させるに至ったのである。
そんな彼の装備―翼竜の骨格標本を模したグライダーと一体化したような薄手の装甲スーツにデータとして宿るのは、ネオアースに住まうプテラノドン・インゲンスの中年女・ケイコである。厳格ながらも心優しく愛情深い彼女の性格は異界に於いても寸分とブレず、慣れない環境に怯え気味だった凛を母親のように導いていた。
【いい返事だねぇ、その意気だよ!それじゃ先ずはアローであの半漁人を狙撃してみなさい!】
「はいッ!」
装甲スーツを身に纏った凛は、グライダーのように滑空しながら次々と生体兵器を仕留めていった。あるものは据え付けの連射式クロスボウで脳天を射抜かれ、あるものは冷凍液で動きを封じられた所を爆破され、あるものは放電で身体を焼かれ、あるものは両翼の先端部に備わった刃で瞬時に身体を分断されていく。その姿はまさにSFめいた装備で強化されたプテラノドン・インゲンスを思わせ、上空や地上、水中の生体兵器を悉く蹂躙するように討伐していった。
―同時刻・異空間の管制室―
「凄い……ヒトシ君から噂には聞いてたけど、まさかこんな動きまで可能だなんて……」
管制塔にて装備化したネオアース民を身に纏い戦う学生四人を見守るのは、ネオアースに暮らすホモ・サピエンスの女・ジーン。ヨナグニサンの大家が管理する大樹のアパートにて暮らしながら住民票の編纂や戸籍の管理を行う彼女は職業柄様々なネオアース民と触れ合う機会に恵まれており、住民達を"種"と"個体"の両面から深く理解している事でも有名であった(詳しい出自や動向については『巨竜ホスト』本編を参照のこと)。
「ジーンさん、調子はどうです?」
「あぁ清水さん、絶好調ですよ。特に梶永君とケイコさんのコンビは素晴らしいですね。ポイントの合計値もさることながら、何より動きに無駄がないんです」
「おー、確かにこれは凄いですね。正直な所、私にとっても予想外です」
「そうですか。それはそうと清水さん、辻原さんの姿が見えないようなんですが、心当たりは?」
「はぁ、繁ですか?何か出掛けてくると言って出たっきりですよ。恐らくまた妙な事に上半身突っ込んでるんでしょう。まぁ別に心配する程の事でもありませんし」
「いや、私も心配はしてませんが……首通り越して上半身ですか……」
―前回後書きより―
「せィあッ!」
「ぬぉうッ、とォ!」
樹海の片隅で勃発した戦いは熾烈を極めていた。破殻化した繁の溶解液が宙を舞い、オップスの魔術が樹海の木々を薙ぎ倒し、繁と同じく破殻化したランゴの手元には黄色と黒の縞模様をした外骨格で覆われたような様々な武器が次々と産み出される。
騒ぎに乗じて現れた生体兵器も数多くおり、健に殺されていた犬頭の小人"カニス・セルウス"や、あかりによって始末されたオオトカゲの"ヴァラヌス・コエピ"、戸田・月読兄妹を取り囲んだ肉食恐竜的生物の"ヴェロキニクス・ダンパル"、"ガラテゥイデア・カエルレウス"の亜種であり完全な陸棲の赤い甲殻類"ガラテゥイデア・ルベル"、巨体に反して素早く動き回る鮮やかな体色のヤモリ"ウルプラトゥス・ヴィヴィド"、凶暴な巨大蜂の"ヴェスピナエ・ドライシセス"、ランゴの意志に忠実な巨大蟻"エシトン・ドライシセス"、ヴェエスピナエ共々聡子と戦った怪鳥"ファルコニフォルメス・オプシア"、オップスの忠実な配下である動物と植物の中間的存在"プランタニマーリア・オプシア"等、無数の生体兵器が群れを成して繁に襲い掛かる。
「クソっ、何て数だよ!豆腐のように非力で綿菓子のようにか弱い一般人を化け物が寄って集って袋叩きたぁ、正気の沙汰じゃねぇ!」
「えぇい、黙れッ!お前の何処が非力でか弱い一般人だ!?お前の豆腐は白塗りの木材、綿菓子はタングステンの棒切れに石綿巻き付けてセメントに浸したのを言うんだろうが!」
「もうそれ豆腐でも綿菓子でもないよねオップス君。豆腐の方はせめてヤムタに伝わる六条豆腐でも良かったかと思うんだけど」
ランゴの言う六条豆腐とは、薄切りにした豆腐に塩をまぶし陰干しにしたものをいう。製法の所為か豆腐でありながら材木のような色をしており、更に言えば鈍器に使えるほど硬い。当然そのまま食べる事は出来ず、酒に浸したり吸い物などに用いるという。六条とはこれの発祥が京都府の六条という地である事に由来すると言う(カタル・ティゾルでも似たような由来であるとさせて頂く)。
「ドライシスさん、貴女は今回が初対面だから解らないかも知れませんが、個人的にはあの男をまともな食物に例える事自体有り得ないんですよ」
「おいおい、ヒデェ言い様だな。サシガメと同じ半翅目のタガメは食用としても有名なんだぞ?」
「だがサシガメは食用にならんだろ。よってお前も真っ当な食物にはなりえん」
「まぁ普通ならそこまで言うと後々言い過ぎな気もしてくるけど、相手が君だとそれさえないからね」
そう言うや否やランゴは近場に居たカニス・セルウスを素手で捕まえると、それを右手の刃が欠損した剣共々まるで粘土のように捏ね繰り回す。
「あとはこれを、こうして……っと。よし、出来た」
ランゴの手により素早く形を整えられた手元の物体は、瞬く間に黄色と黒の縞模様の外骨格で形成された刀へと姿を変えた。
「相変わらずインチキじみた能力だな……ワスプって奴は」
「そうでもないさ。僕の能力はまだ不完全だ、インチキなんかとは程遠いよ」