第二百八十二話 戦うゲスト様-伏線回収-
※今日のヴァクロは後書きまでお読み下さい
―昼頃の樹海にて・澄み渡る広大な湖―
「うぉるぁああああああああああ!ぶち抜けクソッタレェェェ!」
【ははははは!もっと気張れや小僧!まだ傷は浅ぇぞッ!】
「無茶言うなよオッサン!あのカニ野郎、無茶苦茶硬ェんだ!機関銃の弾でも通りゃしねぇよッ!」
【オッサン言うなし!間接狙え間接ゥ!平べってー所ァ普通にやったって弾なぞ通らねぇ!爆弾かバズーカで吹っ飛ばせこの野郎!】
「じゃあその爆弾かバズーカってのを出してくれよ!この装備飛び道具ガトリングしかねーじゃねぇか!」
所々に巨獣の骨らしき意匠が見られるSFチックな重量級パワードスーツを身に纏い、弾倉部に竜脚類の頭蓋骨上半分を被せたようなミニガン(小型のガトリング砲)を眼前の生体兵器へ向かって掃射するこの少年は、名を風間大士という。
単なる一般人ながらに『現在開発中であるアクションゲームのテストプレイに協力して欲しい』という触れ込みで異世界に誘われた彼は、三人の仲間達と共に記憶・認識操作の魔術を受けながら、こうしてエレモスの大地に降り立ち戦っている。相方として檄を飛ばすのはネオアースのホストクラブ『ホワイトアーク』に勤めるアパトサウルスの豪傑・ジャールであり、豪快で喧嘩っ早くも義を重んじる熱血漢という人物像は大士に通じるものがあり、選定理由の一つにもなっている。
因みに相手取っている"カニ野郎"と呼ばれる生体兵器は、名を"ガラテゥイデア・カエルレウス"と言う。地球で言うコシオリエビ(エビの名こそつくが系統的にはヤドカリに近い甲殻類)に近い大型節足動物である。同じく水圏で活動する半漁人のような生体兵器の"サルミヌス・クストディ"が騎乗物として乗り回す事もある為か知能は低くほぼ本能レベルの行動しかできないが、その分分厚く強靭な外骨格と凄まじい生命力を有する為、専門の駆除業者をも苦戦させるであろう恐ろしい相手であった。
【武器出せだぁ?ゼータク言ってんじゃねぇよ!このジャール様が相棒に選んだ男だろ、そんぐれぇテメーでどうにかして見せろィ!】
「何だよそれ、無茶降りにしてもあんまりだろ……ったく、しょうがねぇ!ならガトリングよりいい装備を使うとするぜ!」
ミニガンを下ろした大士は右腕に備わった英数字キーへ素早く武装展開コードを入力。ミニガンが魔力に変換され消え失せるのと同時に、竜脚類の前脚が如し打撃部分が特徴的なスレッジハンマーが現れ大士に掴み取られる。
【おぉ、ハンマーか!安易だがいい考えだぜ小僧!その昔"雷の竜"と呼ばれたアパトサウルスの真髄を、あのカニ共に思い知らせてやれィ!】
「言われなくてもそうしてやらぁぁぁぁぁ!」
跳び上がった大士によって振り下ろされたスレッジハンマーは、カエルレウスの強固な青い外骨格をものともせずに粉砕した。
―同時刻・上空―
「驚いたな……あれ程の化け物を一撃で屠るとは」
【感心してないでもっと動いて下さいよ!貴方が動かなきゃスクープも何もないんですからっ!】
「ん、すまんかったな――はッ、せいッ、ィよッ!」
光り輝く翅でホバリングしながら昆虫のような意匠の目立つ狙撃銃を放つのは、これまた昆虫―より厳密に言うならば、蜻蛉目を思わせる特撮ヒーロー風の鎧に身を包む多可聡子。クールかつミステリアスなこの少女は先に挙げた風間大士と親しい間柄にあり、今回こうしてエレモスの樹海にて生体兵器狩りに参加しているのも偏に彼から誘われたからであった(但し香織から敵の秘密を聞いて以降は個人的な理由からも生体兵器を激しく嫌悪している。詳細は後述)。
そしてそんな彼女の装備に宿るのは、ネオアースクールの情報屋として知られるメガネウラ・ラガン。普段から情報収集が日課の彼女はある意味新聞記者のような気質でもあり、今回も『ジュラシックの面々が向かった異世界が如何なるものか突き止める』という目的の為香織に協力しているのであった。
相手取る生体兵器は全長1.2m程の巨大スズメバチと翼開長5m程のこれまた巨大で色鮮やかな怪鳥がそれぞれ群れを成したもので、それらは何れも指揮者らしき個体―巨体にフードを被る操縦者らしき人物を乗せた一際巨体な怪鳥(推定翼開長約8m)と、蜂とも竜ともつかない外見をした謎の生物―に率いられているようだった。
「ふむ……成る程ねぇ……そこでそう来たか……ほほぅ……」
「(くっ、何故だ!?何故当たらん!?)」
聡子はより厄介なスズメバチを指揮する方を撃墜せんと躍起になっていたが、戦況が芳しくないことは言うまでもない。先天的に持ち合わる気流操作の異能で捩曲げられた弾道さえも蜂竜の化け物には見透かされ、悉く回避されてしまうのである。
「どうしたね、お嬢ちゃん?君の銃撃はそんなものか?」
「……くッ、貴様ァ……」
声からして雌と思しき蜂竜の挑発に、聡子は思わず冷静さを欠いてしまう。というのも彼女は社会福祉分野に傾倒しており、子供を狙う性犯罪者を激しく憎悪している。その矛先は幼いエリスロを生体兵器量産に利用している中央スカサリ学園上層部にも向けられており、生体兵器を憎悪する余り蜂竜に本気でぶち切れ冷静さを欠いてしまった最たる理由もこれであった。
「おいおい、そう睨むなよ。折角の美人が台なしじゃないか。なぁ、右大将君」
「散々煽っておいてそれはあんまりでしょう、左大将さん。というか、出番を失った鳥と蜂が何時の間にか何処かへ飛んでいってしまったんですがね」
「ん?あぁ、まぁ気にするまでもなかろう。あれらは地上部隊程我々に忠実というわけでもないし、好きにさせておけばいいさ」
「はぁ……左大将さん、貴女ってヒトは何でそう変な時にいい加減なんです?」
「昔からよく言うだろう?"女の精神はサファイアの色のように不規則で、金属ナトリウムのように不安定なものだ"って」
「言いませんよそんなの」
「ともかく僕は気まぐれでね……そういう訳だからお嬢ちゃん、決着はまた次の機会という事に――ッ゛!?」
蜂竜の背に外骨格を突き破る衝撃と激痛が走り、黄黒の縞模様をした身体が大きく揺らぐ。隙を突いて背後に回り込んだ聡子の銃弾が、蜂竜を滞空させていた翅の付け根に撃ち込まれたのである。
「な゛……に゛?」
「次の機会?寝言は寝て言え。お前と私にそんなものはない……次の一発で頭を撃ち抜いてやる」
「おやおや……流石に油断し過ぎたかな……それとも破殻化が甘かったか……」
「(ハカクカ?何のことだ?……よく解らんが、ともかくこいつはここで始末せねば――「ンぁもう、言わんこっちゃない!ほら逃げますよ左大将さん!早く乗って!」
「あ、おい!貴様、待てッ!」
「それじゃあねお嬢ちゃん、会えたらまた会おう」
手負いにも関わらず呑気に言ってのけた蜂竜の一言を最後に、二人を乗せた怪鳥は鳥類にあるまじき速度でその場から飛び去ってしまった。
「何なんだ、奴らは……」
【(どうしよう……あたいってば喋ってなんぼのキャラなのに蠱毒の所為で中盤以降殆ど喋れなかった……)】
―樹海の開けた土地―
「ッ……ぁあ……ふゥ……」
「大分癒えて来たか……左大将さん、傷はどうです?」
「あぁ、もう大丈夫だ……体力がまだ戻らないが、ドブネズミかウシガエルの二、三匹でどうにかなる」
あれから何とか生き延びた二人は、樹海の開けた場所で休息を取っていた。蜂竜の傷はフードの男により治療され、穴の空いていた外骨格には傷一つ見受けられない。
「ネズミやカエルなんかよりもっといいものがありますよ。ほら、学園の売店で買っておいたドリアです。冷めない内にどうぞ」
「ほう、ピンポイントな超低周波数電波でドリアの分子を振動させ瞬時に温めたのか。素晴らしい、流石の腕だ――「ほォんと、流石だなフード君ン」―!?」」
突然の気配に驚いた二人が声のした方を見上げれば、曲がりくねった大樹の幹にぶら下がっている細身の覆面男が目に入った。
「おいおいそう身構えんなよ、初対面なんだ仲良くしようぜ」
素早く地上へ降り立った男は(少なくとも上辺では)二人に友好的な言葉をかけようとする。しかし男の声に聞き覚えのある二人―特にフード男の方は、依然として男を警戒し身構える。
「フン……初対面だと?冗談は性根と面だけにしておけよ、ツジラ」
「ありゃ、俺をご存知?まぁ俺って有名人だし、知らねぇ奴のが少ねぇか―「まだ判らんか」―ぁ?」
「……その声色、貴様どうやら本気で忘れたらしいな……まぁ無理もないか……半年以上も前に少し遭っただけで、こうして顔も隠している事だしな……」
「半年以上前……今は十二月の末だから、七月よりも更に前か……」
「そうだ……私の記憶が確かなら、五月の上旬だったかな……」
思わせ振りにフードの縁を摘んだ男は、無駄にスナップを利かせて素早く被り物を払いのけた。
「……ッ!……お前、あん時の……」
「そうだ。漸く思い出したか、ツジラ・バグテイル……嘗て我が祖国を食い荒らした忌まわしき害悪よ!」
そう。怪鳥を従えるフードを被った男の正体とは、シーズン1の終盤でエレモスへ逃亡した元ルタマルス陸軍大佐、エリヤ・オップスだったのである。