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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第二百八十一話 戦うゲスト様-原戸君の末路-





企業班のターン、ドロー!

―前々回より・森林地帯―


「しかし暗いですね……これ本当に午前10時なんですか?」

「はい。今時計を確認しましたけど、間違いなく午前10時14分でした」

「天気予報だと空は快晴、絶好の洗濯日和って書いてありますね」

「っていうか、何か寒くない?ねぇラピカ、確か今日の最高気温って……」

「えーっと、38度。猛暑日だから熱中症に注意とかテレビでもしつこく言ってた気がするけど……」


 樹海の対極に位置する広大な森林地帯を進むのは、白い忍者装束に身を包み腰に直刀を挿した細身の女・アンズと、前回の映美平原戦から引き続き参戦中の唱道者三人組であった。唱道者三人組はそれぞれ前回用いたものとデザインの違うツール(事前に香織から手渡されたもの。内部にはやはりネオアースの住民達と、それぞれの契約対象である使徒精霊とがデータの状態で収められている)を身に付けており、先頭を往くアンズ共々臨戦態勢に入っていた。


 そんな四人が常世と異空間の拠点とを隔てる"扉"を出てから早二十分、時刻は現在午前10時14分を回ったばかりだというのに、四人が現在歩いている森林地帯はまるで夕暮れか宵を思わせるほどに薄暗く、その上気温も何故だか妙に低く肌寒さを感じるほどであった。おまけに空気や地面は妙に湿っぽく、地表には背の低い植物の姿がまるでない。快晴の猛暑日という予報が的中したにもかかわらず、何故この森はこうも暗く涼しいのか?その原因とは即ち、動物同様に凶暴で獰猛なカタル・ティゾルの植物にあった。


―概略はこうである―


 先ず貪欲に日光を求め続けた一部の樹木が最上部でのみ葉を展開。続いてそれに続く形で日光を求めた蔓植物が樹木に巻き付き最上部で更に葉を展開し、"林冠リンカン"を形成。この時点ではまだ日光が差し込む隙間は残っていたのだが、ここへ数種の寄生植物(その名の通り特殊化した根で他の植物に寄生し栄養分を得る植物)の種子が風や飛行動物の排泄物を通じて落下しそれらが芽吹いたことで、申し訳程度に残っていた日光が差し込む隙間をも完封され、地表部は低温多湿の空間が保たれている。こんなわけでこの森の地表には落ち葉こそあれども雑草や低木などは全く見受けられないのである(但し、乾燥が苦手な菌類や光合成をしないある種のラン等にとっては寧ろ好都合なためか、地表部ではそれらを生産者に据えての生態系が形成されている)。


 こういった環境は赤道直下のアクサノで見られる事が多く、四季の存在するエレモスでは珍しい事例である。蔓植物や寄生植物は寒さに弱く越冬などできないため秋の終わりから冬頃には地表から姿を消してしまうが、樹木の殆どは巨大であるにもかかわらず常緑の広葉樹であるため、結局どの季節でも"日当たりのいい土地"とは世辞にも言い難いのである。


◆◇◆◇


「しっかしつくづく気味悪いわねぇ……なんとかサイエンスの化け物より先に幽霊でも出るんじゃないの?」

「ちょっ、シャアリンちゃん!怖いこと言わないでよ……」

「確かに、よくある神霊映像とかってこういう場所で撮影されてるよねー」

「あ、アルティノ君まで……!」

「ご安心下さい、ラピカさん。例え何が出ようとこの私が命に替えてでも御守り致します故」

 等と格好つけて言うアンズの視線や喋りに自身の相方・セレイヌと似たようなものを感じ取ったラピカは、その気迫に気圧され『は、はぁ……』と言った具合に、その場凌ぎの返答しか返せないでいる。

「勿論、時が来ればシャアリンさんも必ずや御守り致しますのでご安心を。アルティノ君は―――まぁ、申し訳ないが事故防衛に努めて下さい。私が守れるのは同時に二人までですし、君の能力は前衛向きでしょう?」

「あぁ……ありがとう……頼らせて貰うわ」

「はは……まぁ、そうですよね。戦闘時の僕ってこの中じゃ一番頑丈ですし」

 ラピカ同様明らかにその場凌ぎの返答をする二人であったが、どちらも内心ではこの白装束忍者にただシンプルな一言を叩き付けてやりたくて仕方なかった。『お前、女しか守りたくないだけだろ』と。


 と言うのもこのアンズという女、育った環境故か元々なのか(詳しくは解説で語るが)兎も角凄まじいまでの同性愛者(レズビアン)なのである。特に(これも詳しくは解説で語るが)連れ去り事件で行方不明になった自らの主君(さる里の姫君)には並々ならぬ愛情を注いでいる模様。水の使徒精霊セレイヌ程ではないものの極端な言動が目立つ為、同性愛嫌い(ノンケ)の女性からすれば煩わしい存在ではある。


「それにしても出ないわねぇ、化け物。ポイントでロロニアに何か食べさせてあげたいし、出てこないってのも辛いんだけど――?」

 シャアリンが溜息を吐こうとした刹那、何処かでカサリと落ち葉の動く音がした。

「どうしたの?」

「いや、今なんかカサカサって音しなかった?」

「したけど……風とかじゃない?それか虫が動いただけとか。カタル・ティゾル(ここ)って編に大きい虫とか多いし」

「"だけ"とは言うけどさ、大きい虫も充分怖いよね―「ヴぁああああああああああい!」―!?」

 暗い森に突如木霊する、ヒトとも獣ともつかない不気味な雄叫び。四人が声のした方へ目を遣ると、樹木の幹に張り付いたゾンビの様な何かが目に入った。

「なっ、ゾンビ!?まさかあの会社、屍術師まで雇ってたっていうの!?」

「いや、どうもそうじゃないらしいよ。あのゾンビみたいなのは、クロコス・サイエンスの生み出した『クライム・パラサイト』っていう寄生虫の卵を飲まされた人間みたい」

「孵化した幼虫は動物の脳を内側から食べつつその身体を操縦するんだよね……確か不正を犯した社員を粛正する為に作ったんだっけ?」

「つまり、あの男はもう……」

「多分、死んでると思う……資料にもそうあったし……」

「くッ……おのれクロコス・サイエンスめ……私利私欲の為何たる非道を……」

 アンズは怒りに打ち震え、腰の直刀を抜くや否や何時の間にか周囲を取り囲んでいた被害者・・・達を睨みつけ身構える。

「忌まわしい虫螻共めが……一匹残らず叩ッ斬ってくれる……」

 全身にほとばしる怒りを丹念に練り上げ刀の切っ先に込めるように構えを取るアンズに感化され、唱道者達も戦闘体制に入る。

「行くよ、ダカート」

【おうよ!】

「スーザン団長、お願いします」

【任せなさい】

 燃え盛る肉食恐竜の頭蓋骨を模した腕輪が輝くのと同時に、構えを取ったアルティノの身体が炎に似たオーラに包まれる。炎の使途精霊ダカートの荒ぶる魔力とネオアースにて自警団を率いるティラノサウルス・レックスの女傑スーザンに秘められた力強き捕食生物の因子を得た少年は、骨・牙・爪・筋繊維といった有機的意匠の色濃いパワードスーツを身に纏う。

「お願い、セレイヌ」

【畏まりました、我が姫君よ】

「イライジャさん、お力添えを」

【了解】

 大口を開いた深海魚の意匠を持つベルトのバックルが輝くのと同時に、構えを取ったラピカの身体が流水に似たオーラに包まれる。水の使途精霊セレイヌの上質な魔力とネオアースにて明かり役(詳しくは解説にて)として生計を立てるチョウチンアンコウのイライジャに秘められた発光する深海魚の因子を得た少女は、所々に条鰭や魚骨の意匠を持つスタイリッシュかつオリエンタルな装束に身を包む。

「行くわよ、ロロニア」

【うん!】

「頼みましたよ、大家さん」

【任されて~】


 シャアリンが口吻のない蛾の顔を模した古風な仮面を顔に被せるのと同時に、仮面の縁から蛾の口吻を思わせる細い突起が生え寄り集まって仮面を頭部に固定。構えを取ったシャアリンの身体が大気の流れを思わせるオーラに包まれる。風の使途精霊ロロニアの柔軟な魔力とネオアースにて大樹のアパートを管理するヨナグニサンの大家に秘められた優雅なる巨大蛾の因子を得た少女は、無駄のない洗練されたフォルムに蛾の翅を思わせる模様の描かれた薄手の鎧を着込むに至る。


 かくして此方でも、少数対軍勢の壮絶な激戦が始まろうとしていた。

次回、遂に"あのコンビ"が登場!

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