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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
272/450

第二百七十二話 目撃者になっちゃったら:前編




診察券を落とした社員がたどり着いたのは……

CSクロコス・サイエンス社・特秘されるべき地下空間―


「(何なんだ、これは?うちの会社の地下に、こんなものが……)」


 図らずも"そこ"に辿り着いてしまった霊長種の若手社員が目にしたのは、想像を絶する光景であった。

 暗く広大な空間に等間隔で並ぶのは、高さ3m程度の発光する円柱。ケミカルライトのようにぼんやりと緑色に光るその仲には、幽かに有機生命体を思わせる何かが詰まっている。大学で農学に深く傾倒し優秀な成績を残した彼にとって、この光を放つものの正体を察することは容易い。

「(これは……もしかしなくても人工羊水か?)」

 人工羊水。主に学術分野の実験などで用いられる液体である。有機生命体(実験動物や移植手術を待つ死人の臓器など)の健康な状態での保存や、陸上(取り分け乾燥した土地)での活動が困難な種族が着用する特殊なパワードスーツの内部を満たす等の用途で知られる、言わば"液化された生命力"と呼ぶに相応しいものであった。

「(となるとこれは、間違いなく培養槽……だよな?中身の生物はどれも見たことのないような―というか、空想の世界から飛び出してきたような外見をしている……確かにうちの会社ではそういう生物を作っていたりはするけど、こんな馬鹿でかい培養槽なんて見たことがない……一体これは―――「誰?」――っ!?」

 いきなり背後から声を掛けられた若手社員は、思わず腰を抜かしてしまった。どうにかその場から逃げ出そうとするが、恐怖で身体が思うように動かない。若手社員は死を覚悟した―――が、直後にそれが杞憂であったと思い知ることになる。

「ちょっと原戸君、そんなに怖がらないでよ」

「……え……しゃ、社長?」

 そう。暗闇から歩み寄って来た人物こそはまさしく、クロコス・サイエンス代表取締役(兼社長)のミルヒャ・ハルツだったのである。

「驚かせてしまったのならごめんなさい。でもこんな所でどうしたの?ここは関係者以外立ち入ることができないようになっている筈なのだけど」

「いやぁ、すみません。勤務中うっかり内科の診察券を落としてしまいまして、何処に落としたろうなと無我夢中で探し回っていたらいつの間にかここに……」

「あらあら、それは大変ね」

「いえ、いいんです。健康保険証ならまだしも診察券なら病院に言えば何とかしてくれるでしょうし」

「そう?ならいいけど、今度からは気をつけるのよ?うちはただでさえ敷地が広いのだし、最近は怪しい化け物も増えているそうだから。ともかくここで会ったのも何かの縁、ついでだから出口まで案内してあげるわ」

「お心遣い痛み入ります」

「いいのよ。代表取締役たるもの、迷子の社員を案内できるくらいでないと。但し原戸君、一つ約束して頂戴」

「約束、ですか?」

「そう。今日ここで見たものは、一切合切総て忘れなさい。いえ、厳密に言うなら"ここの存在自体が夢幻だったのだ"と思いなさい。勿論他言もしては駄目よ」

「そんな……何故ですか、社長?」

「何ででもよ。ややこしい理由などではないわ。"関係者以外立入禁止の隠されるべき場所"に"無関係の者"が入り込んでしまったのならば、入り込んでしまった無関係の者はそれを忘れるのが道理でしょう?」

「確かにそれは道理かも知れません。しかしお言葉ですが社長、そのご命令には従いかねます」

「……何ですって?」

「社長、貴女はかつて入社式でこうおっしゃいましたよね?"クロコス・サイエンスに属す者は誰であれ、智を求める者でなければならない。智への探究心と思考の喜びこそ真理であり、時にそれらの為法や倫理に反することがあったとしても、それは推奨されるべき美徳である"と」

「……"時には躊躇し撤退することも大切である"とも言った筈だけど」

「今躊躇してしまうと、一生後悔するかと思いまして」

「……ふぅん、見上げた意欲ね。いいでしょう、ならばついて来なさい。真実を見せてあげるわ」


―最奥―


 ハルツに案内されるままに歩き続けた原戸が辿り着いたのは、椅子が一つ置いてあるだけの狭い個室であった。

「お掛けなさい、先ずは我が社のトップに会わせてあげる」

 ハルツに促されるまま椅子に腰掛けた原戸はふと疑問に思う。我が社クロコス・サイエンスのトップ?社長トップなら会うまでもなく貴女自身ではないか、と。その疑問を口に出そうかどうか迷っていると、事も有ろうにハルツに先を越されてしまった。

「あらあら、その顔は"会社のトップは貴女じゃないのか?"なんて聞きたそうな顔ね。確かに会社のトップは私だけど、それはあくまで表向きの話なの。真に我が社クロコス・サイエンスを支配しているトップは、私なんかじゃあない……あの御方にしてみれば、私でさえ一端の小兵に過ぎないわ」

 ハルツは大袈裟な動作でリモコンを手に取り、クルクルと回りながら電源を入れるとリモコンを投げ捨ててしまった。

「さぁ、刮目なさい。彼こそ我らが唯一絶対の支配者、ゴノ・グゴン様よッ!」

「(こ……こいつが、クロコス・サイエンスの影なる支配者……)」


 スクリーンに映し出されたそれは、オレンジ色の鱗に覆われた巨大な獣脚類の頭部であった。

 規格外の巨体は狭い個室の壁を用いたスクリーンに収まりきらず、胴体がどれほど巨大であるかは計り知れない。砲弾をも弾き返しそうな質感のある鱗に釣り上がった大きな両目、底知れぬ鼻の穴と大型トラックをもスナック菓子のように噛み砕けそうな程の大口、そしてその中に生え揃う大型のサバイバルナイフか槍の穂先の列なりを思わせる純白の牙――その顔面を成す全ての要素は、まさに破壊をもたらす捕食者のそれであった。


『どうしたミルヒャ・ハルツ!?この俺様に何か用か!?』


 グゴンの声と喋りは、外見相応に破壊的で傲慢極まりないものであった。

 

「はい、グゴン様。実は"子宮"に社員が迷い込みましてね、追い返そうとしたのですが真実を知りたがったのでここに連れてきたのです」

『ほお、そいつあ面白え!なら教えてやるしかねえなぁ、"真実"って奴を!』

何か凄いの出たーッ!?

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