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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン2-ラビーレマ編-
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第二十七話 虫も魔術も使いよう





前回、繁からの使者として緒方理事長との交渉を行った口達者な外殻種・クリムゾン。

しかし、その正体は・・・?

―前回より―


「よくやったぞクリムゾン……お前は優秀だ」


 ラビーレマ近所にあるビジネスホテルの一室にて、繁は一抱えほどもある巨大な赤い甲虫―クリムゾンと名付けた雄にそう語りかける。机の上には香織の私物である小型ノートパソコンが展開されており、画面には東ゾイロス高等学校の詳細な見取り図が映し出されている。

 ちなみにこのクリムゾンと名付けられた何とも巨大な甲虫は正式名称を『チイロハムシ』といい、体内に脊椎を発達させるという独自の進化によって節足動物の域を超えた巨大化を実現させた『脊椎節足動物亜門』に属する生物の一つである。


「しかしクリムゾン以上に優秀なのは、やっぱりお前だよなぁ…香織」

「そうかな?繁が捕まえてきたその虫居てこそだと思うんだけど」

「謙遜するな。お前の覚えた古式特級魔術二つ……動物を操る『ジュルネ・バルバトス』と生物の記憶を複製・搾取して記録する『ソワール・シャックス』が無ければ、今回の作戦は成り立たなかった。あと一般系の会話偽装魔術もな」

「確かにそうだけどさ、クリムゾンの操作は繁がやったんでしょ?」

「まーな。だが今になって考えるとアレも中々グダグダだったような気がしてきた……」

「何にせよ、これで動き方には困らないね。タセックモスの刻印は弾頭の出入り口としても使えるし、この分だと二階の廊下とか良いかも」

「うし、んじゃ早速台本を作るぞ。リクエスト以外にも色々な投稿が寄せられてるからな。音楽のリクエストも来てるから音源を確保せにゃならん」

 こうしてツジラジ第二回に向けた会議が開始された。


―同時刻・外部―


「予想的中……ツジラ一味が我々を狩りに来る事は確定的だったようですね……」

 ホテルの屋根の上から特殊な器具を突き立て、内部の音声を聞き取っていたのは、あの黒スーツの女であった。

「しかしノイズが酷い……やはりあの青色薬剤師、低級でこそありますが盗聴防止用魔術を施していますね……。ホームセンターで買ってきた材料で作った総額二千円の盗聴器ではやはり限界がありましたか……。ともあれ、彼らが校舎内にスタジオを設置する事は判りました。これでMr.クェイン、Ms.アスリンを守る手立てはある程度確保出来るでしょう……。これでこの小樽兄妹(・・)を臣下と認めてくれた彼らに、漸く本格的な恩返しが出来るというものです……ねぇ、兄様。そうでしょう?」

 等と女―小樽が左肩へ語りかけると、スーツの布地をすり抜けるようにして若い男の頭が現れた。顔つきや瞳の色は小樽と似ており、頭髪も小樽と同じ緑色をしていた。

「ええ、そうですよ桃李……我々は遂に、本当の意味で恩を返すことが出来るのです……」

 男の頭はそう言い残すと、ゆっくりと小樽の体内へ引っ込んだ。


―その日の晩・ある一室―


「即ち……遅くとも本日より一週間以内に、我々の元へツジラ一味が攻めてくるでしょう」

 外部で捕獲してきた祭品―クェインやアスリンが『戯事』と呼ぶ一方的な性行為に際しこの相手となる15歳以上の男女―の山の傍らに跪いた小樽桃李は、主であるクェインに事を報告した。

「そうですか……聞けばツジラ一味の一人・青色薬剤師は古式特級魔術を用いる手練れと聞きます。並大抵の者は許可しない限り発見すら不可能なこの空間魔術……しかし古式特級魔術の使い手ともなれば容易に破るでしょう。そうなれば戯事や祭品についての情報は漏洩し、我々は公に知られ、クブス派の栄光どころか存在そのものが危うくなりかねない……」

「無論、そんな事はさせません。Mr.クェインやMs.アスリンは私共が御守り致します」

「何を言うのです、小樽さん。貴女一人だけを戦わせるなんて出来ませんよ。この戦い、私には参加する義務がある。何か異論はありますか?」

「いえ、全くありません。Mrのご協力あらば、ツジラ一味相手撃退程度どうという事は無いでしょう」

「そうです。我々が力を合わせれば、幾らツジラ一味とて一溜まりもありません。さて、それでどのように――「待って、クェイン」


 クェインの言葉は唐突に、背後へ現れた禽獣種の女によって遮られた。


「おや、ラクラ?どうしたのです?今日はやけに起きるのが早いですねぇ」

「変な気がしたから、早く起きたの」

「そうですか…変な気が……(流石はラクラ。禽獣種の勘は侮れませんねェ)しかし、大丈夫ですよ。心配なんて無用です。今小樽さんと話していた案件なんて、大したことでは無いのですから」

 こうして適当にはぐらかしておけば、何時も通りなら彼女は折れてくれる。そう考えていたクェインだったが、


「嘘」


「はっ?」


 現実はそう都合良く進まなかった。


「大したこと無いなんて、嘘。ラクラ判る。クェインもトーリも、もしかしたら死んじゃうかも知れない。そうでしょ?」

「……まぁ、そうですね。万に一つの確率で、我々は死ぬかも知れません」

「ただ、確率は確率ですから、無論生き残る可能性だってあります。仮に私が死ぬことになったとしても、貴女達は何が何でも守り抜きます」

「最悪の場合にはラクラ、貴女だけでも逃げ延びなさい。貴女さえ生き残る事が出来たなら、クブス派にはまだ栄光を掴む権利が――「やだ」

 クェインの言葉は、ラクラによって悉く遮られる。

「な、何を言い出すのですかラクラ!クブス派の女性がどれだけ崇高な存在か、貴女にはその自覚がはっきりと在るはずですよ!?」

「それでもやだ。ラクラ、ひとりぼっちきらい。クェインもトーリも居ないのに、クブスを取り戻したって、なんにもたのしくなんかない」

「しかしですね…」

「おわりはみんないっしょ。みんないなきゃ、だめだから。だから、ラクラも戦う。みんなでツジラ一味を倒して、クブスを取り戻したい」

「そうですか……Msがそう仰有るのでしたら私は別に構いませんが、Mrはどう思われますか?」


 話を振られたクェインは、少々考え込み答えを出す。


「……仕方在りませんね。こうなれば三人でツジラ一味を迎え撃つとしましょうか」

次回、本格的に戦闘開始か!?

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