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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
269/450

第二百六十九話 名誉学生でも人名救助がしたい!:前編


舞台は変わって学園の図書室

―前回より二日後・中央スカサリ学園図書室―


「それでその"月美蒼竜"って奴、どんな素顔だったと思う?」

「そうね……さっき聞かせて貰った歌声から率直に察するなら、長身痩躯の若い美男子……といった所かしら」


 三限目、西欧武術科三年S組の生徒達は担当教員の体調不良で空白となった授業時間を図書室での自習に使っていた。自習とは言ってもそこはやはり高校生、広大な図書室の至る所へ散らばっては(無論、校則やマナーに違反しない程度で)思い思いに過ごしていた。

 小説や雑誌を読みふける者、図鑑や新聞を机上に広げてはその内容について仲間同士で語らう者、本などそっちのけで雑談に興じる者、持ち込んだ携帯ゲーム機での対戦に熱中する者など、その有り様はまさに十人十色と言うに相応しい。

 そんな中で名誉学生に選ばれたルラキ・カリストが何をして過ごしていたかと言えば"親友と雑談"という、極々普通の女子高生らしいものであった。話し相手は十年来の親友であるセルジス・ズィリャ・プロドスィアというペンギン系羽毛種の少女である。大陸名や紀年法など後世に様々な影響を与えた"開拓の名士"ことメサ・エレモスの臣下エリーザの子孫が一人である彼女は、ルラキが部長兼主将を務める剣術部の副部長であり、エリスロと並んでルラキと関わりの深い生徒でもあった。

 因みに現在の話題は『インターネットの動画投稿サイトで歌声を披露し人気を集めていた男が女子高生との淫行に手を染め逮捕された』というニュースに関するもので、男を盲信するファンに苦しめられていたセルジスとしては内心喜ばしい事でもあった。


「と、思うじゃない?ところがどっこい、お世辞にも美しいなんて言えそうにないような顔だったんですって。しかも"自分はコトドリ系羽毛種だからどんな声でも出せるから歌えない歌はない"っていうのも真っ赤な嘘で、実際は機械で加工した他人の声を流してさも歌ってるように見せてたそうよ」

「それは酷いわね。慕っていた人達のショックも凄そう……」

「本当にね、機械で加工するならせめて自分の声でやればいいのに――ッッッッ!?」


 刹那、突如として校内に鳴り響く非常ベルの音にその場のほぼ全員が思わず耳を塞ぐ。続けて校舎全体に職員放送が響き渡った。


『緊急!全校生徒並びに職員へ通達!第二グラウンド及び西館屋内大プールにて推定レベル5の一種生体災害発生!詳細は依然調査中!現場付近の者は速やかに指定の避難所へと避難し、準二級以上の対生体災害応戦士の資格を持つ者は至急現場へ急行されたし!これは避難訓練ではないッ!繰り返す!第二グラウンド及び西館屋内大プールにて推定レベル5の一類生体災害発生!詳細は依然調査中!現場付近の者は避難をッ!』


―解説―


 カタル・ティゾルに棲息する生物の多くが地球のそれと比べて凶暴であることは、ここまで真面目に読み進めてくれている読者ならばよく理解していることかと思う。ファンタジー作品にてドラゴン、ワイバーンなどと呼ばれるような"竜種"や、地球に存在する同系統の種を大きさや身体能力の面で遙かに上回る動植物(特に内骨格を発達させた無脊椎動物の他、外伝に登場した"人食い沼"など)の類が好例であろうか。そしてそのような生物というものは比較的文明に近い位置にも棲息しており、餌不足やストレスなどの要因で希に人里を襲撃したりする。

 それらはカタル・ティゾルの諸地域に於いて多く"生体災害"と呼称され、災害の規模などから"レベル"と"種"での区分が成されている。詳しくは後書きに記述するが、この場合要約すると"正体不明の種による大規模な物理的被害(生徒・職員の死傷、校舎私設の損壊)が予想される状況"とでも言い表せようか。


―避難所に指定された部屋の中―


「何よもう、こんな時に生体災害なんてツイてないわねぇ……折角ルラキが名誉学生になれたり新しい科目が始まったりでいいこと尽くめな流れだったのに……」

「だよな……この勢いで剣術部の名を上げりゃ訓練場の修繕費だって確保できただろうに、奴らが硝子の一枚でも割ろうもんなら予算委員会の奴らに言い訳の隙を与えちまう。只でさえ部費減額が刺さってるってのに……」

 などと言うのは、セルジスの幼馴染みにして剣術部副将のウデムシ系外殻種・屋伝王将やつておうしょう

「本当よ、お陰で私ら事ある毎に親親戚へ頭下げてお金せびんなきゃなんないし……成績いいからかみんな部活に肯定的なのがせめてもの救いだけど……」

「頼むっつー行為がそもそも躊躇われてか、この上ない罪悪感に駆られちまう……」

「まさにストレスがマッハ」

「笑い事じゃねぇよ、ったく……はぁ……」

 脱力気味に溜息を吐いた王将は、壁にもたれ掛かって一休みしようとした。どうせ規則で事態が鎮圧するまで―最低でも向こう三時間―はこの部屋から出られない。ならば疲れていたし、寝てしまうのが丁度いいだろう――等と思い眠りに就こうとした、刹那。

「――っ!ぅあ、あぁっ!」

 脳裏へある単語が過ぎった王将は、電気ショックでも受けたかのような勢いで反射的に飛び起きた。

「へぁっ!?ど、どうしたのよ王将?そんないきなり発作みたいに飛び起きたりしてッ、びっくりするじゃない」

「おぁ、すまん。ちと重要なコトを思いだしてな」

「重要なこと?」

「あぁ、そうだ……セルジス、お前……」

「何よ?」

「……ルラキ見たか?」

「……あ」


 一瞬硬直した二人は慌てて室内を見渡すが、何故かルラキの姿はない。


「あ、れ!?確かに揃って図書室から逃げ出した筈なのに!何でいないの!?」

「まぁ待て、落ち着け。もしかしたら途中でトイレんでも行ってて別の避難所に逃げ込んだのかもしれねぇぞ」

「あッ!そ、そうね!そうよね、きっとそうだわ!全くルラキったら、トイレなら避難所にもあるってのに、そそっかしいんだから」

「お前それそそっかしいの使い方合ってっか?まぁ何だ、緊急事態っつっても部長で主将な自分が失禁なぞやらかしゃ『名誉学生なのに幼児レベルの自己管理もできないのか』とか言われて予算委員会や教育委員会から叩かれるからな。奴は俺らを守ったんだよ」

「流石ルラキね。後先ちゃんと考えてるなんてサッカー部の淵東えんどうやバスケ部の黒子、テニス部の越前なんかとは大違いだわ」

「試合中相手選手に魔術やブレス使ったんだったか?理事長が裏で手ェ回したから良かったものの、そうでなきゃ奴ら社会的に死んでんぞ」

 等と軽口をたたき合う二人だが、五年後にそれが正式なスポーツとして認可される事など当然知る由もない。

「まぁ理事長の庇護を受けてるのはあたしら剣術部も同じだし、突っ掛からなくても――あ、電話だ。はい、もしもし―――あぁ、ルラキ。どうしたの?凄く息切れしてるみたいだけど、あんた今どこにいんの?ちょっ、ルラ――……何なのよ、もう」

「ん、どうした?ルラキに何かあったのか?」

「うん。何か凄く慌ててるみたいで、"今急いでるから後で"って切られちゃった……」

「何だそりゃ……あいつが通話切るほど慌てるってお前、相当ヤバイ状況にあるって事じゃねぇか」

「やっぱりあんたもそう思う?いや、実はあたしも並々ならぬ気配をさぁ―――「プロドスィア、屋伝」――あ、先生」」

 声のした方をふと見れば、剣術部の顧問であるイグアナ系有鱗種の男性教諭が小さく手招きをしているのが見えた。二人は小走りで駆け寄り何事かと尋ねる。

「取り込み中すまない、少々厄介な事になってな……」

「厄介なこと?」

「そうだ……実は、カリストの件なんだがな……」

「ルラキの奴が、どうかしたんですかッ?」

「あぁ、それがな……」


 顧問は三度ほど固唾を飲んだあと、息を整えつつ言った。


「カリストは今……西館屋内プールで怪物と戦っている」


 二人は絶句した。

 以下生体災害の細かな区分。

 一種…猛獣や竜種など、ヒトや動物を物理的に攻撃・補食する種による災害。

 二種…羽虫やネズミの群れなど、農作物食害や建造物破壊といった形で害をなす種による災害。

 三種…毒素や悪臭などとでヒトや動物を化学的に攻撃・補食する種による災害。

 四種…病原体媒介や補食寄生等、上記三種以外の特殊な形で害をなす種による災害。

 レベル1…軽度のもの。被害はさほど大きくない。取り沙汰されることもない為多くは民間人で対処可能だが、放置すると死傷者が出ることもあり油断は禁物。

 レベル2…場合にもよるが多くは住宅一棟、田畑1hr(ヘクタール)程度の被害。アフターケアが出来ていないと後々深刻化し取り返しがつかなくなる。

 レベル3…住宅街や公共施設規模の被害。高い確率で重傷者が出るものの、平均的な民間人の武装でどうにか撃退可能なレベル。

 レベル4…公的機関や専門職、或いはそれに匹敵する実力を有する者複数人での対処が必須とされるレベル。高い確率で死人が出る。

 レベル5…巨大生物や大規模な群れによる都市規模の被害。レベル3或いは4程度の規模であっても、災害を引き起こした種の情報が少ない場合などはレベル5に入る。

 レベル6…規格外。実例は極めて少ないが、その何れもが天災級の被害をもたらしている。

 レベル7…机上の空論、都市伝説とされる規模の被害。実例が無く、詳細な定義すら決まっていない。

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