第二百六十六話 神性種会長と真実と根源
中央スカサリ学園の生徒会長とは一体……
―前回より・週末の豪奢な一室にて―
「先ずは盛大に祝わせてくれ、我が盟友ルラキ・カリストよ。名誉学生賞受賞、おめでとう」
「祝賀の御言葉有り難く頂戴致します、プロセルピナ生徒会長」
豪奢な一室にて、亜麻色の長髪を棚引かせた美しい有角種の女学生が、白金髪の霊長種とも尖耳種ともつかない外見をした高級感溢れる服を身に纏う華奢な少女に跪き一礼する。神秘的で高貴な雰囲気漂うその光景は、学生同士の遣り取りであるにもかかわらず、中世西洋に於ける騎士と王女のそれを思わせた。
「止せ止せ、エリスロで良いわ。盟友同士水入らず、堅苦しいのは無しとしようぞ」
華奢な少女―もとい、中央エレモス学園生徒会長であるエリスロ・パナギア・ハラ・エフティヒア・プロセルピナ(エリスロ・P・X・E・プロセルピナ)は、白魚のような指で盟友と呼ぶ女学生の髪を優しく梳きながら語りかける。
「畏まりました、エリスロ様」
「うむ……取り敢えず面を上げい、頭が低いわ。教員や役人の前や、或いは公の場ならばいざ知らず、こうして只の一個人として在る妾へ其方が頭を垂れるなどあってはならぬ事ぞ」
「勿体なき御言葉に御座います、エリスロ様」
「ふぅん、相変わらず堅物じゃのう其方は。まぁ、そのような丹念に磨き上げられ輝きを放つ玉鋼のような態度があってこそなのは百も承知じゃが……ひとまず腰掛けるがよい。菓子でも摘みながら世間話に花でも咲かそうではないか」
「では、御言葉に甘えて……」
―同時刻・"櫻井揚羽"の自宅―
名誉学生と生徒会長が優雅に談話する一方、転入生"櫻井揚羽"と三人の新任職員が暮らす家(という設定で学園側が用意した繁達の仮住まい)は、揚羽(こと春樹)によって招かれた五人の学生が加わったことでより賑やかになっていた。
さしたる事件も作戦もない、普通の平和な日常。しかしその和やかな流れは、何気ない雑談の中で出たふとした一言で僅かな変化を見せる。
「「「「神性種!?あの生徒会長が!?」」」」
驚愕の余り上がる、素っ頓狂(?)な声。その声の主とは要するに中央エレモス学園の新任職員三名と転入生一名―もとい繁達に他ならず、声の大きさに驚いたつばさは思わず転げそうになった。
「っ、と――いきなり大声出さないで下さいよ。こっちが吃驚するじゃないですか」
「あぁ、御免なさいね。あんまりにも衝撃的だったものだから、つい」
「そうなんですか?まぁ珍しいですもんね、神性種って」
「特等希少種族、ですね。かく言う僕も小さい頃は神性種なんて殆ど空想くらいに思っていましたから、生徒会長の種族を知った時はとても驚きましたけど」
「つーか、そういうのって新任の先生なら普通最初に理事長とか学園長から聞かされるんじゃあ……」
「いやぁ、わかんないよ?学園長はそそっかしいし、理事長も変にうっかりスキル持ちだし、伝え忘れた可能性は十分にあるよ」
「二人とも天然だもんねー」
「いや、お前が言うなよ……」
「あの生徒会長が神性種……か。神性種というとどうしても、ノモシアで粋がってる魔術王族ってイメージが抜けんのだよなぁ……」
「確かにお気持ちは解らなくもありませんが、プロセルピナ生徒会長はそんな方じゃありませんよ。幼くして品行方正、高貴にして高潔、寛容にして聡明な方ですから」
「その上神性種だから色々な魔術を扱えるし」
「上質な魔力は学園の安泰を保つ上でも重要だとか」
「安泰……確か"聖なる脳髄"だったかしら、それを動かすのに必要なのよね?」
「ですねー。確か、どんな問題でも最善の解決策を出してくれるっていう」
「まさに古代の超魔術具」
「厳密にはその場の状況と七人以上による話し合いで出た意見に基づく形での最善策をシュミレートするものですが、頼もしい存在なのは確かですよね」
―解説―
そもそも都市程の規模を誇る中央スカサリ学園は、創立以来千年以上経った現在でも内包するあらゆる施設を動かす動力の半分近くを膨大な天然魔力によるもので賄っている。
とは言え大気や土壌から抽出した程度では原動機付自転車レベルのものを動かす程度にしかならず、専用の魔力精製装置(所謂発電機のようなもの)ではコストがかかり過ぎる。その為ある程度の妥協が可能な部分は徐々に電気やガス等の科学的技術に置き換えられたわけだが、魔力を要する設備を取り払う事はできない。
この危機に学園は低コストで膨大な魔力を供給できる"根源"なるものを作り出し、地下深くの深奥に配する事で立ち向かおうとした。だが、根源のもたらす魔力は汎用性・柔軟性にこそ富むが一部の必須級とされる設備の動力としては機能しない事が判明。当時の学園関係者は上質な魔力を有する神性種を人為的に生み出し定期的な供給を行わせる事でこの問題を解決したのである。
そしてその人為的に生み出された神性種こそ、言わずと知れた名物生徒会長エリスロ・パナギア・ハラ・エフティヒア・プロセルピナその人なのであるが、この事は当然表沙汰にされておらず、エリスロ本人さえ知らないままなのである。
次回、読者お待ちかねの"奴ら"が登場!