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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
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第二百六十三話 謎の転入生S



二つの組織から依頼を受けた繁達は……

―前回より・エレモスは大国フリサリダの首都スカサリ―


「それで……有り体に言やぁ俺らはそのクロコス・サイエンスてな企業の悪事を大陸中に晒してぶっ潰しゃあいいんですね?」


 中央スカサリ学園の応接室に招かれた繁達は、出された茶菓子を受け取りながら学園の理事長である鯰系鰓鱗種の老人ガロン・ダンパーから今回の依頼についての話を聞いていた。


「そういうことだ。我が国フリサリダと隣国ヴラスタリは、300余年の長きにも渡る激戦の果てに和解・和睦し共存の道を歩んできた。この中央スカサリ学園とかのクロコス・サイエンスは両国の、ひいてはエレモス大陸の発展を目指さんとして両国が力を合わせて作り上げたもの。それ即ち、本学園とかの企業が有する全ては二国を繋ぐ掛け替えのない絆の証に等しいということだ」

「確かに、エレモスは元々他の五大陸で居場所を失った方々を受け入れる場所ですものねぇ。そのお気持ち察し致しますわ」

「そう、我が大陸こそは爪弾きにされたもの、逃げざるを得なかったもの達に残された最後の楽園だ。だがかの企業―クロコス・サイエンスはついにその英知と技術を悪用し始めた。先人達が守り続けてきた我らが故郷の豊富な大自然を己の私利私欲が為に弄繰いじくり回し、それらの果てに生み出した魑魅魍魎共を率いて罪無き民衆を苦しめているのだ。恐らくは技術力の誇示と創造物の試験運用を兼ねて……な」

「では新聞にあった『事件』とは……」

「月並みな話だが、クロコス・サイエンスの仕業で間違いあるまい……ところで」

 話題は変わるが、と言って切り出したガロンは、ごく自然で素朴な疑問を口にした。

「過去の放送を聞く限り貴殿らは九人組の筈だが、残りの五人は何処だ?」

 応接室に招かれていたのは、繁、香織、ニコラ、春樹の四人だけであった。


―同時刻・フリサリダの隣国ヴラスタリの首都ロディア―


「あの四人ね、チと別件入って来れなくなっちまいましてね」

「別件、ですか」


 クロコス・サイエンス代表取締役である鳥脚系地龍種ミルヒャ・ハルツを相手に先程と全く同じ流れで進んでいた応接室でのやり取りは、発言者や固有名詞、表現などが若干異なる以外は寸分も違わぬ会話内容のまま続いていた。因みに先程の口調を見れば凡そ予想は付こうが、代表取締役と話しているのはリューラである。


「そうなんですよー。いや本当すみませんね。先方の意向から詳しくは明かせんのですが、その件にゃあの四人がどうしても必要なもんで。機材の扱いは心得てますんでご心配なく」

「そうですか……いえ、依頼主様がそう仰有るのでしたらそちらを優先して頂いて構いませんわ。貴女様方の力をお借りできるということさえ、我が社にとってはこの上なく光栄なことですので」

「黄金ねぇ……重さや相場にも寄るが、そいつぁ買い被りが過ぎるんじゃありませんかね?まぁいいや。それで作戦の方なんですが、今回は案件ヤマ案件ヤマなもんでかなりの長丁場が予想されます。ひいてはそちらにも全力でのバックアップをお願いしたいわけですが……」

「ご心配には及びません。我らクロコス・サイエンスの使命は偉大なる開拓の名士メサ・エレモス氏が冥府にて安らかに過ごせるよう、この大地の平和を保ち文明の発展に貢献すること。その為ならば一切の努力を惜しみません」

「ほう……心強いじゃあねぇですかィ」


◆◆◆


 さて、ここまで読み進めて頂いた読者諸君ならばもうお判りかとは思うが一応解説しておこう。 今回、同じ土地で隣接・対立する二つの巨大組織からもう一方の組織を潰してくれとの依頼を受けた繁は、本来一塊りに動く自分達を二つの班に分け、両方の組織に荷担する事を思い立ったのである。これは所謂二重予約ダブルブッキングとか過剰予約オーバーブッキングなどと呼ばれるようなもので、ツジラジ制作陣が大人数であるが故に出来たことであった。

 無論繁はこの案件に何か裏があると踏んでおり、組織へ協力するフリをして徐々に内部事情を暴き、事態をあるべき形で終わらせようと考えていた。例えば内部に何らかの病巣(或いは黒幕)たり得る存在があるならばそれを破滅させる事で両組織を浄化し、組織全体が悪であったなら本格的に滅ぼし、どちらも悪と言い切れないならば事情に合わせて相討ちに追い込み適度に勢力を衰退させることで再び和睦に持ち込ませる。真相に合わせてある程度の"結末"を考える繁の動きには、演出家や脚本家を思わせるものがあるようでもあった。


―数日後の早朝・中央スカサリ学園高等部汎用魔術科2年M組―


「はい、そんなわけで朝礼でも校長先生から話があったように今日から新任の先生がやって来たわ。選択特別科目でお世話になる先生と産休入ったフェイリーン先生の代理だそうで、個人差あれどアンタ等も当然世話になることでしょう。くれぐれも粗相の無いよう、仲良くしてあげなさいよ冗談抜きに。今初等部の教室から順に挨拶回りしてるらしいから、多分うちのクラスには二限か三限の途中辺りで回ってくると思うの。挨拶来たら一旦授業止めるからそのつもりでね」

 ホームルーム、担任と思しき川鵜系羽毛種の中年女性教師が生徒達に言って伝える。

「あと、今日からうちのクラスに転入生来ちゃうのよね。確か有角系霊長種の女の子だっ――「女っ!?」

 教師の言葉に過剰反応しのであろう、突如ある席に座っていた細身の男子生徒(霊長種寄りの外見だが、吸盤のついた触手が複数見られる点から見て烏賊または蛸系軟体種と思われる)が勢いよく立ち上がった。

「やっぱ女子?女子なんですね先生っ!?」

「うん、まぁそうなんだけど……取り敢えず落ち着きなさい早乙女君」

「はい、先生ッ!」

 担任に宥められた軟体種・早乙女奈々(サオトメナナ)は、落ち着けと言われたにも関わらず座って尚もわざとらしく身体を揺すっている。とは言えそんな事は日常茶飯事と割り切っていた担任教師は、外で待機する転入生へ教室へ入ってくるよう促す。


 促されるままに教室へ入ってきた転入生の女学生は、黒板へ素早く名前を書き自己紹介をした。


「初めまして。櫻井揚羽です」


 元気よく名乗ったその少女こそは、まさに芽浦春樹その人であった。

転入生ってお前かよッ!?

エライ生徒引き入れちゃいました~ッッッ!

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