第二百六十二話 エレモスからの奇妙な依頼者
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―11月上旬・イスキュロンはデザルテリア国立大使館地下七階にある料亭『傘猫』の客間―
「貴殿が、ツジラ殿か」
「如何にも俺こそツジラ・バグテイルだが……アンタは?」
シーズン3の第五十八話以来実に204話ぶりの登場となる料亭・傘猫の一室にて我らが主人公と向かい合うのは、オリエンタルで神秘的な雰囲気を醸し出す獣のような装束を着た少々太めの女であった。
「自己紹介が遅れたな。私は狩野紺麗、エレモス民だ」
「エレモス?エレモスだと?謎の大陸と呼ばれ、天災が侵入者を阻む程に排他的な大陸の民が何故ここに?」
「……止むに止まれぬ事情があって貴殿らの力を借りねばならず、この地へ貴殿らを呼び付けた次第だ」
「この店の事はどこで知った?説明書でも読んだか?まさか電話帳じゃねぇだろうな?」
「以前の放送に部外者が出演していたろう?あれらの音声を解析し住所を特定、遣いの者を送り込み口を割らせたのだ」
「九条とティタヌスか……何であのややこしい音声加工を解析でき―そういやあの二人にゃ大して加工かかってなかったな……つか、何か手ェ出してねぇだろうな?」
「案ずるな。我がエレモスを除く五大陸で発売された限定品のコンビニ握りを各種三年分程贈ったに過ぎん」
「どこのゆとり毛虫だよあの猫……んで、俺に――いや、俺らに何の用だ?」
―同時刻・アクサノはセルヴァグル某所の地下施設―
「まさかまたここを訪れることになるなんて、夢にも思いませんでしたよ」
「私も同じ気分ですよ。よもや再び貴女をここへ案内することになろうとは……」
セルヴァグル市長・ムチャリンダが表沙汰に出来ない諸々の事柄―危険な分野についての研究や、隠蔽されるべき機密情報・事物の保管―の為地下に設けた極秘施設へと続く広大で薄暗い駐車場を行く、二つの人影があった。
繁の従姉妹にして頼れる参謀格の青色薬剤師こと清水香織と、セルヴァグルで児童養護施設を営む神職者・供米磨男である。
「それで、ヌグさんのヘリコプターと供米神官の車に揺られてここまで来たわけですが……一体何があったんですか?そろそろ話してくれてもいい頃合いだと思うんですけど……」
「申し訳ございません、青色殿。もう暫し、もう暫しだけお待ち下され……」
「供米神官がそう言うなら待ちますけど、一体何が……」
呼ばれた理由を知らされないまま供米に連れられ歩き続けた香織は、幾つもの通路を通り扉を潜り、一つの簡素な部屋へと辿り着く。
「では、私めはここで。時間が来ましたらお迎えに上がります」
「はい、その時はまた宜しくお願いします」
部屋を出ていく供米と入れ替わるように、白衣を着た細身の女が姿を現した。
「お久ぁ~ん」
そんな軽めの挨拶と共に何らかの器材を抱えて現れたのは、この施設に勤める若手市民・逆夜テトロであった。
「あれ、テトロさんじゃん。久しぶり」
「久しぶりだねぇ、いや本当。夏以来だからもう四、五ヶ月ぶりかな?また会えるなんて光栄だよ」
「ありがとう。それで、テトロさんの所に案内されたって事はやっぱりまた化け物絡み?それにしては投書がなかったけど」
「いやぁ、今日は依頼って訳じゃないのよ。会わせたい人が居てね」
「会わせたい人?」
「そ。まぁ直接じゃなくて、これ越しだけどね」
そう言ってテトロは抱えていた機材をテーブルの上に配置していく。形状や大きさからして、どうやら壁をスクリーンにしたプロジェクターのようである。
部屋の照明が落とされ、プロジェクターに電源が入り、細かな諸設定が完了すると、やがてスクリーンに甲虫系の外殻種と思しき大男が写り込んだ。
「紹介するよ、この人がうちの師匠の葉隠博士。訳あって某所に逃れてたんだけど今回久々にアクサノへ戻ってきたんだって」
『初めまして、マイマイカブリ系外殻種の葉隠治だ』
「此方こそ初めまして、青色薬剤師です。処女殺しの一件ではお世話になりました」
『いやいや、礼を言うべきは寧ろこっちだ。テソロサノの暴虐は俺が奴を飼い慣らせず、野放しにしちまったのがそもそもの原因。責任を負うべきは俺だったんだよ。例え奴と差し違えてでも、あの化け物を滅ぼすべきだった。だが俺は当時、その代の信帝に追放された海神教の離反勢力を相手に戦っててな』
「離反勢力?海神教にですか?」
『おぉ、そうだとも。システム上頻繁に下克上が起こるわそもそも教義自体やたら派手だわで過激な連中が多いからな、そんなもん数知れずだ。んで、そいつらの被害を最小限に抑えようと外海まで誘い出してウミワニの群れを嗾けてやったんだが、調子乗りすぎてこっちの船にまでウミワニが噛み付いて来たもんでさァてェへんだッてな。船は沈没、荷物は流され10年付き合ってた携帯も落っことし、その上台風直撃と来てもうこりゃ死んだなと思って考えるのやめちまったわけだが、奇跡的に生き残って南へ流れ、見たこともねぇ土地の奴らに拾われた。その土地こそ……エレモスだ』
「え、エレモス……ですか?」
『そうだ。あとの話は解るだろ?』
「つまり、私達にエレモスへ出向き何らかの事件を解決せよ……そう言いたいのですね?」
『そういう事だ。まぁ詳しくは後々話すとして、ひとまず飯でも食ってリラックスしようや』
次回、繁達が今までにない動きを見せる!?