表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン6-エレモス編-
261/450

第二百六十一話 事の起こりは第六の大陸で






まずは前座から

―ある日・エレモス中心部の大国ヴラスタリが首都ロディアにて―


他大陸そとの連中にとっちゃあ学術と言えばラビーレマやアクサノの名を挙げるでしょうが、我がエレモスも負けてはいません」

 如何にも思わせぶりな黒の垂れ幕をバックに、コトドリ系と思しき羽毛種の男が饒舌に言葉を紡いでいる。

「我が大陸は他と競い合うことこそ出来ませんが、仮にそれができたならばことこれでは負ける気がしない分野があります―――遺伝学です」

 会場に招かれた来賓達は、男の喋りに聞き入っていた。

「厳密には遺伝学及びそれに関連する分野全般―例えばクローニングや動植物細胞の組織培養などですね。ひとまずこれをご覧下さい」

 男の合図に合わせて落下した垂れ幕の向こうから、水族館で使われるような分厚いアクリル硝子の水槽が姿を現した。その中は水で満たされ、内部ではグロテスクと思えるほどに奇々怪々な水棲生物が思い思いに動き回っている。

 その姿を見た来賓の中から、驚きの声が上がる。一概に驚きの声と言っても単純に驚いた者ばかりではなく、水棲生物の姿を気味悪がった者や、逆にそれらの姿を魅力的に思った者、或いは恐れた者など、声に含まれる感情はピンキリである。

「ご覧下さい、これこそ我がクロコス・サイエンスの優れた遺伝子工学技術を象徴づける存在です。詳しくはお手元の資料を御覧あれ。我が社の最先端技術が如何に優れたものであり、それらにどれ程の可能性が秘められているのかを手に取るように御理解頂けるでしょう」


―また別の日・隣国フリサリダが首都スカサリにて―


「只今より、第1061回中央スカサリ学園生徒・職員受賞式を行います」


 その日、中央スカサリ学園の円形大講堂は荘厳な空気で満たされていた。文字通り寸分も狂いのない完全な円筒形をした広大な空間の中央には国旗と校旗を掲げた直結3m、高さ5cm程の壇が備わっており、それらを取り囲むように配置された客席は周辺各国を代表する多種多様な来賓達で満たされている。


「名誉学生賞、授与ッ!西欧武術科三年、ルラキ・カリストッ!」

「はいッ!」


 壇上に立った鯰系鰓鱗種の老人が髭を振るわせながら叫ぶと、名を呼ばれた有角種の女生徒が腹の底から自信に満ち溢れた声で返答。凛々しい足取りで壇上へと歩んでいき、老人もとい、学園の理事長と対面。互いに一礼した後、理事長は賞状の文面を読み上げる。


「賞状。第1061代中央スカサリ学園名誉学生賞。西欧武術科三年S組 ルラキ・カリスト殿。

貴殿は本年の当学園に於いて、在籍学生として数多の華々しい実績を打ち立て、学園の伝統保持並びに生徒・職員の士気向上に尽力してくれた。よってその栄誉を讃えると共に、記念品としてこの宝剣を贈りこれを賞すものとする。

名士歴1522年11月29日 中央スカサリ学園理事長 ガロン・ダンパー ……よくぞやってくれた」

「有り難う御座います」

 無駄のない動きで賞状を受け取ったルラキ・カリストは、深々と一礼するとその場から去っていった。


―解説―


 ヴラスタリフリサリダ。名実共にエレモスの中心と言えるこれら大国二つの間には、その昔大小様々な形で小競り合いが絶えず起こっていた。その流れは今でこそ沈静化し、二つの国は二人三脚で助け合いながら発展の道を歩みつつあるが、両国をそれぞれ代表する二つの組織は、今も互いを破滅させんと機会を狙っている。

 ヴラスタリ首都の石榴ロディアに小都市規模の敷地を持つ大企業『クロコス・サイエンス』と、フリサリダ首都の甲虫スカサリにこれまた小都市規模の敷地を持つ教育機関『中央スカサリ学園』である。

 魔術師と学術者が手を取り合って設立された為に魔術と学術が併用された技術を駆使する似たもの同士の両者は、これまた似たような代物で比類無き力を誇る存在として、表裏を問わずエレモス社会では名の知れた存在であった。

 これら二つの組織にはまだまだ語るべき事が多いのだが、前シーズンの反省点を踏まえて解説はまたの機会小出しにさせて頂く(と、予定はしているが実際どうなるかはまるで不安定なので注意されたし)。


―またまた別の日・フリサリダの片田舎にある集落―


「あら真壁君、調子はどう?」

「あっ、高宮警部。僕は何時も通りですけど、こっちは前より酷くなってますね……」


 女物の黒スーツを着こなす豹系禽獣種と思しき細身の中年女・高宮の問いかけに、真壁と呼ばれたヤモリ系有鱗種の青年は顔を顰めながら答えた。先程の台詞から解るとおり警察関係者であるこの二人は現在、とある事件を追っていた。"未確認超存在襲撃事件"――警察本部は、単純ながら不可解な点も多い本件をそう名付け、専門家などを集めた捜査本部を設立し解決に向かっていた。

 最初の事件発生は先月9月―南半球にあるエレモスでは単純換算で丁度3月にあたる時期―の中旬、ある集落の住民が何者かによって一晩にして皆殺しにされ、住居や倉庫などの建造物も破壊し尽くされるという事件が発生。目撃証言がなく当初は近隣に潜む暴漢や盗賊などの犯行と思われたが、近辺での捜査結果や損害の規模などからその可能性は限りなくゼロに近いと判明。大型肉食獣や竜種などの野生動物に襲われたのではとも思われたが、専門家に協力を要請し捜査を進めたところ『死体に補食の痕跡が見受けられない』『倉庫の食物や家畜が食べられたような形跡も皆無』『破壊の規模や方法からして野生動物とは考えがたい』などの不審な点が浮上し仮説は否定された。

 そうこうしている内にも謎の存在による集落襲撃は多発し、やっと得られた目撃証言も曖昧で上層部から証拠不十分と見なされるなど捜査本部の受難は続き、今となってはほぼ迷宮入りのまま捜査が続行されているに等しい状況であった。


「それにしても相変わらず酷い有様ね……」

「全くですよ。一体何がここまでの事をやってんだか……」

「……陰謀だったりしてね」

「やめてくださいよ、そんなバカみたいな事言うの。今日日陰謀論なんて漫画の中でも鼻で笑われるのがお決まりになってきてるってのに……」

「そりゃそうよね。まぁ今のは冗談なんだけど、冗談にしても笑えないわね」

「そうでしょう?まぁ、こんな解決の糸口どころか犯人像さえも掴めてないような事件を捜査してる僕らの方が、よっぽどお笑いかもしれませんが……」

次回、繁達は早速海外に(でもエレモスじゃないよ)!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ